見出し画像

春樹の壁

本、好きなんだよねー、と書いておいて、非常にいいにくいのだが、ひとつ告白させてほしい。
私は、村上春樹さんの本を読んだことがない。
30数年間、ノー春樹である。

正確には、春樹に挑んだことはある。
18歳の頃だった。初めての一人暮らし。初めての都会での生活。
背伸びをしたいお年頃だったぽん子ちゃんは、いっちょ、村上春樹さんの本を読んでみるか!と、近くの本屋さんへ足を運んだ。

ノルウェイの森、海辺のカフカ、ねじまき鳥。
ずらりと並ぶ名作たち。

どれがいいかなあ、と悩んだ末、「ねじまき鳥クロニクル(上)」を手に取り、私はレジへと向かった。ねえ、もう少し読みやすそうなのにしたら。短編集とか、あるんじゃないの、知らんけど。
昔の私に、できることなら教えてあげたい。

しかし、「村上春樹を読む私、おとなじゃーん♪」と、ルンルン気分の18歳のぽん子ちゃんには届かない。まあ、あとはお察しのとおりである。


いやあのね、文庫本にしては、ちょっと厚みあるよなあ、と思ったの。でも、本読むの好きだし、いけるかなあ、って思うじゃん。

そしたらさあ、まさかの二段組!ノルウェイの森じゃなくて、活字の樹海だよね。ちょっと私には早すぎた。

苦い経験が後を引き、私はそれきり村上春樹さんの作品に手を伸ばすことはなかった。
しかし、彼の作品が話題になるたび、やっぱり読んでみたいなあ、という気持ちが頭をもたげる。

私も大人になったことだし、今なら、リベンジできるのでは、と思い、因縁のねじまき鳥のあらすじをwikiってみる。
すると、なんとも衝撃の一文が書いてあるではないですか。

主人公の僕(オカダくん)は、カラマーゾフの兄弟の名前が全て言える。趣味は、炊事、洗濯、掃除。
うひゃあ、なんていうか、すごくちゃんとしている。これ、私みたいなグータラ女が読んだら、恥の感情で消滅するんじゃないかしら。大丈夫?

恐れをなした私は、出勤前の夫に、「村上春樹の小説の主人公やばい」と報告する。
夫の返事は、「それは、量産型の村上春樹の主人公だね」の一言だった。

あちゃー、マジすか。これは、まず作品を読むより先に、生活を立て直さないといけないんじゃないかしら。
洗濯物の散乱したリビングで読んでいい話じゃないよ。

あー!くやしい!これじゃあ戦わずして負けたようなものではないか。
しかし、本好きのはしくれとして、読まずに死ぬわけにはいかない。

待ってろよ!村上春樹!私はちゃんとした女になって、いつかあなたの作品を必ず読むからな!

やれやれ、めんどくさいけど、ちゃんと皿洗って寝よ。洗濯物は明日以降でいいや。

完璧な主婦なんてものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。



















この記事が参加している募集

熟成下書き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?