ゴーン氏逮捕の謎ーー有価証券報告書とフランスの国策

▼日産自動車の顔であるカルロス・ゴーン氏がいきなり逮捕されたニュースには、不思議なことが多い。二つメモしておく。まず、2018年11月20日付の朝日新聞から。

日産ゴーン会長逮捕 報酬50億円過少記載容疑 東京地検特捜部、司法取引適用/2018年11月20日05時00分〉
〈東京地検特捜部は19日、日産自動車(本社・横浜市)の代表取締役会長カルロス・ゴーン容疑者(64)と同社代表取締役グレッグ・ケリー容疑者(62)を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕し、発表した。両容疑者は、ゴーン会長の報酬を約50億円少なく有価証券報告書に記載した疑いがある。特捜部は認否を明らかにしていない。特捜部は同日夕、日産の本社など関係先を捜索した。押収した資料などの解析を進める。〉

▼有価証券報告書は、会社としてつくるものであり、個人がつくるものではない。だから虚偽記載があれば、まず会社と、監査法人が責任を問われるはずだ。なぜゴーン氏個人がいきなり東京地検特捜部に逮捕されるのか、意味がわからない。

ゴーン容疑者が報酬名目で約99億9800万円を受け取りながら過少に記載するように指示したとは考えにくい。監査法人もすぐに気付くはずだ。差額分の約50億円は会計帳簿上、別の名目で支出されていたと思われる。/その場合、立証のハードルは高い。有価証券報告書への記載は、年間1億円以上の報酬を受け取った役員名と金額などが義務付けられているだけで、記載すべき報酬の基準は不明確だ。「実質的な報酬」と評価できるとしても、それを記載すべきだといえるのか、ゴーン容疑者が記載しなければならないと認識しながら故意に記載しなかったといえるのかが問題となる。〉(元特捜部検事の高井康行氏、11月23日付読売新聞)

▼11月26日付の朝日には以下の記事が。〈適用された罪名は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)。代表取締役だった側近のグレッグ・ケリー容疑者(62)と共謀し、2010~14年度の5年分の自らの役員報酬について、毎年約10億円、計約50億円を記載しなかったという容疑だ。/同罪はこれまで、企業が業績を良く見せかける粉飾決算事件で主に使われてきた。役員報酬の非開示を対象にするのは初めてだ。/一連の経緯を知る会社関係者は「形式犯だ」と指摘し、「ゴーン前会長ほどの人物をこれで社会的に抹殺するのはいかがなものか」と疑問を示す。

▼もう一つは、2018年11月25日付日経新聞の以下の記事を読んで「え、そういうことなの?」とびっくりした。〈(フランス大統領の)マクロン氏の「フランスファースト(フランス第一主義)」ともいえる政策を遠因に、日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン容疑者が逮捕された……日産をルノーの完全子会社にし、生産拠点をフランスに移すーー。伝えられるマクロン氏の構想からは、日産の企業価値を増やすより、フランスの産業振興や雇用創出を優先する「国策」の面が強く見て取れる。〉という桃井裕理・政治部次長の記事だが、「フランスの国策」が「日本によるゴーン逮捕」を招いたと書いている。

会社の内紛に特捜が介入したのか、もっと大きな構図があるのか、謎が多い逮捕劇だ。また、海外からみれば、日本のマスメディアの殺到の異常さや、非人道的な拘留など司法制度のひどさが問題視されるだろう。

(2018年11月27日)

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