○10章 和風・学園・ロボ ~それは酢豚のパイナップルか、シャキシャキ野菜か~

 ファンタジー論は色々な軸が跋扈しているという話をひたすらしてきたが、それでもやはり主流派として強いのは中世西洋風ファンタジー至高論だろう。
 日本人がイメージする本格的なファンタジーが西洋風メインな理由はここまでの歴史回顧で見えてきていると思う。だが、別にファンタジー黄金期=西洋風一色だったわけではない。和風(東洋風)ファンタジー、学園ファンタジー、ロボット・ファンタジーという概念はファンタジー黄金期の終了を経て出てきたムーブメントというわけでもなく、最初期から普通に存在していた。
 それらが90年代~00年代半ばのエンタメムーブメントにどう合流していくのかを、この章では確認しておきたい。

◆和風ファンタジーという骨格、中華ファンタジーという師匠◆


 西洋風ファンタジーの多くが神話を親としているように、日本神話もファンタジーを語るには絶対に無視できない存在だ。「古事記」「日本書紀」を読んだことはなくても、ライトノベルや漫画やアニメやゲームで見た知ったという人は多いだろう。とはいえ神話の紹介と考察からはまあ今回はやれないわけで、さてどこからはじめるべきか。
 「竹取物語」「鳥獣人物戯画」「南総里見八犬伝」「遠野物語」「甲賀忍法帖」……うん、本記事的にはやはり「甲賀忍法帖」あたりからにしてみようか(※37)。

※37 竹取物語をSF始祖とする論や、南総里見八犬伝をライトノベル始祖とする論も普通にあるんすよね 

 「甲賀忍法帖/山田風太郎:著」は雑誌連載後、1959年に光文社より刊行された時代小説だ。特異な能力を持つ甲賀忍者と伊賀忍者が熾烈な戦いを繰り広げる異能バトルファンタジー小説であり、現在の忍者のイメージを作った作品、バトルもの作品の始祖、チーム対決ドラマの始祖、全てのライトノベル的作品の親だなどなど、色々と出てくる伝説的作品だ。
 03年からの漫画枠で名前だけ出した「バジリスク ~甲賀忍法帖~」の原作でもある。
 その内容や登場人物たちの行く末はなかなかに苛烈で重く、ダークファンタジーに分類されることもある。山田風太郎は伝奇小説・推理小説・時代小説に精通していたと言われており、「魔界転生(64年)」も傑作として名高い。

 59年には漫画(劇画)の方でも白土三平が「忍者武芸帳 影丸伝」を発表しており、61年の「伊賀の影丸/横山光輝:著」などへと続いていく。また、和風ファンタジーで欠かせない存在といえば妖怪ものだが、水木しげるが「墓場鬼太郎」を発表したのが60年だ。

 既に紹介した筒井康隆などSF系の流れとあわせて、70年代以降の日本エンタメにつながっていく最初期の流れと言っていいだろう。70~80年代に活躍した伝奇作家としては夢枕獏がおり、ソノラマ文庫でジュブナイル小説を書きつつ文藝春秋からは「陰陽師(86年)」を出して現代まで続く安倍晴明ブームの立役者となったり、SFの賞をとったりと八面六臂の活躍をみせた。
 「グイン・サーガ」の栗本薫も伝奇小説を得意とした作家であり、81年には「魔界水滸伝」を発表している。

 ライトノベル黎明・誕生につながる作品としては「宇宙皇子/藤川桂介:著」(84年)も欠かせないだろう。角川書店が映画会社としても大きく力を入れていた時代というのもあり、文字と映像の両面での和風伝奇ファンタジー普及に大きく貢献した。漫画界で一世を風靡した和風伝奇バトルアクションものとして「孔雀王(85年)」も重要な存在だ。
 また、ヒロイック・ファンタジー伝道者の一人として顔を出していた荒俣宏も85年に「帝都物語」を発表している。田中芳樹の「創竜伝(87年)」も人気を博した。

 伝奇要素はないが、コバルト文庫を中心とした少女小説や少女漫画界に与えた影響という意味で「なんて素敵にジャパネスク/氷室冴子:著」(84年)も挙げておきたい。

 ライトノベル誕生期と重なる89年には「西の善き魔女」を紹介した荻原規子が日本神話をベースとした「空色勾玉」でデビューしている。デビュー作が和風伝奇系だったファンタジー作家も多い。ライトノベル・ファンタジー黄金期に活躍した「魔術士オーフェンはぐれ旅」の秋田禎信も、デビュー作は和風伝奇作品だ。

