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映画版『夏への扉』と古典SF小説『夏への扉』

2021年6/25『夏への扉―キミのいる未来へ―』が公開された。当初の公開予定日は2月だったのが、新型コロナ感染拡大による度重なる緊急事態宣言を受けて延期を重ねてきた。
結果的には同日にケン・リュウの短編『円弧』を映画化したSF映画『Arc アーク』も公開され、SF者にとって大変に喜ばしい日となった。
両作品とも邦画であり、原作をかなり忠実に映画化してあるのが素晴らしい。日本の映画界もやれば出来るんじゃないか!今後もっともっと質の高いSF映画をどんどんどんどん作って欲しいな!

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ということで、『夏への扉』を開けていきましょう。本当に良いからみんな観て!エンタメでありつつ、しっかり原作のストーリーをなぞる傑作ですよ!
なるべく映画のネタバレをしないように気をつけて書きますが、原作のネタバレはするのでご了承ください

映画を観てまず思うのが、ピート最高!てこと。いろんな意味で。
原作では護民官ペトロニウス、愛称ピート。主人公ダンが技術者的制作意欲に燃えたある時点で、製図機と全目的の万能ロボットを作ろうと奮い立つ場面があるのだ。後者の名前は護民官ピートにしようと明るい展望を描く。そんなピートにまつわるアレコレが映画でも最高の形で表現されていた!良かったですね。

原作小説は古典SFだし、「文化女中器」の頃から何度か読み返すくらいには好きです。読後の爽やかな気持ちは夏の草原を吹き渡る風のようで。猫小説としても、猫への愛が詰まっていて良いよね〜。

さて、その原作小説。1956年に発表されたもので、今もなお根強いファンを持つ作品!日本でも何度も翻訳が出されて、今でも新装版や新訳が流通している。勿論電子版もある。やー、すごいよね。


そして著者のハインラインは猫好きとしても有名で、まさに『夏への扉』執筆中にピートのモデルとなった愛猫ピクシーと同居していた。
『夏への扉』発表の翌年、ピクシーは衰弱していき虹の橋を渡った…同じ猫飼いとして胸が痛む出来事ですね…。

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1956年発表の小説なので、現代を生きる私達としてはモニョる表現や設定があるのも仕方のないこと。時代ってヤツ。
それが映画版ではきちんとアップデートされているので、引っ掛かりなくスっと話を追うことができます。
一番大きいのは、ヒロインの設定ね!原作ではメイン時間軸で11歳。主人公ダンが初めて会ったとき、彼女は6才!ヤバくない?

ぼくは子供好きではない。

と、本文中でロリコンを否定してはいる。けど、モニョるよねえ…。
それに原作では、ヒロインの最後の決断はダンとの約束でもあり、唆されたような気がしてしまうのよ。
ここを映画版ではヒロインの主体的な行動として納得させる強さがあった。彼女は彼女の意思で自分の人生を生きた感が、とても良かったのよ!
え?ネタバレかな?かなりボカシて書いたから大丈夫だよね?映画、観てよね!

ところで原作ヒロインのミドルネームはヴァージニアで、著者ハインラインの妻の名前と同じなのです。愛だね、愛!

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原作では1970年→2000年、映画は1995年→2025年と30年後の未来で起きる設定は変わっていない。
実際に1995年から現在までテクノロジーの進歩はすごい。95年て、まだ個人でパソコン使ってる人が珍しかった時代だもんね。この頃、卒論はワープロで打ってたな。2000年頃になると、インターネットは誰でも使えるけれど個人のネット環境はまだまだ高価で不便。故にマンガ喫茶に行ってネット閲覧とかしてたね。
それが2021年現在、誰もがスマホなどという小さなデバイスでネットにアクセス出来るようになりほぼインフラとなっている。スマホは人権!(言い過ぎ)
そう、時代背景的にも映画版は最高でないかい?ねえ!

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現在の視点からすると、原作『夏への扉』よりも映画『夏への扉―キミのいる未来へ―』は良かったかも!(原作大好きだけども!)
あと、オープニングでざーっと時代背景が流れていくとこで、3億円事件の犯人が逮捕されたって映像があって面白かった。この映画は、現実の私達とは違う世界線ですよーって表明する為のオープニング。
(3億円事件は迷宮入りした事件の中でも特に有名なものだろう)

私は邦画の大作をあまり観ない。泣かせようとするミエミエの演出や、演技のヘタさや、設定の甘さ、ボロボロのシナリオ…といったネガティブイメージが強いから。
でも『夏への扉』は全然そんなことなくって、丁寧に作られていた。すごい!
(そういうサブタイいらん、とかラストの劇伴がメロドラマ過ぎる…とかは思ったけどね。わたし的にはそれらが欠点だけれど、補って余りある全体的完成度の高さだった)

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てことで、みんな観てください!
エンタメSF映画『夏への扉』は猫好きにもSF者にもバック・トゥ・ザ・フューチャー好きにも、みんなにお勧めだよ!!

追伸― ハインラインは機械化される未来を描いてきたけれど、ヒューマノイド・ロボットを登場させたことがない。ハインラインがこの映画を観たら、何て言うのだろう?意外と喜んでくれるかも…!



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