ギャルソンの一コマ

【書評】全てのサービス業従事者は必見漫画『ギャルソン』

※全5巻のすべての書評になります。

本作はタイトルの通りフレンチレストランの給仕係(ギャルソン)が主人公の漫画です。


主任シェフが失踪し傾きかけた東京のフレンチレストランが舞台です。
ダメなスタッフ達が新ギャルソンの登場で成長していきますが閉店までの残された時間は1年間。

普通なら三谷幸喜のドラマ『王様のレストラン』のパクリ?と思いますが早合点してはいけません。

原作者の城アラキは『ソムリエ』『バーテンダー』などお酒と絡めた1話完結エピソードの旗手。

作画のホリエリュウは無名ですが今までのコンビの中で最も画力が高いです。
コミックスの表紙を見てください。
今時、3色刷りのデザインは自信がないとできません。

ギャルソンの沢渡は典型的な城アラキ主人公。
仕事中は完璧で休日はコミカルというイケメンです。
具体的にはテーブルクロス引き、代理のカクテルで完璧なシェイキング、足音でくる客がわかる、ヤクザ相手の胆力など。
しかし今までの主人公に比べるとその業は超人の域に達していません。

それはこの漫画がお客様に寄り添う心の大事さを描いているからです。

この漫画で起こるレストランの奇跡は高価な食材や超絶技巧の技術などではありません。
等身大の悩みを持つ登場人物たちが相手のことを考えて行動した時に問題は解決します。

テーブルマナーで「カトラリー(フォークやナイフ)」を落とした場合はスタッフが拾うというものがあります。
マナーを覚えるのならそれで構いません。

でも理由を考えたことがありますか。

マナーには客とスタッフ双方の気遣いが求められます。
これは今までのマナーマニュアルでは言及されていなかった部分です。
店と客と幸せな関係とその理由。
それを本作はしっかり描いています。

そう数多の料理漫画で言っていた「心こそ重要」というやつです。
材料自慢はダメです。
技術自慢もダメです。
料理人を金で買収しても裏切られます。
資本を武器に相手をつぶす目論見は破たんします。
カレーや中華料理に麻薬をいれると反則負けで追放されます。

この漫画は料理ではなくレストランという舞台のすべてでそれを表現しています。

最終巻では「世界一贅沢な料理」が登場します。
世界一美味しいでもなく珍しいでもなく高級でもない料理とは。

そして「サービス」の意味とは?

さてこんな素晴らしい漫画が5巻であえなく完結。
最後の飛ばしっぷりから打ち切りと思われますがなぜでしょうか。

たしかに1話の盛り上がりっぷりは素晴らしかったですが途中のエピソードはパワー不足。

料理漫画で出される「料理」とは少年漫画でいう「派手な必殺技」にあたります。
「サービス」という形のないものは絵的な派手さに欠けたかもしれません。

あるいは客とスタッフとスポットが毎回分散したため主人公が人気不足だった。

多分違います。

最大の原因は同じ雑誌に『不倫食堂』という人気漫画が連載中だったことです。
出張先でサラリーマンが人妻エロスとB級グルメを堪能するという俗の極みみたいな作品です。
(これはこれでおもしろいのですが)

掲載誌のグランドジャンプは言うなればサラリーマン向けジャンプ。
お客様を満足させるのがサービスならこの漫画の味付けは上品すぎました。

それでも「サービス」という伝わりにくいテーマに挑んだ本作の志は凡百の漫画と比べ物になりません。
文句なしの傑作です。

【おまけ】
ブログやってますので興味ある方は「梟茶房」で検索してください。
http://owl296380.hatenablog.com/

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