 「ロードス島戦記」とも縁が深いTRPG界の大御所であるグループSNEは91年から「妖魔夜行」という妖怪テーマシリーズを手掛け、同91年は小野不由美の「魔性の子」、翌92年に「十二国記」も刊行されている。

 ライトノベル・ファンタジー黄金期に入ってからも「五霊闘士オーキ伝(94年)」「封仙娘娘追宝録(95年)」「央華封神(96年)」「精霊の守り人(97年)」「源平伝NEO(98年)」「少年陰陽師(01年)」「彩雲国物語(03年)」「根の国の物語(03年)」「鬼神伝(04年)」「獣の奏者(06年)」などの東洋風ファンタジー作品(※38)はコンスタントに発表され一定の存在感を示し続けたが、こちらも次第に「化物語」のような、現代を舞台に超常現象や怪奇現象が発生するタイプの作品が勢力を強めていく。
 もっとも伝奇系においては現代+超常の組み合わせは昔から定番人気の一スタイルという傾向も強かったので、西洋風ハイファンタジーほど劇的に塗り替えられた印象はないかもしれない(※39)。

※38 ここはライトノベルと一般文芸を切り分けていません

※39 ここの流れも中国古典の解説からやらないと嘘なんですけど、今回はねじこめず。無念。西遊記とか封神演義は有名としても、捜神記とか、平妖伝とか

 テンプレ的には次はゲームを見て、さらに漫画・アニメ・映画を見てとやるわけだが、既に名前は紹介済の作品も多いのでくどくなりそうだ。
 厳選にもほどがある超圧縮ピックアップをするなら「桃太郎伝説」と「天外魔境 ZIRIA」はRPG界の和風ファンタジー伝道作として極めて重要であるし、「東方Project」の知名度と影響度はオタク界隈では「ゲゲゲの鬼太郎」に並んでいる印象がある。
 「うしおととら」や「封神演義」は中国古典とも縁が深いエンタメファンタジー作品として貢献度が高く、現代にイメージされる忍者ものの代表格といえば「NARUTO -ナルト-」だろう。
 あとは「蟲師」「犬夜叉」「夏目友人帳」「地獄少女」「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「大神」あたりは外せないか。

 未紹介ものとしては特撮映画として公開された「ヤマトタケル」や、元祖平安ゲーム(?)の「平安京エイリアン」あたりも挙げておきたいか。
 ゲーム評価とは別のところで陰陽師のイメージ代表になってしまった「豪血寺一族」も載せてしまおう。

 特筆しておきたいコンテンツがある。「ビックリマン 悪魔VS天使(85年)」だ。
 「ビックリマン」はロッテより77年に発売開始されたシール付きチョコレート菓子だ。当初はちょっとしたいたずら向けシールというコンセプトだったが、85年からの悪魔VS天使シリーズが大人気となり社会現象にまでなった。悪魔に天使というフレーズ、最初期からの目玉キャラがスーパーゼウスにスーパーデビルという名称なのもあって、西洋風ファンタジー作品の印象も強い。
 だが、アニメ版ではヤマトタケルをモチーフとしたヤマト王子が主人公を務めるなど、日本由来のキャラも多く登場する。カードダスやTCGといったカードコレクション文化形成の源流とされることもあるコンテンツだが(※40)、お菓子のオマケシールとしては驚くほどに壮大な世界設定と物語が存在することでも知られている。

 それは一言で紹介するなら『オリジナル神話大全』だ。「女神転生」のような世界中の神から悪魔まで全員集合と「ファイブスター物語」のような独自神話構築を同時にやってみせた作品とでも言えばいいだろうか。子供向け商品であり、ビジュアルもデフォルメ系なので可愛らしさに騙されるが、非常に骨太で本格的なファンタジー作品である。

 和風か西洋風か。ファンタジー論でそういうテーマが出ると私は必ずこの作品を思い出してしまう。最初から最後まで分離不可能に混ざっているファンタジーはどこにカテゴライズされるのかと。
 そういった感覚を抱く作品としては「幻想水滸伝」も参戦してくるかもしれない。

