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読売新聞の「ジャングルポケット」斉藤慎二氏へのインタビューが素晴らしい件

▼読売新聞の連載「STOP自殺 ♯しんどい君へ」が素晴らしい。特に、2020年7月3日付に、お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二氏のインタビューが載っていた。出色の内容である。37歳。

3〈無理に笑わなくていい/つらいとき 誰か頼って〉

斉藤氏がいじめに遭ったのは小学生の時だ。

電子版の冒頭は、紙の新聞には載っていない、次の言葉で始まる。

〈小学3年生から中学生の頃まで、いじめを受けていました。生きていることがつらくて、絶望しかなくて、首をくくろうとしたこともありました。だから今、苦しくて悩んでいる君に、「この先、楽しいことが待っている。頑張ろう」なんて軽々しくは言えません。

▼いじめの内容は凄絶で、担任の先生まで加担していた。

クラスで僕1人だけ誕生会に呼ばれなかった時もあります。教室で泣いていたら、担任の先生から事情を聞かれました。先生は「斉藤くんにも原因があるかもしれないね。聞いてみよう」と言いました。僕はクラス全員から順番に、「気持ち悪い」「チビ」などと文句を言われました。

▼これまでも何度か書いたが、「いじめ」は、いじめられる側に責任は一切ない。「いじめる側」だけに責任がある。もしも斉藤氏が「チビ」だったとして、なぜそれが「いじめていい原因」になるのか。

ぜんぶ、いじめる側の醜(みにく)い戯言(たわごと)である。

▼「いじめ」の問題を扱った記事を読むと、そもそも「いじめ」という言葉を使わないようにしたほうがいいと思うことがよくあるが、斉藤氏の経験も、そう思わせるものの一つだ。

給食をよそってもらえない時期もありました。授業中、「姿勢が悪い」と彫刻刀で背中を刺されることが続いた時には、血が出ても親や周囲に悟られないように、黒い服を着ていきました。

▼背中を彫刻刀で刺すのは、犯罪であり、具体的には傷害罪である。

▼斉藤氏が自分の部屋で自殺をはかった時、たまたま家にいた一歳年上の兄が気づいた。

「何やってるんだ。死んだら全てが終わる。絶対、時間が解決してくれるから」と叱られました。

その兄も、斉藤氏自身も、共働きの両親に心配をかけたくないから、両親にはいじめのことは黙っていた。

振り返ると、僕も兄も完全に間違っていました。親に早く相談するべきだった。悪いのは、人を平気で傷つけるやつらの方なんだから。

▼斉藤氏の場合、幸い、高校に進学して、それまでの人間関係をすべて断つことができて、いじめは終わった。さらに、演劇が好きで、「役になりきれば自分じゃない誰かになれると思って」演劇から笑いの道に入った。そして売れた。成功した一握りの人たちのなかに入ることができた。

斉藤氏のラストの呼びかけを読んで、筆者は泣きそうになった。

〈もし、つらいこと、苦しいことがあったら、何かの機会を見つけて僕に直接、相談してほしい。一人ひとり、悩みも状況も違うと思います。僕は、自分を押し殺して耐えてきた時間が長かった分、君の痛みがほかの人よりも分かると思う。この人なら自分のことを話せるという存在になりたい。君の悩みに真摯(しんし)に向き合い、力になりたいと心の底から思っています。

僕はこれからも芸能界で頑張っていきます。皆さんに笑いを届け、少しでも勇気を与えられる存在になれたらうれしいです。

▼いい記事だ。笑いの世界で生きている人のインタビューなのに、〈無理に笑わなくていい〉という見出しをつけたところに、今いじめられている人への愛がにじんでいる。

(2020年7月15日)

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