見出し画像

ICF 国際生活機能分類にみる構音障害(1)

国際生活機能分類(WHO)

ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は,2001年に世界保健機関の総会で採択された新しい健康観,障害観に基づく国際分類です(文献1).

画像3


ICFのF,Functioning「生活機能」は,上図の心身機能・身体構造,活動,参加の3つのレベルを統合した造語で,人が「生きること」全体を示す包括概念とされています. 

ICFの前身の国際障害分類(ICIDH:International Classification of Impairments,  Disabilities and Handicaps, 1980)が,障害の現象(マイナス面)だけを切り離してみていたのに対し,ICFは障害のある人をみる場合にも,生活機能という「プラス」の中に「マイナス」(障害)を位置づけて理解することを提案しています(文献2−4).

上田(文献3)は,この点でICFは「プラスの医学」であるリハビリテーション医学との親和性が高いとしています.

アメリカの言語聴覚士の団体ASHA(American Speech-Language-Hearing Association)はWHOの発表直後からICFを正式に採用しており,日本でも医療,福祉,特別支援教育を中心に活用されています.

ICFの特徴

ICFの特徴は,人の生活機能と障害を,心身機能・身体構造(機能障害),活動(活動制限),参加(参加制約)の各レベル間および健康状態(病気,傷害等)ならびに背景因子(環境・個人因子)との間のダイナミックな相互作用として捉えていることです(上図の双方向の矢印)(文献1).

ICFはこうした概念的枠組み(モデル)の部分と,これに基づいて作成された詳細分類の部分で構成されています.                      詳細分類は,生活機能モデルを用いて対象者を理解し,支援する際に「見落としなく全体像を捉える」ための,いわばチェックリストとなります(文献2−4).

構音に関連するICFの詳細分類

構音に関連する主な詳細分類には,
・身体構造の「音声と発話に関わる構造
・心身機能の「音声と発話の機能」                 (ICFの赤本(文献1)では,音声,構音,流暢性とリズムの「機能障害」の例として,構音障害(痙性dysarthria,弛緩性dysarthriaなど各タイプ名も記載)のほか,嗄声,開鼻声,吃音などの「発話症状」が挙げられています)

・活動・参加の「コミュニケーション」などがあります. 

ICF 構音

ICFでは,活動と参加は単一のリストで示されており,次の9つの分類があります.

a5 セルフケア

a6 家庭生活          p6
a7 対人関係                                  p7
a8 教育・仕事・経済                  p8       
a9 社会生活・市民生活              p9

a3 コミュニケーション
a4 運動・移動

a1 学習と知識の応用
a2 一般的な課題と要求 
(a:activities,p:participation) 

一方,上田は,参加が目標であれば,活動はその手段であるとし,活動は9項目のすべてに関係するが,参加は「家庭生活」「対人関係」「教育・仕事・経済」「社会生活・市民生活」の4項目だけであるとしています(文献2,3).
「コミュニケーション」は,これら4項目の<参加>のすべてに不可欠と考えられます(文献3).

能力と実行状況

ICFの活動・参加レベルでは,さらに能力と実行状況の2つの観点で評価をおこなうことになっています.

能力(capacity)は,ある課題や行為を遂行する個人の能力を表し,ある時点で達成することができる最高の生活機能レベルを示します(例:訓練室,検査場面での歩行,発話).

実行状況(performance)とは,個人が現在の環境のもとでおこなっている活動や参加を表します(例:家庭,病室のような実際の生活の場での歩行,会話など)(文献1ー3).

日本には近似した表現として,「できること」(能力),「していること」(実行状況)があります.

ICFと運動障害性構音障害(dysarthria)

これらに沿ってdysarthriaのある人について整理する場合には,
心身機能として音声,構音,発話明瞭度,発声発語器官等の所見が記載されます.
活動すなわちコミュニケーションとしては,訓練室での言語聴覚士との「会話」など標準化された環境における最高の「能力」と,家族との会話など実生活の場でのコミュニケーションの「実行状況(文献6)が記載されます(文献1).
下表は,dysarthriaのある人へのICFの適用例です(米国言語聴覚協会(下記のASHAホームページ参照)が公開する事例を基盤に筆者が新たに作成).

画像2

<資料(厚労省)> ICF(国際生活機能分類)-「生きることの全体像」についての「共通言語」-
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ksqi-att/2r9852000002kswh.pdf


文献
1)世界保健機関(WHO):国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-(WHO: International Classification of Functioning, Disability and Health, 2001). pp6-10,13-15,76-78, 111-114, 132-136,中央法規,2003
2)上田敏:ICFの理解と活用.pp6-36,萌文社,2005
3)上田敏:ICFの理解と活用―失語症リハビリテーションでの活用に向けて―(上智大学講演会資料,2019年11月24日).
4)綿森淑子:言語聴覚障害の臨床とICF.言語聴覚障害学概論 第1版,pp166-171,医学書院,2010
5)American Speech-Language-Hearing Association: Person-Centered Focus on Function: Dysarthria.
URL https://www.asha.org/slp/icf/ (2022年3月16日閲覧)
6)小澤由嗣,中村文:日常コミュニケーション遂行度測定(CPM)の開発.ディサ―スリア臨床研究 9: 16-21, 2019




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?