※40 より古い73年発売のプロ野球チップスとか、TCGの始祖たるマジック:ザ・ギャザリングはアメリカ発やろとかはアナログゲーム総まとめの章でやります

 和風・中華風をベースとした時代ものや伝奇ものは日本人が世代を超えて親しんできた自然なファンタジーの形態であり、その全てを本格的なファンタジーには入らないと切り捨てるのはまず無理だろう。和洋混合も多いし、SF要素と融合しているものも多い。
 それらが理想の本格的なファンタジーとして入って来ないのであれば、それはやはり海外幻想文学やエピック・ファンタジーをルーツとするものこそを至高とする意識が強いためとなるのではないだろうか。

 東洋風のハイファンタジーはあり、現代+異能力系はなしという人もいるかもしれない。そうであればジブリの章で語ったような郷愁を抱く古き良きファンタジー観を至高とする方に属しているのかもしれない。

◆学園ファンタジーという、ごりごりの古参な新参者◆


 定番人気カテゴリの1つとなっている学園ものや学園系ファンタジーだが、これもルーツ探しのようなものをはじめると非常にややこしくなる。ジュブナイル小説や児童文学の重要性は何度も語ってきたが、「時をかける少女」は学園ものであるし、漫画ではタイムスリップ系SFホラーファンタジーの名作である「漂流教室(1972年)」も学園ものではある。
 小説発ではあるが映像化作品が特に流行した「学校の怪談(90年)」などもそうだろう。

 ライトノベル世界で花開く学園ファンタジーの源流という探し方をするならば、漫画の「うる星やつら(78年)」はまず来るとして、「プロジェクトA子(86年)」はこの時代に青春を過ごしたオタクエンタメ系クリエイターに与えた影響が強いという話がある。

 小説からは「聖ミカエラ学園漂流記/高取英:著」(86年)を挙げておきたい。こちらは劇作家による戯曲というカテゴリから生まれた作品で、舞台だけでなく小説化、漫画化、アニメ化、映画化と、あらゆるジャンルに顔を出した傑作だ。内容は非常に複雑な作品で、主人公は女子高生、太平洋戦争、宝塚歌劇団、中世ヨーロッパと十字軍、島原の乱、神聖ローマ帝国が出てくる時空超越系ファンタジーだ。
 小説版は一般文芸を経てライトノベルとしても94年に電撃文庫版が出ている。漫画版は「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」でも有名な藤原カムイが、アニメ版のキャラクターデザインは「サイレントメビウス」の麻宮騎亜こと菊池通隆(※41)が担当するなど、まあとにかく濃い作品だ。

 「漂流教室」にしろ「聖ミカエラ学園漂流記」にしろ、よく挙げられるのが古典名作の「十五少年漂流記」との関係性だ。学園ものは本来ここからやらねばならないのだろう。

※41 同一人物。アニメーター菊池通隆として活動していたが、漫画家デビュー時に麻宮騎亜を名乗った。菊池通隆こと麻宮騎亜かもしれない。キャラクターデザイナーやイラストレーターとしても活躍。

 次に挙げたいのが「蓬萊学園」シリーズだ。「ネットゲーム90 蓬萊学園の冒険!(90年)」という、アナログゲーム界隈で発展したプレイバイメールというジャンル作品(※42)であるためそっちで取り上げたいところなのだが、ファンタジア文庫から刊行された「蓬萊学園の初恋!/ 新城十馬:著」(91年)をはじめとする小説シリーズが人気となったため、ライトノベルとして認識している人も多いかもしれない。
 同シリーズは複数作家が手掛けており、「フルメタル・パニック!」の賀東招二も参加している。

 「蓬萊学園」はそのルーツからか、相当にしっかりと学園および学園が辿った歴史が設定されている。
 物語の舞台にして主役として学園そのものが最重要存在という意味において、学園ファンタジーの源流とされることもある作品だ。

※42 手紙で遠隔地とやりとりをしておこなったチェスがルーツとも言われるジャンル。日本でも将棋や囲碁で愛好家がいるとされる。それがオタクエンタメ的アナログゲーム界隈と合流し、メールでやりとりするTRPGのような概念が生まれた。当初はメール=手紙という意味。やがてメール=電子メールな作品も生まれていくことになる。

