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「緊急事態宣言」は5月6日で終わらなさそうな件(3)「地域力」の差

▼2020年4月11日のNHKスペシャル「新型コロナウイルス最前線の攻防」で、専門家会議・クラスター対策班の押谷仁氏は、解決のカギは「地域力」だ、とコメントした。

この「地域力」について、考えさせられたニュースを3つ紹介しておく。

■医療崩壊は地方都市から起こるかもしれない

▼ひとつめ。

新聞の便利なところは、広い紙面を使った一覧性をはじめ、いろいろあるが、その一つが地図や表、グラフである。

2020年4月18日配信の共同通信記事。

〈8都府県で病床の空き20%未満 院内感染や人手不足も深刻〉

〈新型コロナウイルスに対応できる病床が感染者で埋まり、東京都や大阪府、滋賀、沖縄両県など8都府県で、空きが20%未満となっていることが18日、共同通信の調査で分かった。緊急事態宣言の対象に追加された地方都市でも、病床が逼迫している。院内感染も相次ぎ、全国の医療機関でマスクや人手の不足が深刻化していることも判明した。

 8都府県はほかに石川、兵庫、香川、福岡の各県。地方都市ではもともと病床数や医療従事者が少ない。ひとたび感染爆発が起これば必要な治療が行えず一気に医療崩壊につながる恐れがあり、体制整備が急務となる。

■香川県は「あと3人」でベッドが足りなくなる

▼肝心なのは、この記事に付いていた表だ。

〈空き病床が20%未満の自治体〉

を一覧にしている。とくに各府県の「確保病床」、つまり、ベッドの総数を、東京と比べながら、見てほしい。

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▼まず、東京の確保病床が2000。空きベッドの割合はマイナス25%。つまり、すでに医療崩壊が起きていることがわかる。大阪も兵庫もマイナスに陥っている。

▼ここで見たいのは、滋賀、香川、沖縄の確保病床だ。入院患者を「分子」とすると、確保病床は「分母」にあたる。滋賀の「分母」は49床、香川の「分母」はわずか24床しかない。圧倒的な数の違いがある。

▼2000床の東京は、入院患者が「2000人」で「100%」になる。

しかし、香川の場合、「24人」が入院するだけで「100%」になってしまう計算だ。「空床割合」が12.5%といっても、「あと3人」ということだ。

東京都内で、救急搬送の受け入れが100を超える病院に断られたとか、受入れに何時間もかかったとか、ニュースになっているが、地方都市の場合、そんなことは起こらない。そもそも、そんなに病院がないからだ。

科学は、ときに残酷だ。「地方都市のほうが、大都市よりも先に医療崩壊に陥る可能性がある」という説の現実味が、この表を見ると心に迫ってくる。

▼緊急事態宣言が全国に広がってから、「コロナ疎開」という言葉も一気に広がっているが、岩手では県外の客お断りの店もある。山形は県境で検温を始めた。

大都市と地方都市との確執(かくしつ)が生じ始めている。これからが長丁場である。人気テレビ番組の「秘密のケンミン SHOW」が、これからも続くことを願う。

▼大都市と地方都市とを比較する上の表を見て、アフリカの国々のことを想起した。これは稿(こう)を改める。

■「ガウン」の代わりに「ゴミ袋」を使っている

▼ふたつめ。これも、表がものをいう記事。2020年4月19日付の北海道新聞から。

〈防護具不足「院内感染の恐怖」 ごみ袋で代用「現場は限界」〉

〈病院で使う医療用マスクやガウンなど新型コロナウイルスの感染防護具の不足が深刻だ〉という記事だ。

〈政府は先行して緊急事態宣言が出された7都府県に対し、4月中に医療用のサージカルマスク約1千万枚などを配布する。補正予算案ではサージカルマスク約2億7千万枚、密閉性の高いN95マスク約1300万枚、ガウン約4500万枚、顔全体を覆うフェースシールド約900万枚などを購入する。

 一方、日本医師会(日医)の試算によると、全国の医療機関で1カ月に必要なサージカルマスクは4億~5億枚、N95マスクやガウン、フェースシールドはそれぞれ約3千万枚が必要で、不足の解消にはほど遠い。さらに、品不足から「買い上げる時期のめどが立っていない」(厚労省)という。〉

▼ここで見る表は、厚生労働省が4月上旬に示した、「防護具の代わり」になるものの一覧である。

〈不足は2月ごろから既に指摘されていた。厚労省関係者は「需要の見通しが甘かったかもしれない」と打ち明ける。〉

どういうものが代わりになるのか。

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▼筆者は、この一覧に出てくる「酒」とか「雨がっぱ」とか「シュノーケリングマスク」とかの言葉を見て、かつて太平洋戦争下、子どもたちが「竹槍」を突く練習をさせられたり、空襲から逃げることを法律で禁止されていた人々が、「バケツリレー」をさせられたり、という悲惨な歴史を思い出した。

