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美術品ポリポリ虫調査

 友人と美術館に行ったんです。ええ、行ったからには美術的なものを見て参りました。目いっぱい美術的な人生を送ってきた方ならともかく、私のような一般的な半生を歩んでいる人間にとって美術的なものはどちらかというと特殊なものです。自宅の壁に芸術が爆発した絵画を飾っているわけでもなければ、庭に全裸男性のブロンズ像を設置しているわけでもない。もちろん、こうやって美術館に行くような人間ですから多少は美術に親しんでいるんでしょうが、どっぷり浸かってはいないんです。ですから、美術館は私にとってどちらかと言えば特殊な場所であり、それゆえに美術的なもの以外でも特殊なものがチラホラ存在しているんです。

 例えば、私が美術的なものを鑑賞していると、つま先に何かがコツンと当たりました。何かと思って視線を足元に下ろすと、こんな物体がひっそりと置かれていました。

 見た目はホイホイ系の虫トラップをしています。とりあえず、中を覗くとアリが1匹だけ引っ掛かっていました。

 私は友人を呼び止めまして、アリをホイホイしている昆虫調査トラップを見てもらいました。「何だろうね、これ」と尋ねる私に友人はさも当然のように答えました。

「そりゃもちろんあれだよ。昆虫ってのはいろんなところに住んでるだろ。高い山にだけ住むやつもいれば一生の大半を土の中で過ごすやつもいる。当然、美術館でないと生きられないやつもいる」
「いるかな」
「いるんだろ。だから、どこぞの昆虫博士が美術館でのみ生きるやつがいないかここで調査してるんだろ」

 口から出まかせにも程がありますね。そんなバキバキに錯乱したファーブルみたいな昆虫博士なんているわけないでしょう。というわけで、調べてみました。ネットで軽く検索すると、いろんなところで似たようなものがちょこちょこ設置しているらしく、ブログやSNSでネタにしている方が何名かいらっしゃいました。

 更に詳しく調べると販売サイトが見つかりました。

 まさに同じものです。一瞬「33000円は高いな」と思いましたが、500枚入りの値段でした。1枚66円ですね。そう考えれば現実的なお値段です。リンク先の説明を見る限り、害虫を捕まえて侵入頻度なんかを調査するためのグッズのようですね。昆虫はいろんなところに住み着きますが、同時にいろんなものを餌にしまして、中には文化財だろうが美術的なものだろうがポリポリやってしまう昆虫がいる。それらをポリポリする前に捕まえてしまおうという算段なのでしょう。

 よくよく見ればこの美術館、あちらこちらで昆虫調査をしていました。ポリポリされたくないのはもちろんとして、ひょっとしたら以前に美術的な何かをポリポリされた悲劇に見舞われたのかもしれません。

 とりあえず友人に調べた情報を教えると、「作品を見なさいよ」とたしなめられてしまいました。

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