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花に愛を。心からの愛を。

▼緊急事態宣言下、あまり目立たなかったが、読んで心が痛む記事があった。2020年4月25日付の日本経済新聞から。

来園止まらずチューリップ刈り取り/千葉県内の公園で見ごろを迎えたチューリップの刈り取り作業が進んでいる。新型コロナウイルスによる外出自粛要請後もチューリップ目当ての来園者が後を絶たず、管理者側は苦渋の決断を迫られた格好だ。

佐倉市は「佐倉ふるさと広場」に咲いた100種類、80万本のチューリップを刈り取った。外出自粛要請を受け、市の一大イベントでもある「チューリップフェスタ」を中止。一部の入り口にバリケードも設置したが、多いときは約400人が同時に滞在するケースもあった。〉

▼80万本ものチューリップを刈り取らざるをえなかった、係の人たちの心の痛みを思う。

▼もう一つ。4月29日付の毎日新聞1面に、〈満開のフジ 無残〉という見出しとともに、刈り取られるフジの花の写真が載っていた。記事は、毎小ニュースから。もとの記事はすべての漢字にフリガナがふってある。

〈福岡県八女市にある国の天然記念物「黒木の大藤」のフジの花が28日にち、刈り取られました。新型コロナウイルスの感染が広がる中、花見客が集中するのを防ぐためです。

 大藤は室町時代に植えられたとされ、幾多の戦乱をくぐり抜け、今年も美しい紫色の花をつけました。1メートルを超える花房は今が見ごろでしたが、見物客が後を絶たないことを受け、苦しい対応となりました。

 訪れた人たちは名残惜しそうに、地面に落ちたフジの花を持ち帰っていました。〉

▼小学生に「幾多」は難しいのではなかろうか。

▼さて、日本人は花を愛する民族だ、とか、国民性だ、とかいう言説があるが、はなはだ心許(こころもと)ないものだということがわかる。

チューリップを見るために公園に殺到した人々は、その後、自分の軽挙妄動のために花がすべて刈り取られたニュースを知って、どう思ったのだろう。「きれいなチューリップだったね」「私たちは見れてよかったね」と言い合って、おいしい夕飯の話題にでもしたのだろうか。さもしい指使いで撮った写真を、インスタグラムにでもアップしたのだろうか。

世の中には、美しいものを見た人の心が思いのほか貧しく、美しいものを見なかった人の心に、豊かな何かが秘められている、という場合がある。

(2020年5月28日)

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