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脚本家志望者のための映画・テレビドラマ制作の知識 その1<全般的な話>と<企画について>

「脚本」は制作工程のほんの一部

 脚本を書くというのは映画やテレビドラマを作る中のひとつの工程です。「ダメな脚本から優れた映画やテレビドラマが生まれることはない」と言われるように作品作りの中で重要な工程ではありますが、脚本を書くという行為は制作の中のほんの一部であり、また制作の現場から離れたところに存在しているという特殊性もあります。脚本家が仕事上で会うのはプロデューサーと監督(ディレクター)がほとんどで、彼らと打ち合わせをしたあとは脚本家は一人で執筆作業をすることになります。だから脚本家が脚本の打ち会わせ以外の制作過程を見るとことはあまりありません。

脚本家は制作過程をあまり知らない

 脚本家が制作現場を見るのは、ほぼ二つの場合に限られます。ひとつは脚本を書き終わった後または途中に撮影現場を訪れるとき。これは主に出演者に挨拶をするための訪問です。もう一つは連ドラの執筆中、打ち合わせをスタジオ内の部屋でやる場合があり、そのついでにスタジオを見に行く場合があります。この場合も出演者に挨拶をして、ついでに撮影を見学するということになります。
 脚本家にも現場に行くのが好きな人とそうでもない人がいて、好きな人は特に用がなくても時間をみつけて現場を訪れます。僕は上記のふたつの場合しか現場に行くことはありません。行くのが嫌だというより、多くのスタッフにとって脚本家は「あんた誰?」という存在であり、何となく居心地が悪いからです。

 そういうわけで、プロの脚本家でもどんな工程で作品が作られているかよく知らない(知識はあっても詳細に見たことはない)という場合が多いのです。僕自身、自分が映画を作るようになったからそれらを知ったわけで、脚本家をしているだけなら知らないままだったでしょう。

制作過程を知っている方がいい脚本が書ける?

 プロの脚本家がそんな感じなので、まだプロになっていない脚本家志望の人たちが制作現場を知らないのは当然のことです。では知らない方がいいのか、または知らなくていいのかというと……知らなくても脚本を書くことは可能です。しかし知っていた方がプラスになるのでは? という点もあります。   

 この連載では、主に脚本家志望の人向けを意識しながら映画やテレビドラマの制作過程や現場のことを書いてみたいと思います。その中で「脚本を書く上で知ってよかった」と思ってもらえたらと思います。

制作の工程一覧

 映画とテレビドラマは主に次のような工程があります。(ひとつ終わったら次、とは限らず、いくつかの工程が同時進行しています)

①企画

②脚本執筆

③キャスティング

④スタッフを決める

⑤ロケハン

⑥美術打ち合わせ

⑥衣装合わせ

⑦予算組み、スケジュール作成

⑧撮影

⑨編集

⑩音楽作曲

⑪ダビング

⑫初号試写(完成)

 他にも細かいことはあるでしょうが、以上が主な制作の工程です。以下、ひとつづつ解説していきます。

企画がないと何も始まらない

 まず「企画」です。企画は「企画書」という形で存在します。簡単に言えば「こういう作品を作りましょう」ということを書いたものです。企画意図、ストーリー、人物設定などが書いてあります。書類という形にするのは、会議に出すなどして検討するためです。検討の結果、会社の上の人がOKを出し、お金が出ることが決定することによって「企画にゴーサインが出た」ということになります。
①会社としてのOK 
②お金が出る
この二つは企画に対するゴーサインとして絶対に必要なことですが、もうひとつ企画にゴーサインが出るために重要なことは
③主演俳優が決まる
ということです。映画でもテレビドラマでも主演が誰かというのは重要なことで、お目当ての人気俳優がその企画に対して出演OKしたことで、「あの人が出るなら」ということで連鎖的に①と②もOKになるということがよくあります。一方、企画が決まってから主役を探す場合もあります。これは例えばベストセラーの映像化など、主役以外に企画が決まる重要な要素があった場合などです。

企画を作るのは誰?

 企画を作るのは普通はプロデューサーですが、別にプロデューサー以外の人が企画を作ってはいけないという決まりはありません。監督や脚本家が企画を作ることはよくあります。その場合も、プロデューサーに「この企画やりたいんですけど」と相談して、プロデューサーが会社の上司に企画を出すことになります。プロデューサーはその作品の制作全般をコントロールする役目なので、プロデューサーがいないのに企画が成立するということは普通はありません。
 逆に監督や脚本家が決まっていない状態で企画が決まるということはあります。その場合は企画成立後にプロデューサーが監督や脚本家を探すことになります。

脚本家と企画の関係

 脚本家に仕事の依頼がくるときは、「企画が決まっている場合」と「企画が決まっていない場合」の二種類があります。前者は例えば「この原作を映画化するので脚本を書いてくれませんか」というような依頼のされ方で、後者は「こんな作品を作りたいんだけど、一緒に企画を作りませんか」というような依頼のされ方になります。
 脚本家にとってこの両者の大きな違いは、前者はもう企画が決まっているので、脚本家が仕事を受ければその時点で仕事が決まる、つまり収入が確保されるのに対して、後者はまだ企画が決まっていないのでお仕事になるかどうかはわからないということです。プロデューサーと一緒に企画を作っても企画が通らなければ収入になりません(企画書を書いたギャラを貰えますが、数万円程度です)。
 なので企画が通ったものを依頼される方が、脚本家は嬉しいということになります。しかしすでに決まった企画で依頼されたとしても、それが自分のやりたいものとは限りません。やりたいものでなければ断る権利は当然あります(僕はスケジュール的に無理という以外はよほどのことがない限り断ったことはありません)。
 プロデューサーと一緒にいちから企画を作る方が、成立する可能性は低いものの、自分がやりたいものができる可能性は高いとも言えます。

次回予告

 次回はキャスティングと衣装合わせについて書きます。

<以下宣伝です>

監督した映画『炎上シンデレラ』の地方での上映が始まります。また東京ではMorc阿佐ヶ谷で上映されますので池袋で見逃した方はぜひお越しください。

チネ・ラヴィータ(宮城)12/9(金)~公開

宇都宮ヒカリ座(栃木)2/3(金)~公開

小山シネマロブレ(栃木)1/20(金)~公開

Morc阿佐ヶ谷(東京)12/16(金)~公開

名古屋シネマテーク(愛知)12/10(土)~公開

京都みなみ会館(京都)公開時期未定

第七藝術劇場(大阪)公開時期未定

KBCシネマ(福岡)1月公開予定

<ストーリー>
初主演映画を撮影中にスキャンダルを起こして大炎上、芸能界を追放された女優・みつほ。彼女を主役に映画を撮りたいという妄想を抱えた映画オタクの青年・田代。この二人の運命の出会いに割り込む小劇団を主催するいい加減な男・山倉。みつほと田代がこの劇団に入ってしまったことから物語は妙な方向へ。そして彼らに再び炎上の危機が!?
<キャスト>
田中芽衣 飯島寛騎
比佐仁 里見瑞穂 佐々木史帆 芳村宗治郎 南ユリカ /横田真悠/大河内健太郎 ほか

公式Twitter

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