 80年代ライトノベル前夜作家も学園ものは手掛けており、「私闘学園(87年)」や「魔人学園(88年)」などは挙げておきたいか。

 こういった作品が「ロードス島戦記」や「スレイヤーズ」が現れて百花繚乱したライトノベル・ファンタジー黄金期に既に共存しており、高畑京一郎作品や「氷菓」のような作品も合流してライトノベルを盛り上げていく。
 そしてセカイ系と「ブギーポップ」が生まれ、そちらを親とする現代もしくは近い時代で、超然現象や異能力などが存在する、学校や学園が関わる少年少女ものが増えていく。
 さらに富士見ミステリー文庫や「ハルヒ」が産まれるまでの流れは既に見たところだ。

 未紹介の作品としては「聖エルザクルセイダーズ(88年)」「爆炎CAMPUSガードレス(94年)」「古墳バスター夏実(97年)」「レベリオン(00年)」あたりだろうか。
 名前紹介済から特筆するべきは「灼眼のシャナ」と「とある魔術の禁書目録」だろう。
 
 「灼眼のシャナ/高橋弥七郎:著」は02年に電撃文庫から刊行されたライトノベルだ。平凡な男子高校生・坂井悠二が異能のヒロイン・シャナと出会い、現代学園での青春的日常と超常的なファンタジーバトルがどちらも描かれるという作品だ。
 平凡な一般人主人公と異能系ヒロインという関係性の現代学園異能ものというジャンルを確立し、後発に大きな影響を与えたといわれている。

 一般人な男主人公と超強力なヒロイン、あるいは実質ダブル主人公という枠組みでなら、「うる星やつら」だけでなく「アウトランダーズ」「キャラバンキッド」など前例作品はある。「GS美神 極楽大作戦!!」の横島忠夫と美神令子の関係性と比較されることもある。
 ただ、後ろの3つは学園ものではないし、ライトノベルの学園ファンタジーといえばの「ブギーポップ」は自身が異能をもって強大な敵を打ち倒す最初から最強系存在であり、シリーズ全体では学園外で学生以外が起こすドラマも多いため、実はそんなに学園ものではないのではという説もある。

 公式にダブル主人公作品とされているが、それでもシャナがメイン主人公で「スレイヤーズ」でのリナ枠だから普通にヒロイック・ファンタジーだぞという見方や、坂井悠二は一般人とも言い難いやろなどの見方もある。
 そこらへんはある程度は個人の解釈の自由選択範囲ではあるだろう(※43)。

※43 この時代の作品で平凡な男子学生と異能ヒロインといえばゼロの使い魔も有名だが、こちらは異世界召喚/転生の章で。

 「とある魔術の禁書目録/鎌池和馬:著」は04年に電撃文庫より刊行されたライトノベルだ。巨大学園都市を舞台に主人公をはじめ同世代のライバルたちが異能力を有しており、バトル展開が占める割合が高い学園バトルファンタジーの大ヒット作だ。
 スピンオフ作品として漫画で刊行された「とある科学の超電磁砲」も大人気となった(以下シリーズまとめて:とある)。

 圧倒的売り上げを築いたこともあって学園バトルファンタジーの決定作や代表作、あるいはジャンルの指標作とされることが多い(※44)。また、能力の強さがレベルで表現されることから、後のなろう系で多く見られる強さ表現の母体になったという見方もあるようだが、これはどちらかといえば「ドラゴンボール」のスカウターや「幽々白書」の○級妖怪などの、古くからある強さ表現側のようには思う(※45)。

※44 召喚教師リアルバウトハイスクールも触れたいところだが異世界召喚/転生の章行きで

※45 ライトノベルでの事例としては、98年刊行のラグナロクはかなり本格的なハイファンタジー系バトル作品だが、A級やS級といった強さと連動した階級表現が出てくる

 「灼眼のシャナ」を日常青春恋愛要素も強い学園異能ファンタジーの基準、「とある」を学園バトルファンタジーの基準、そして「ハルヒ」をバトルメインとしない学園+超常ものの基準とする認識や「化物語」がライトノベルや一般文芸といった枠組みそのものを変革したという概念が定着し、後発作はそれぞれカテゴライズされていく。
 ライトノベルが学園もの一強になったと断言するのはなかなか判断が難しいが、そういう流れが主流・主役にはなっていく。

 そういった作品群は、ファンタジー要素のあるライトノベルとしては受け入れても本格的なファンタジー作品ではないとする考えは強い。
 SFだサイバーパンクだスチームパンクだ、和風だ西洋風だ、メルヘンだダークだよりも明確に強く、本格的なファンタジーが死んだとする主張の母体になっているのは『ここ』という印象がある。

