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岡村隆史氏の女性蔑視(べっし)発言が日本社会では許される件

▼もうひと月以上経って、忘れている人も多いのでメモしておこう。

2020年5月9日付の朝日新聞夕刊から。

〈岡村さん発言 批判と懸念/ネット投稿「貧困前提の風俗肯定」/働く人「公に『うれしい』と発信驚き」「女性が『堕ちる』には違和感」〉

〈お笑いコンビ・ナインティナインの岡村隆史さんがラジオ番組で「コロナが明けたら可愛い人が風俗嬢やります」などと発言したことが、「人の不幸を喜ぶのか」などと批判を浴びて炎上した。一方で当事者のセックスワーカーの間には、こうした反響が二重の差別を生むとの懸念もある。〉

▼ニッポン放送「オールナイトニッポン」での岡村氏の具体的な発言は、リスナーから、コロナの影響で性風俗店に行けない、という投稿があり、それへの反応だった。

「(コロナが)収束したら面白いことある。可愛い人が、短期間ですけれども美人さんがお嬢(風俗嬢)やります。お金を稼がないと苦しいですから」

▼さまざまな反応があったわけだが、〈セックスワーカーらの支援団体「SWASH」の要友紀子代表は、「発言の不快感をめぐり、セックスワーカーは社会の犠牲者か、労働者かという人々の対立が激化した。乱暴な二者択一を迫る踏み絵は当事者にも伝染し、互いの犠牲者性、労働者性の分断を強いられた」と話す〉という指摘が的を得ていた。

▼岡村氏が謝っただけで許された理由として、3つ考えてみた。

▼1つ、「深夜ラジオだから」許された。

▼2つ、「芸能人だから」許された。

▼3つ、「同じように思っている人がとてもたくさんいるから」許された。

▼3つ挙げてみて、1は弱い気がする。2は、あるかもしれないが、少し弱いと感じる。やはり3が大きいのではないか。

▼筆者はこのニュースを知って、一言でいうと「反吐(へど)が出る」ようなムカムカした気持ちになった。しばらくして、岡村氏が謝罪して、それで済んだことに、率直に驚いた。さらに、NHKの人気番組「チコちゃんに叱られる!」も続投することに、もっと驚いた。

▼たとえば、民放で一番人気のあるTBSの安住アナウンサーが深夜ラジオのパーソナリティーをしているとして、同じような発言をしたら、おそらく担当している番組から外されるだろう。もしくは、NHKのラジオ深夜便のパーソナリティーが同じような発言をしたらーー両方とも、そもそもそんな投稿が読まれること自体、まったくありえない想定なのだがーーそのパーソナリティーはおそらく二度とニュース原稿を読むことはないだろう。

岡村氏は、なぜそうならなかったのか。「責任をとる一人前の人間」として扱われていないからだろう。「世間からバカにされているから」ともいえる。今回の岡村氏の発言によって、世間は芸能人を「下」に見ていることがあらためて可視化された、といえる。

▼と、これが2つめの理由案だが、3つめのほうが、やはり説得力がある。「みんな、そう思っているから」許されたのだろう。とんでもない話だが、これが日本社会の現実だ。だとしたら、NHKの「チコちゃん」に出続けることができるのも、了解可能だ。

▼「チコちゃん」は、「今こそ全ての日本国民に問います」というフレーズを繰り返す、日本国籍を持っている人だけを対象にした番組である。

だから、貧困ゆえに「美人さんがお嬢をやる」社会状況に面白みを感じ、その旨を公共の電波で放言する人間が、5歳の女の子の隣で、嬉々(きき)として番組MCを務めるキャスティングは、とても日本的なセンスであり、経済的に豊かな国の「国民的な人気番組」にふさわしいといえる。

麻生太郎副総理の最近の発言を参考にすれば、日本国民の「民度」に合ったテレビ番組だ。

(2020年6月9日)

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