note落語コラム題字2

【落語好きの諸般の事情】#08 似たような落語CDがなぜ何種類も出回っているのか問題

今回はかなりマニアックかもしれない。あ、毎回マニアックですかそうですか。

新聞で見かける落語CDの通販広告、あれは皆さんどれくらい注視して見ておられるのだろう。今度見つけたら、試しに一度その広告を保管しておいてほしい。数年後きっと似たような、しかし会社の違う落語CDの広告が見つけられるはずだから。

音楽と同様、落語CDには正規のルートで扱わないマイナーレーベルがある。近年はマイナーとかインディーズは珍しくないが、今から説明するマイナーレーベルとは1990年代、駅構内などでワゴン売りしていたちょっと出所不明なカンジのCD会社の商品のこと。
版権が厳しくなった当今は海賊版が出にくい状況だが、1990年代にはこういったワゴンだけでしか見かけないレーベルの落語CDは本当にたくさん存在していた。
そしてこれらのCD会社の中には、演者自身に無許可で録音して勝手に販売するというタチの悪い商売人もいたのだから驚く。現在ではちょっと信じ難い。

都家歌六師の著書『落語レコード八十年史』(国書刊行会・1987年刊)によると、1975年前後に「ソネット」という会社から発売された『真打二十三人集』(レコード番号SR-336、企画・株式会社高研、発売・(株)専響社)という10枚組LPは、収録された演者にその発売を全く伝えられておらず、レコードが出回った頃には会社が所在不明だったという。
収録演目と演者は以下の通り。演題はジャケット表記のままで、次代の現存する名跡(一部故人)には代数を付けた。

(1)三笑亭夢楽『寄合酒』/三遊亭小円馬『花見酒』
  /十代目金原亭馬生『がまの油』/桂伸治(十代目文治)『豆や』
(2)春風亭柳昇『課長の犬』/二代目桂小南『いかけや』
  /三遊亭円右『三人吉三』/四代目柳亭痴楽『ラブレター』
(3)橘ノ円『富士詣』/八代目春風亭小柳枝『権助魚』
  /桂伸治(十代目文治)『かけとり』/四代目春風亭柳好『牛ほめ』
(4)四代目柳亭痴楽『隅田川』/桂円枝『入社試験』
  /春風亭梅橋『都々逸坊や』・『英語会話』
(5)四代目春風亭柳好『かぼちゃ屋』/五代目春風亭柳朝『こごと幸兵衛』
  /五代目春風亭柳朝『馬の田楽』/三笑亭夢楽『厄払い』
(6)三代目三遊亭右女助『出札口』/三遊亭円右『クリスマス』
  /柳家金三『成金旅行』/三代目三遊亭右女助『ユーレイ自動車』
(7)春風亭柏枝(七代目柳橋)『辻占』/橘ノ円『猫と金魚』
  /浮世亭写楽(九代目三笑亭可楽)『太鼓腹』/桂文朝『子ほめ』
(8)二代目桂枝太郎『駅長事務室』/春風亭柳昇『義理堅い男』
  /二代目桂小南『運廻し』/二代目桂枝太郎『自家用車』
(9)三代目三遊亭小円朝『千早振る』/四代目三遊亭円馬『子別れ』
  /三遊亭小円馬『つりの酒』/四代目三遊亭円遊『堀の内』
(10)四代目三遊亭円馬『菅原息子』/十代目金原亭馬生『二人ぐせ』
  /四代目三遊亭円遊『花見小僧』/三代目三遊亭小円朝『後生鰻』

お気付きだろうか。落語CDの広告で頻繁に見かける演者と演目がいくつも混ざっているはずだ。つまりこの海賊音源が流用されているのである。しかも一度や二度の流用ではない。2002年に私が書いていた落語日記でも「5~6回見かけた」とあり、しかもこの当時は100円ショップのダイソーで全演目が販売されていたのだ。なんとご丁寧なことで。
現在の広告を見ると、さらに志ん生・円生・三代目金馬・五代目小さん・五代目円楽・歌丸といったビッグネームの音源もまじえたセット販売になっている。私が20年前に目にした記憶でいうと、この追加分もほぼ全部マイナーレーベルから発売された音源である。
ただ、別に違法販売を擁護する気は無いけど、実はマイナー盤でしか世に出てない演題ってのも結構いっぱいあって、上の『真打二十三人衆』で言えば先代円馬師の『菅原息子』とか、他では歌丸師の『いが栗』とか。金三師や梅橋師、円枝師の市販音源なんて本当に貴重なものだ。このあたりがコレクターとしては悩ましき問題ではある。
今も2年に1度くらいのペースで、新パッケージで中身の同じCD通販広告を見る。既に大半の師匠が他界されてしまったが、版権はどうなっているのだろうか。

ちなみに「真打二十三人集 専響社」で検索すると、ヤフオクでこのレコードが見つかる他、このレコードについての解説記事をコピペした、十数年前の一般人の日記が1件出てくる。このコピペ記事、先述した2002年の私の日記である(今は日記自体なし)。一応何かあった時のために念のためお断りしておく。あー、今回も長くなっちゃった。内容が内容なので分割できなかったから仕方ないけど。


さて、ここから先は今回のオマケです。
過去に拙サイト「落語別館」の日記やブログで書いた、東京時代に足を運んだ寄席と落語会の観覧記。それにちらっと説明を加えてのリサイクル公開(一部本邦初公開もアリ)。第8回はぐっと軽めに、寄席で初めてナイツを見た10年前の話。

ここから先は

603字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?