 そういう意味ではやや尖った偏りのある断定という危険性はあるが、本格ファンタジーを殺したのは学園ファンタジーである、という言い方も出来るかもしれない。

 コンピュータゲームの方はどうだろうか。RPGでもファンタジーでもない「同級生」「ときめきメモリアル」といったアドベンチャー作品が主役になるだろう。そこから「To Heart」などにつながっていく流れが最重要と考えられる。
 とはいえ、RPGで学園ファンタジーといえば「女神異聞録ペルソナ(以下:ペルソナ)」があり、多くの派生シリーズの中でも「ペルソナ」は本家を食いかねないほどの人気作となる。
 RPG×ファンタジーにおいても学園ものは人気ジャンルとなっては行く。

 超圧縮ピックアップとしては学園×ファンタジー×バトル×セクシャルという要素構成がお見事な「まじかる☆タルるートくん」、バトルよりセクシュアル要素を大事にして思春期のハートを握りつぶした「電影少女」「To LOVEる -とらぶる-」、学園異能バトル漫画といえばの「天上天下」、歴史人物の魂が転生という形を採用してヒットした「一騎当千」、学園ラブコメというジャンルが台頭してくる時代にファンタジー要素を上手く取り入れた「魔法先生ネギま!」、既存のホラー作品とは異なる切り口でゾンビ系学園ファンタジーというジャンルを構築した「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」というところだろうか。

 私個人としては学園ファンタジーと本格的なファンタジーは共存しうるとは思っているが、「ロードス島戦記」と「ブギーポップ」「灼眼のシャナ」「とある」「ハルヒ」「化物語」は完全に違うジャンルと言われれば、それはそうと頷くのも確かではある。
 ただ、「ハリー・ポッター」が学園ファンタジー作品であることも事実なわけで、学園ファンタジーを本格的なファンタジーではないと切り分けるには「ハリー・ポッター」が本格的なファンタジーか否かをやらなければならない。
 それを回避する手段として学園ファンタジーと現代学園異能ファンタジーを別ジャンルと定義するという概念が出てくる。ここらへんもなかなか果てしない。

◆ロボはファンタジーではなくSF、でもファンタジーとSFは兄弟という難儀◆


 ロボットという言葉が生まれたのは1921年、劇作家の作品からと言われている。20年代といえばアメリカ・パルプ・フィクションの隆盛期であり、ヒロイック・ファンタジーへともつながるSF作品が世界を驚かせはじめていた時代だ。
 決定的な黄金期のSF作家として有名なアイザック・アシモフが生まれたのが20年であり、そういう意味では大きく開花する前夜とも言えるかもしれない。彼が「われはロボット」を刊行するのは50年となる。

 50年代以降はアーサー・C・クラーク、ロバート・A・ハインライン、アイザック・アシモフを代表とする本格的なSFというジャンルが整理されだした時代となり、同時に「指輪物語」以降がはじまる時代ともなる。
 それまではSFと怪奇幻想がちゃんぽんだったパルプ・フィクションから、本格的なSFと本格的なファンタジーの分離がはじまった時代とも言えるかもしれない。実際に綺麗に分かれたかどうかは別の話として。

 戦前日本のSFパイオニア作家や、戦後に御三家と言われた星新一、小松左京、筒井康隆なども多いに語りたいところだが、ライトノベルとRPGに影響を与えたロボットものという趣旨ということで、触れるべきは「鉄腕アトム(52年)」だろう。手塚治虫による、あまりにも有名なロボット漫画だ。
 今でいうアンドロイドのイメージに近い自我を持つ自立思考型タイプであり、「ドラえもん(69年)」や「Dr.スランプ(80年)」などはこの系譜といえるだろう。
 そして同じぐらい有名なのが横山光輝の「鉄人28号(56年)」だ。こちらはラジコンのように操作するタイプの非意志型として、操縦型ロボットものの始祖としてよく挙げられる。

