見出し画像

「自粛警察」が大挙して抗議すべき格好の相手がいる件

▼日本社会の同調圧力が、とても醜いかたちで現われた好例が「自粛警察」だ。彼らの言動は迷惑千万だが、自粛警察を任ずる人たちが狙うべき、格好の相手がいることについてメモしておく。

2020年7月20日配信の時事通信記事から。適宜改行と太字。

〈感染者数、ブラックボックス化 在日米軍10万人、沖縄は「例外」〉

〈沖縄県などで米軍関係者の新型コロナウイルスの感染者が相次いでいる。

日本には5万人余りの米兵士がおり、その家族を合わせると約10万人が駐留する。米軍は、沖縄の感染者数の公表を例外的に容認したが、他の在日米軍基地の状況は市民にはうかがい知れず、ブラックボックス化している。

〈政府は新型コロナ対策で米国人の入国を拒否しているが、米軍人は日米地位協定9条の「合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される」の規定に基づき、入国を認めている。その家族も別の日米の取り決めにより入国が可能だ。

米国防総省は3月30日に安全保障上、米軍の運用に影響を与える恐れがあるとして、各基地の感染者数を対外的に公表しない指針を示した。防衛省によると、在日米軍基地の場合、感染者が出れば、米軍から同省や地元保健所に情報提供されるが、米軍の同意がなければ公表できない。

青森県では今月、米政府チャーター機で三沢基地に到着した米軍関係者から陽性反応が確認されたが、人数などの詳細は公表されていない。神奈川県の厚木基地でも感染者が出たが詳細不明だ。

米軍関係者のクラスター(感染者集団)が発生した沖縄県では、玉城デニー知事が11日、在沖米軍トップのクラーディ四軍調整官と電話会談。同調整官から「県が公表することは妨げない」との回答を得て、感染者数の公表に至った。

米軍基地を抱える都道府県で構成する渉外知事会は、国に対して、「在日米軍基地での新型コロナ感染症の発生状況や米側の措置について、積極的に公表されるよう米側に働き掛けてほしい」などと要望している。

河野太郎防衛相は記者会見で、在日米軍の感染者総数も含め「米軍の即応性を維持する観点から(感染者数の)公表を差し控えている。沖縄県のような例外的な場合を除いて、公表するつもりはない」としている。〉

▼この記事を一読して思ったのは、はたして沖縄は例外なのだろうか。三沢基地のある青森は? 厚木基地のある神奈川は?

▼いわゆる「自粛警察」としてストレスを解消している人は、決して在日米軍に「基地を閉鎖しろ」とは抗議しないだろう。近所のお店よりも、全国にある在日米軍基地のほうが、はるかにコロナウイルスを拡散する可能性が高いにもかかわらず、そちらには矛先を向けない。

なぜなら、自粛警察は、弱い者いじめしかできない、何かに怯(おび)え続ける群れにすぎないからだ。

所詮、自分より弱い者を相手にしか、力を行使できない人間には、狙うべくもない相手だ。しかし、自粛警察を任ずる人たちの、百害あって一利なしのエネルギーの無駄遣いを、厚顔無恥な在日米軍への圧力に使えたら、それは結構な国益になるかもしれない。

▼琉球新報の2020年7月12日付の社説が、至極まっとうな論陣を張っていた。もう1週間も前のことだ。

〈米軍でコロナ61人 全ての基地を封鎖せよ〉

〈在沖米軍基地で7月7~11日に新型コロナウイルスの感染者が61人に上っている。前日の16人から11日は45人と約3倍に感染した。県は米軍普天間飛行場とキャンプ・ハンセンでクラスターが発生したとみている。

 問題は当事者である米軍が感染者の行動履歴やプロフィル、感染者や濃厚接触者の措置状況などを明らかにしないことだ。これらは感染拡大防止に不可欠な情報で、県民の命と健康に関わる問題だ。

 日米には感染症発生などの場合に米軍と県が情報交換するという覚書がある。にもかかわらず、必要最低限の情報すら出さないなら、全ての在沖米軍基地をロックダウン(封鎖)して米軍関係者の移動を止めるべきだ。県民を感染から守るにはそれしかない。

▼まったくその通りだ。筆者はこの提言に賛成する。

〈日本では新型コロナの感染者が出た場合、都道府県がその当日に患者のプロフィルと行動履歴、感染経路、検査に至った経緯―などを公表する。そこから濃厚接触者を特定するなど疫学調査を行い、防止策につなげる。

 米国は感染者が300万人台で世界でも群を抜いて多く、各地で米軍関係者の感染者が相次いでいる。しかし米国防総省は3月、軍の運用能力を推測されないためとして、基地や部隊ごとのコロナ感染者数などの情報を発表しない方針を示した。

 日米が2013年に交わした覚書では、感染症などが判明した場合、海軍病院と地元の保健所で相互に通報することが定められている。しかし、県によると、感染者に関して全ての情報を得ているわけではないという。米軍が軍の運用を優先し、地域社会に情報を適切に開示しないのは、県民の命と健康を軽んじていると言わざるを得ない。

▼日米両政府で交わした覚書が、この最も守るべき時期に、守られていないわけだ。しかし、軍は原理的に軍を守る存在であり、自国の国民を守らない。ましてや異国の国民を守るつもりはない。だから米軍の対応はごく自然なものだ、ともいえる。

〈夏の異動時期で多くの米軍関係者が来沖している。民間機で那覇空港を利用する人も多い。米海兵隊は海外から来た人は14日間の隔離措置を取っていると説明するが、その取り組みが徹底されているかどうか基地外から検証するすべはない。

 実際に独立記念日などに大勢が密集して騒いでいる様子が各地で目撃されており、日本人も参加していた。さらに米軍は地元に説明もせず基地外の民間ホテルを隔離施設にしており、地域の不安を生んでいる。

 米軍は両基地をロックダウンしたとしているが、コロナは嘉手納など別基地でも発生している。ロックダウンの対象は全基地だ。県は空港でのPCR検査を米軍関係者を含む来県者全員に実施するなど水際での発見に全力を尽くすべきだ。

 3月に嘉手納基地で3人が感染して以降、米軍は感染拡大を阻止できず、日本政府は米軍の方針を追認するのみだ。今、ここにある危機を招いたのは日米両政府の責任だ。日米はただちに情報の公開と疫学調査を実施し、感染を防がなければならない。

▼先の時事通信の記事を読んで、この琉球新報の社説を読んで、勘のいい人は、「あれ、沖縄の基地だけでいいの?」と頭が回ったと思う。

傍若無人な振る舞いをしうるのは、沖縄の米軍だけではない。三沢のある青森は? 厚木のある神奈川は? 本土の米軍基地も、まともに情報を出さないのなら、基本的にはロックダウンしたほうがいい。

日本はアメリカに対してイージスアショアを断れるのだから、それと比べれば、簡単な話だと思う。自粛警察の人たちにおかれては、せっかくなのでそのエネルギーを活用して、ぜひともいまおこなっている活動のかわりに、在日米軍にコロナ関連の情報を公開するよう求めてほしい。

(2020年7月21日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?