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失礼、パンダ

 友人からクイズを出されました。「もし女性が着替えている部屋にウッカリ入ってしまった場合、なんと言って部屋を出たら気が利いているか」。

 わざわざクイズとして出すくらいですから、どうせひっかけがあるんだろうなと思いつつ、「『失礼しました』と言って出る」という何のひねりもない超ストレート解答を投げると案の定、友人は首を振りました。「気の利いたことを言わないと」という、何とも言えないダメ出しもセットです。私は尋ねました。

「『気の利いた』って何」
「そのままの意味だよ。さては日々気の利いたことを言おうとしていないな」

 気の利いたことを言おうとしているかどうか以前に、女性が着替えている部屋にウッカリ入るようなミスをしないようにするのがベストな気がするんですが、そんな解答を言っても正解になるわけがありません。私はいろいろ考えたんですが、いい正解が思いつかないと言うか、正解を思いつく気がないというか、とにかく超ストレート解答以外の答えが出てきませんでした。

 友人の答えはこうでした。「失礼、ムッシュ」。ムッシュとは男性の敬称であり、要は男性と間違えた感じをわざと出して去っていくことで「よく見てなかった」と相手に印象付ける。それが「気の利いたこと」だと言うのです。

 ムッシュと言ってる辺りからも、ヨーロッパ在住の誰かが生み出した言い回しだと分かります。ですから、文化の差が間違いなくあります。私はついつい友人に反論しました。「それ、女性が『男性と間違われた』と思って怒ったりしない?」。どの国の人だってそれぞれ性格に差がありますから、受け取り方も様々でしょう。「失礼、ムッシュ」を言われた女性が、言った人の意図通りに受け取ってくれるとは限らないわけです。そう言ったところ、友人はいろいろ考え始めました。

「『失礼、パンダ』はどう?」
「人とパンダを見間違えちゃダメでしょ」
「『おっと、相撲部屋かと思ったぜ』は?」
「もう悪口になってるし」

 クイズを出していたはずの友人は、いつの間にか大喜利の回答者になってしまいました。着替えている女性に対しての発言は、失礼の度合いがどんどん増していってます。

 こんなことなら気の利いた一言なんて狙おうとせずに、「失礼しました」だけ言って去ったほうがまだマシというものです。世の中には「挑戦する大切さ」を声高に叫ぶタイプの方々がいらっしゃいますが、「挑戦しない大切さ」もあるんだなと実感しました。

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