 特定の愛好家層ではスーパーロボットという呼称も定着した、パイロットが乗り込むタイプの巨大な機械としてのロボットものとしては「マジンガーZ(72年)」が有名だ。
 70~80年代は既に見たように「宇宙戦艦ヤマト」や、ライトノベルの直接の親といえるジュブナイル小説でのSFブームなどが黄金期を迎えた時期であり、「鋼鉄ジーグ(75年)」「ゲッターロボ(74年)」「超電磁ロボ コン・バトラーV(76年)」「起動戦士ガンダム(79年)」「伝説巨神イデオン(80年)」「太陽の牙ダグラム(81年)」「超時空要塞マクロス(82年)」「装甲騎兵ボトムズ(83年)」「聖戦士ダンバイン(83年)」「機甲戦記ドラグナー(87年)」「魔神英雄伝ワタル(88年)」「魔動王グランゾート(89年)」といった作品が登場し、ロボットものというジャンルは日本エンタメ界においてはSFとは別物として独立を果たした印象がある。

 ライトノベルにおけるロボットものも、こういったロボットアニメブームの系譜作品がメインとなる。ライトノベル初期に活躍した人物としては、広井王子とあかほりさとるを挙げたい。

 広井王子は「魔神英雄伝ワタル」の仕掛け人でありプロデューサーを努めた人物だ。「魔動王グランゾート」も原作として関わっている。RPGと「ビックリマン」を参考にしたといわれる作風・世界観はライトノベルとよく馴染み、スニーカー文庫から刊行されたライトノベル版も人気シリーズとなった。

 同じくアニメとライトノベル両方で人気作となったのが、あかほりさとるの「NG騎士ラムネ&40(90年)」だ。ライトノベル初期のロボットものはノベライズに近い形の展開がメインだったと言っていいだろう。
 同作者はライトノベル発のロボットものとして「MAZE☆爆熱時空(93年)」も手掛けている。

 アニメと漫画で展開し小説は絡まなかったが、同じような楽しまれ方をした作品として「覇王大系リューナイト(94年)」もここに並べておきたい。
 ノベライズという意味ではアニメとは世界線が異なる別の物語であったり、映像化してないものもある「起動戦士ガンダム」の小説版や、アニメからは内容がアレンジされている「オーラバトラー戦記(86年)」なども人気を博した。

 ライトノベル発のオリジナルロボットものと呼ぶには少しだけ早かった作品としては「来放浪ガルディーン/火浦功:著」(86年)だろう。角川文庫から出た作品だが、後にスニーカー文庫版が刊行されている。
 そして、ファンタジー色が強いロボットものとして特筆したいのが「聖刻1092」だ。

 「聖刻1092/千葉暁:著」は88年にソノラマ文庫から刊行されたロボットが登場する小説だ。その誕生まではなかなか複雑な背景を持ち、ソノラマ発なのもあわせてライトノベルに含むか否かで議論が起きる作品でもある。  
 元々は獅子王という朝日ソノラマ社が発行する雑誌に掲載された、最初からイラストの重要度が高い企画作品で、ワースプロジェクトという多面展開企画の1つでもあり、TRPG展開なども行っている。
 シリアスなヒロイック・ファンタジーをベースにした戦記要素もある作品としてコアなファンを生み出した。「魔神英雄伝ワタル」や「NG騎士ラムネ&40」がいわゆる子供向け作品だったことや、小説も人気が出たとはいえやはりアニメが本体ということなどから、こちらをライトノベル黎明期のファンタジー系ロボットもの代表作とする声も強い。
 獅子王出身としては86年刊行の「ARIEL/笹本祐一:著」もSF系ロボットものとして名高い(※46)。

※46 ロボットものも定義論がまあまあ激しく、80年代ソノラマ発SF小説あたりはロボットものではないという声が強い作品も多い

 他にもアニメや漫画原作のノベライズなどが出てくるが、ファンタジー黄金期の90年代において、ライトノベル界ではロボットものは主役・主流というのは難しいところではあった。一定の人気はあるがアニメ・漫画ほどは盛り上がらない。
 アナログウォーゲームの「バトルテック」を原作とする「小説版バトルテック(91年)」や「バトルテック・ノベル(96年)」が輝いた時期でもあるが、これも区分けするならノベライズの範疇だろう(※47)。

 そんな中、新人賞に続きものを送ってみたら面白すぎて大賞を取ったがその続きの2巻が出なかった伝説の作品としても有名な「風の白猿神―神々の砂漠(95年)」なども登場はしたが、ライトノベルを代表するロボットもの誕生はファンタジーがセカイ系に侵食される時代でもあった98年を待つことになる。