■可児市の「地域力」の例

▼押谷仁氏はまず、最大の武器は「想像力」だと訴えた。そのことは、すでに紹介した。

〈武漢で自らの結婚式を延期して患者の診療にあたっていた青年医師が死亡したことが報道されている。

どれだけの日本人が彼の無念さを想像できているのだろうか。〉

▼もう一つ、押谷仁氏がNHKスペシャルで挙げたのが、「地域力」だった。2020年4月12日付の岐阜新聞から。

〈「夜の街」調査難航 素性ばれる...検査拒否も〉

〈岐阜県内の新型コロナウイルス感染者が11日、100人を超え、106人となった。感染者のうちクラスター(感染者集団)の関連は3集団で計57人に上り、急増に歯止めがかからない状況だ。中でも岐阜市のナイトクラブ「シャルム」で起きたクラスターは「夜の街」を舞台とする背景から調査が難航。従業員や客の一部から十分な協力が得られないケースもあり、担当者が頭を悩ませている。

 「従業員の1人は依然、検査を拒否している」。市の担当者は重苦しい口調で語った。シャルムは3月31日に最初の感染者が確認されて以降、11日間で29人まで拡大、県内最大のクラスターとなった。

 シャルムの客の人数や感染者の濃厚接触者の人数など、重要な情報の把握が「追い付いていないところがある」と担当者。関係者の協力が十分に得られない苦しい現状を吐露する。

 ある職員は「接待でも使われる高級店。来店したことを明らかにしたがらない人もいる。客の把握は容易じゃない」と明かす。別の職員は「従業員の中には、素性を明かすことに抵抗がある人もいて、『夜の街』ならではの調査の難しさがある」と漏らす。岐阜市内では肉料理店「潜龍(せんりゅう)」のクラスターの調査も継続中だ。

 市の相談窓口には多い日で260件超の問い合わせがあり、職員は忙殺されている。中には「感染者がどこに住んでいるか教えろ。(自分が)感染したらどう責任を取るんだ」と強い口調の電話もあり、対応中に泣き出す職員もいるという。深夜2時ごろまで業務に当たる職員もおり「疲労はピークに来ている」との声も上がる。

 調査は、感染状況を把握し、いち早く感染者を見つけて新たな感染拡大を防ぐために重要だ。10日に終息宣言が出た可児市のクラスターの調査では、感染者が利用していたスポーツジムなどの協力もあり、県が主体となって約300人もの検体検査を実施した。

県によると、国のクラスター対策班は「ここまで積極的で迅速に行ったクラスター対策は全国にもあまりない」と高く評価したという。

 岐阜市は感染症対策の専門チームを立ち上げて担当職員を増やし、感染者の行動歴の調査などに力を入れている。担当者は「人の命と健康を守るのが保健所の最大の務め。調査を進めるためにも、市民には冷静な行動を心掛けてほしい」と話している。〉

▼集団感染が発生すると、クラスター対策班がその地域に急行するそうだ。もっとも、クラスターが増えすぎると、対策班は人手が足りないので、麻痺(まひ)してしまう。

押谷氏はNHKスペシャルで、ある地方都市では行政や医師たちが上手に連携して対応している、とコメントしていた。「地域力」というキーワードは、その文脈で出てきた。

おそらく可児市は、押谷氏のいう「地域力」が高い地方都市の一つだ。

▼可児市のクラスターはいったん終息した。同じく岐阜新聞の4月11日配信記事から。

〈可児市のクラスター「終息宣言」〉

〈岐阜県は10日、新型コロナウイルスの感染拡大が起きた可児市のクラスター(感染者集団)の「終息宣言」を出した。ウイルスの潜伏期間とされる2週間、スポーツジムなどで新たな感染者が確認されなかったため。厚生労働省のクラスター対策班と県の専門家会議が「終息と評価できる」と判断した。

 クラスターは、3月22日に最初の感染者が確認された。合唱団とジム利用者など、県外の4人を含め計18人への感染が確認され、全員が入院。うち1人が死亡し、1人が退院した。県などは、合唱団やジム利用者など計303人に及ぶ検体検査を10日までに行ったほか、感染者の行動歴などを調査し、感染経路の把握を進めた。

 可児市の冨田成輝市長は「県や医療機関などの関係者や、市民による全力の対策と協力に感謝する。県内の状況はさらに厳しくなっており、今後も気を緩めることなく感染拡大防止に努めたい」などとコメントを発表した。〉

▼岐阜県のホームページに、

患者発生(クラスター)状況図4月19日19時現在

があり、その最後に可児市のクラスター図が載っていた(別紙2)。ただし、どうやってこの緻密(ちみつ)な図を作ったのか、その経緯と工夫はわからない。

■「地域力」の深掘り、調査報道を

▼緊急事態宣言下、高い「地域力」を発揮している地方都市が幾つかあるはずだ。それらの都市の「成功の特徴」を調べて、それらの「共通点」を炙(あぶ)り出すような深堀り、調査報道を、どこかのメディアにぜひ取り組んでほしい。

クラスター対策班に短時間取材し、そのうえで、その都市のキーパーソンに取材することで、深堀りは可能だ。

その記事は、厳しい現実ーー地域力の差ーーを映し出すかもしれないが、間違いなくコロナの第3波、第4波を抑える力を持つ。

(2020年4月19日)


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