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王神愁位伝 第1章【太陽のコウモリ】 第2話

第2話 小さな通報者

ー 前回 ー

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”チャポン”
「ーふう。やっぱりこの湖は大きいですね。城から陸まで行くのに30分も乗らないといけないとは・・・。久々に外に出ましたが、疲れます。」

バンという男性に怒声を浴びながら出航した坂上さかがみ。城を囲う大きな湖を、専用の船で渡って約30分。𦪷モクが設定した通り、城から東側に船はついた。
船から陸に上がると、カラになった船は独りでに・・・・また城に向かって帰っていく。そんな船を見て、深い水色の瞳を細くし、坂上はにこっと微笑んだ。
「んー、やっぱりいつ見ても𦪷モクさんの力の正確さ・・・・・には驚かされます。」

惚れ惚れする坂上の足に、いつの間にかついてきた黒猫のクロがすり寄った。足元にいるクロを抱きかかえ、そのまま湖とは反対の森林の中を歩き出す。
「クロも久々の外でしょう?街まで10分程度歩きます。一旦そこで事情を聴いて、馬を借りて裏山まで走る予定です。森林緑でもしてリフレッシュしましょう。最近バン君たちは、私を仕事承認マシーンのようにこき使いますので、たまにはいいでしょう?」

クロに頬ずりしながら、涙を浮かべる坂上。そんな坂上のほっぺに肉球を当てるクロ。
”ぺちっ”
くすぐったい・・・・・・。」
「ーなんですか。クロも私を仕事承認マシーンと思っているのですか?」
「そんなわけにゃいが・・・。くすぐったい。」
「それはそうと、ここで話して・・・大丈夫ですか?あまり声を出しますと化け猫だと思われ・・・」
”バチン!!!”
「我は猫じゃにゃい!!!」
強烈な肉球パンチを食らう坂上。少し赤くなった頬は痛そうだ。

「わかりました。もう言いませんよ。」
頬を痛そうにおさえる坂上など無視して、クロは坂上の腕の中でフィットする場所を探すようにもぞもぞと動き、一定の場所に落ち着いた。

「帰ったらバンのやつ、めちゃめちゃ怒るぞ。そんなにこの件・・・が気ににゃるのか?」
森林の中に入ると、幾らか太陽の光が植物に吸収され気温が低くなっていた。低くなったとは言え、植物の隙間から覗く太陽の日差しは依然としてまぶしいほど輝いている。

「そうですね・・・。まぁ、未確認生命物体と言われて個人的に気になっている部分もありますが・・・。」
「城の誰もが悪戯だと考えてるぞ。」
坂上の腕の中で、毛繕いを始めるクロ。

「ー悪戯ねぇ・・・。それならいいですが。ロストチャイルド現象・・・・・・・・・・の件もありますし。誰も認めないなら、うちの部隊・・・・・で解決の糸口を見つけるしかありません。異変があることは少しでも調べておきたいのです。」
そうこう話していると、森林を抜けが見えてきた。太陽城の近くの街は活気に満ちていた。

ここは太陽城のある中心部、太陽の心臓・・・・・と言われる場所にある街。この地域は、安全地帯・・・・と言われていた。
何故なら、太陽城の湖には敵である月族たちが近づくことを恐れるほどの怪物・・が眠っているというのだ。
狂暴な龍・・・・のような怪物であり、世界最強の獣・・・・・・と称されている。
この地域に入った月族の者達は、この世界最強の獣に一瞬にしてあの世行きにされると噂され、月族もむやみに近づかず攻撃もほぼない地域であった。
そのためか、戦争中でも他地域の街や村に比べ損傷もなく、活気のある街並みだ。

坂上は街に入ると、城に通報をした者の家を探した。
「えっと・・どれどれ・・・」
メモのようなものを、黒いマントから取り出す。
「・・・・。」

暫くそのメモを見ていると、クロが尻尾で坂上の腕を叩いた。
「ーあるじよ、読めにゃいのか。自分の字が。」
”ギクッ”
図星のようだ。

「いやー・・あはは。急いでたから、汚くって。あはは。」
呆れ、尻尾で坂上の腕を叩きまくるクロ。
途方にくれる坂上であったが、その時、誰かに背後から呼ばれた。

「あの・・・」
坂上が振り返ると、そこには坂上の身長の半分もない小さな女の子・・・・・・がいた。少し緊張しているのか、手をもじもじさせている。そんな女の子を見て、坂上は目線を合わせるため身を屈めた。

「こんにちは。私は、太陽城から来た坂上と言います。」
そう言うと、女の子は表情をぱぁっと明るくさせた。
どうもこの子が通報者のようだ。
城の者達がどうして今回の通報を悪戯だと言ったのか。それは、通報者が子供・・だったことも一つだった。子供からの通報で、未確認生命物体が街外れの山に落ちてきたなど誰が本気で対応するだろうか。
ーまぁ、本気で対応している人間がここにいるが。

「来てくれた!!ばぁーちゃーーん!!!」
女の子は嬉しそうにしていると、なにやら奥にいた老婆に叫んだ。
どうも女の子の祖母のようだ。坂上は軽くお辞儀をすると、老婆も深くお辞儀をして坂上の方に来た。

「城のお偉い方が・・・。ありがたや、ありがたや・・・。」
何やら拝めるように、老婆は坂上の前で手を合わせた。その様子に、街の人々は坂上に注目し始めた。

「太陽城の人?」
坂上の胸元に、輝く太陽のブローチがあるのを見て更に人々が集まる。

「まぁ!エリートね!」
「あの黒猫、可愛いわ!頭に包帯巻いてる。怪我しちゃったのかしら~。」
「私も拝んでおきましょうか。」
「太陽城で働いている人は太陽神に近いといいますからね。拝んでおいて損はない。」
「早く戦争が終わりますように・・・。」
「猫だーーーーー!!」
うじゃうじゃと近づいてくる街人に、坂上は苦笑いをする。

「あ・・・はは・・。ささ、通報の詳細を聞きましょう。どこか静かに話せるところはありますか?」
坂上は老婆の肩を優しく押し、この場から離れようとせかした。あまり目立ちたくないようだ。

「あ・・・えぇ、それでは・・・すこし先に私たちの家があります。そこでお話しを・・。あまり良いおもてなしもできませんが・・・」
「全然大丈夫です!ささ、行きましょう!」
老婆の背中を押し、女の子の手をとって、坂上はその場を逃げるように去った。


ーー次回ーー

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