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ごめんね、みぃぽん ~UYからのメッセージ~

猫というのはいつの世も
本能のままに生きている

たとえ飼い猫であったとしても
 
空腹なときは飼い主にすりすりと媚びを売り
執拗なチョンチョン攻撃の末
忙しくて構ってもらえないとわかれば一転
プィっとして
あたりが闇にくるまれようとも繰り出していく



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ボクの家のすぐ裏は、うなぎを扱う店だった
互いの敷地の隅と隅とは
住宅地図上で見れば隣り合わせだったが
玄関はと言えば
町内を半区画ほどくるりと回り込んで
離れたところにあり
だからたった壁一枚向こうの
空間に住む住人同士とはいえ
面識があるわけではなかった


当時、ボクが家族同然にしていたのは
白地のところどころに
濃いめの茶色の玉模様を有した
愛嬌のある日本猫だった
手足が骨太で、やや丸っこい

みぃぽん…と名づけていた


ある夜、ボクたちが就寝しようという時刻になっても
遊びに行ったまま
みぃぽんは戻ってこなかった

普段であれば
部屋の隅のクッションの上でとうに丸くなって
寝入っているか
舌で体中をていねいに舐めまわして
毛づくろいしている様子を目にするはずの時刻だった


姉が心配げに暗い窓の外を覗く
遊びにでかけてもこの時刻まで帰らなかったことは
これまでになかった


お腹すかせてないだろうか?
遅れているパソコン作業の忙しさにかまけて
その日に限りフードを与えなかったことを
ひどく悔やんだ
いつもデスクの上に飛び乗ると
ノートパソコンのディスプレイの角に頭を擦りつけては
それとなく食の欲求をアピールしていた



次の日もみぃぽんは戻らず
その次の日も帰らなかった


寂しさではない
ひたひたと不安だけが
どうしようもなく膨らんでいく


過保護かもしれない
猫のことで…と笑う人もいるかもしれないが
心の置き所がないというか
何をしても頭を素通りしていく

何も手につかないという状況になる


「保健所に聞いてみた方がよくない?」
しぼりだすように姉が言った
車に轢かれたという最悪の可能性とともに
野良猫として殺処分されるのを懸念してのこと


明日電話してみようと話したその翌朝…


異変があった



ボクが朝刊を取りに玄関に出たところ
郵便受けのポスト
その中にあったもの

それは…


鈴を通した薄ピンクのリボン

どう見ても
みぃぽんが首につけていたものに間違いなかった


・・・なぜ?

一瞬だけ意味がわからなかった
なぜ?
みぃぽんがつけていた鈴とリボンがポストの中に?


「はてな」がくるくる渦を巻きながら
捕獲されている可能性と
裏のうなぎ屋に自然と思いが至る



みぃぽんは食べ物に意地汚い
おなかをすかせていて、いい匂いがすれば
裏の家の窓から入り込んだとしても
不思議はなかった
近隣のいくつかの建物の造作からみても
入り込めるとしたら
そこの家しか考えにくかった


じゃんけんに負けて、ボクが行くことになった


ポストの中にあったもののことなど
もちろん言えるはずもない
確証は何もない



着物姿のおかみさん風の年配女性が対応にでた

菓子折りを差し出して、ただ
「もし、うちの猫を見かけるようでしたら
   ご連絡いただけませんか?
 家族同然の猫なんで」 とペコリ

後ろ手に引き戸をしめる時
何ともいいがたい視線を感じた



果たしてその夜
みぃぽんは帰ってきた
三日ぶりの帰還だった

痩せ細って
胴まわりが窪んで、ぺたんこになっていた
与えたドライフードをニャウニャウ言いながら
ガツガツと食べた


厨房に入って悪さをしたのかもしれない
で、捕まってどこかに閉じ込められていたのだ、きっと

かわいそうに…
無我夢中で食べ続けている


けれど、それ以上にボクらを震撼させたのは
あの鈴とリボンが「無言のまま」
ポストに入れられていたという事実だった

預かっているぞ、の合図としか
受け取りようがない



無機質すぎないか! 
……さむけがした




迷惑をかけたのなら、もちろんこちらが悪いのだから
ひとこと大声で怒鳴ってくれてもいいんじゃないか…
とも思った

ちゃんと頭を下げてあやまるし
何度も何度でもあやまるし





その日以来、みぃぽんは家から出してもらえなくなった

ごめんね、みぃぽん


ごめんね…



時は流れ
そんな出来事もボクらの中では風化されていた

… そんなある日



姉が「洗濯物が足りない気がする」と

は?
そんなバカなことないだろ
とそのときボクは答えたが

いく日かあとで
「やっぱりこの間の風の強い日に
 舞ってっちゃったみたい」と


二人で三階のベランダから
あちこちまわりを見下ろしてみた

目を細めた視界の少し遠くに
裏の家の一階の屋根の雨どいのところに
引っかかって
うちの洗濯物らしきものが



やっちまった…
あやまりに行くしかない…
と決める間もなく

その日のうちに
ふたたびメッセージが




目を疑った
何事かと思った



洗濯物… 毛布などをとめる用の大きめの
「購入したての」洗濯バサミが
押し込められるようにポストの中に


「これでしっかりとめておけ!」という
無言のご命令なのか


ー 了 ー


ちなみに ~UYからのメッセージ~
UYには大きな意味はありません

しいて言うなら、DAIGOさん風に言うのなら
U うなぎ Y 屋さん… ということになります
…ちがうか、DAIGOさんなら
U・G・Y か U・Y・S って言いそう 笑

最後までお読みいただき
本当にありがとうございました


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