人類は今、インフォデミックの耐性を鍛えている件(1)
▼「情報」informationと「伝染」 epidemicをくっつけた、「インフォデミック」(情報の伝染)という言葉がある。今号と次号は、日本経済新聞の記事を通して、この「インフォデミック」について考える。
▼筆者は、幸か不幸かSNSをほとんど使わない。だから下記のような社会の動きをまったく知らなかった。2020年4月2日付の日本経済新聞から。(寺井浩介、兼松雄一郎記者)
〈「東京封鎖」投稿544万件/偽ニュース、SNSで一気に拡散/不安増幅、経済に混乱も〉
〈「4月1日から東京がロックダウン(都市封鎖)される」――。3月下旬からSNS(交流サイト)上で、新型コロナウイルスに関する偽ニュースがまことしやかに拡散した。出所も真偽も不明なまま、爆発的に広がる例が多く、実体経済に混乱をもたらすケースも出始めている。情報共有を容易にする便利なSNSだが、使い方次第で社会の不安を増幅する要因にもなりかねない。〉
▼具体的には、「明日にも安倍総理の緊急会見があり、4月1日ロックダウンの発表があるそうです。テレビ局関係者の情報です」とか、
「ロックダウンは事情通の電通の人が言っていた。周りにも知らせて」とか、
「議員秘書から聞いた」とか、
「経団連情報です」とか、
怪しい投稿が猛烈な勢いで拡散した。これらのデマには〈安倍首相の会見日程など一定の事実が含まれていたことで、信ぴょう性のある情報として拡散が早まった〉そうだ。
▼菅官房長官が、ロックダウンなどない、と記者会見で言及したというニュースを見た時に、なんでわざわざそんなことを言うんだろう、あるはずないのに、とチラッと気になったが、まさかSNSでそんなことが起きていたとは知らなかった。
日本の法律では、ロックダウンなどやりたくてもできない、あり得ない話なのだが、少し事実をまぶせば、大の大人が、いとも簡単に騙される、という現実を炙(あぶ)り出す出来事だった。
▼と括(くく)ってしまえれば、簡単なのだが、そういう単純な話ではなさそうだ。
▼この記事に、興味深いコメントが載っていた。九州大学准教授の成原慧氏いわく、
「健全なデマ否定も副作用としてもともとのデマを拡散させてしまうことがある」
▼つまり、デマ蔓延(まんえん)の原因は、デマが出回っているばかりではないのだ。まさにこのコメントどおりの事態が他にも起こっている。(つづく)
(2020年4月6日)
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