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見た目じゃ寿命は分からない

 「看板に偽りなし」という言葉がある一方、「羊頭狗肉」という言葉もあるわけです。ザックリと意味を説明すれば、前者は「見た目通り」であり、後者は「見た目と中身が一致しない」となります。意味が真逆でございまして、このふたつは互いに対義語の関係とされています。

 なんでどちらの言葉も現在に至るまで使われ続けてきたのか。恐らく、どちらのパターンもたくさんあったからだと思います。外見そのままの中身であるものがたくさんある一方、外見と中身が全然違うものもたくさんある。外見で中身を判断するのは一筋縄ではいかないのでしょう。

 私はとある街に10年以上、一人暮らしをしておりました。住み始めた頃はその辺を歩き回って、どこに何があるのかを見て回っていました。

 その中に、変わったお肉屋さんがありました。お肉屋さん自体はどこの商店街にもありそうな店構えでした。問題なのは場所です。そのお肉屋さんはスーパーのような建物の一角にあったんですけれども、そのスーパーのような建物、お肉屋さん以外にお店が全然ないんです。それどころか、廃墟と見まごう外観をしてるんです。床にはコンクリート片やねじ曲がった柵が散乱していますし、天井には大きな裂け目ができている。「こういうのを半壊と言うんじゃないか」と思えるほどです。当然、建物はお肉屋さん以外、昼でも薄暗い。そのためか、お客さんが来ている様子もありません。

 私は勝手に推測しました。もともとは、同じ建物にいくつものお店が入っていたんだと思います。しかし、近所にコンビニができ、100円ショップができ、大型ショッピングモールができ、だんだん客足は遠のいていった。お店はひとつ、またひとつとなくなり、最後にお肉屋さんだけが残った。

 たぶんお肉屋さんもそのうちなくなってしまうだろう。私はそう推測しました。お店は古いですし、店員もかなりのご年配です。仕方がないですが、時代の流れだと勝手に思っていたんです。

 しかし、そのお店は私が街を去るまでの10年以上もの間、普通にお店を続けていきました。何なら、2軒隣の100円ショップとか、近くのコンビニとかのほうが閉店しているくらいです。どういうことなのかは全く分かりませんが、お肉屋さんは半壊したスーパーらしき建物の一角で普通に商売を続けていました。これを書くにあたりグーグルストリートビューでお店を確認したところ、半年前の画像ではありましたが、やっぱり営業を続けておりました。失礼な予想をしてすいませんとしか言いようがありません。

 同じ町で似たような経験があります。引っ越したばかりの頃、家の近所を歩いていますと、ビックリするくらい古い自動車を見かけたんです。形が古いのはもちろんなんですが、ところどころ塗装がハゲていますし、窓は汚れているのかところどころ半透明です。しかも、エンジン音とは別に「カラカラカラカラ」という不穏な音を立てて走っている。

 あまりの状態に初めて見た私は「大丈夫なのかこれは」と思わずにはいられませんでした。あんな状態で車検が通るのでしょうか。通ったなら通ったで信じられませんし、通してないなら通してないでやっぱり信じられません。持ち主は何を考えて運転しているのか、謎としか言いようがない。

 初めてそのカラカラ車を見たのは住み始めて1ヶ月ほど経った頃でした。もちろん、そのうち廃車になり、見かけなくなるだろうと思ってました。でも、私が引っ越す1ヶ月前にもカラカラ車を見かけたんです。つまり、最初に見た時と同じくらいのボロさを10年以上、維持し続けたことになる。カラカラ音も最初に聞いた時のままです。

 見た目が古いと「そろそろ寿命かな」と思うのは、恐らく私だけではないと思います。実際、すぐ寿命になってしまうものも多いでしょう。でも、私の失礼な予想に反して、肉屋も車も10年は余裕で活動し続けた。

 見た目で判断するのは本当に難しい。そう思います。

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