※47 91年のはドラゴンブックから刊行された海外産小説の翻訳版で、96年のはTRPGに派生したメックウォリアーの存在も含んでの、ファンタジア文庫から出された国産シリーズとなる

 「フルメタル・パニック!/賀東招二:著」(以下:フルメタ)は98年にファンタジア文庫より刊行されたライトノベルだ。
 軍事力による平和維持を掲げる傭兵組織に所属する相良宗介が日本の高校に潜入し、人型強襲兵器のパイロットとしても活躍するという、現代学園ミリタリーロボットものというジャンルの大ヒット作だ。
 前述した学園ものの系譜でもあるといえる作品で、作者は「蓬莱学園」シリーズの関係者でもあるため、学園ものの古参とも言える。とはいえ、タイトルのインスパイア元として「フルメタル・ジャケット」があることや(※48)、大ヒット要因の1つとしてミリタリーへの造詣の深さがよく挙げられることなどから、実写系戦争映画やミリタリー架空戦記ものなどの方が母体であり、そこに「蓬莱学園」由来の古くからある学園ものを加えて、さらに新しく出てきた現代学園もののトレンドも取り込んだ作品という見方の方が良い気はする。
 それはそれとしてボーイ・ミーツ・ガール要素が好きという読者も多かったし、ふもっふ教徒も大量発生した(※49)。

 現代ロボットもの、ミリタリー系ロボットものというムーブメントの中での代表的作品となっていくわけだが、それは同時に「魔神英雄伝ワタル」のような、あるいは「聖刻1092」のようなファンタジー色が強いロボットものが衰退していく転換点でもあったかもしれない。
 少なくともライトノベルのロボットものといえば「フルメタ」という認識は令和まで続いていくことになる。

※48 スタンリー・キューブリックによる、ベトナム戦争を題材にした実写戦争映画

※49 フルメタル・パニック? ふもっふというアニメ作品。学園ラブコメ枠とされる

 06年までのライトノベル・ロボットものとしては「都市シリーズ(97年)/終わりのクロニクル(03年)」「E.G.コンバット(98年)」「コールド・ゲヘナ(99年)」「イコノクラスト!(04年)」あたりだろうか。

 ライトノベル外超圧縮ピックアップとしては、ロボットアニメのクリエイターでもあった著者による「ファイブスター物語」、ロボットではなくアンドロイドだよな「究極超人あ~る」、少女漫画発のファンタジー色の強い作品にして大人の男子も夢中になった「魔法騎士レイアース」、過去にも未来にもない一作というような評価をされる「高機動幻想ガンパレード・マーチ」、萌え系文化における自立思考型美少女ロボットという概念の礎となった「To Heart」に「ちょびっツ」、R-18作品発として今も語り継がれる「斬魔大聖デモンベイン」、ガンダム系のようでいてまた異なる新しい形のロボものとして高い評価を得た「コードギアス 反逆のルルーシュ」あたりだろうか。
 「サガシリーズ」「クロノ・トリガー」「ライブ・ア・ライブ」などでスクウェアが得意としたロボ枠という概念も無視したくないところだ。それからもちろん「エヴァ」を忘れてはいけない。

 「ターミネーター」「パトレイバー」「フロントミッション」「ゼノギアス」「ラーゼフォン」「ファフナー」「エウレカセブン」「アクエリオン」……名前だけは既に出せている作品を羅列しすぎても超圧縮もクソもないが、ロボものはライトノベルという枠で語らなければ、まあそれだけで書籍1冊は余裕な世界なのでどうにもこうにもだ。
 「ロボコップ(87年)」は未紹介だった気がする。特撮映画として制作され小説版も刊行された「ガンヘッド(89年)」も挙げておきたいところだ。

 玩具業界出身もスルーし難い。アメリカとの関係性が強い「ゾイド(82年)」や、日米の輸入・逆輸入が鍵となった「トランスフォーマー(84年)」が有名どころだ。
 アニメ化もしたこれらの作品の流れから生まれたと言えるのが「勇者シリーズ(90年)」だろう。

 他には、ガンダムというIPやロボものという概念をロングヒットさせることに大きく貢献した「SDガンダムワールド ガチャポン戦士(87年)」「スーパーロボット大戦(91年)」「SDガンダム GGENERATION(98年)」は重要だろう。ファンタジー論的には騎士ガンダムが一番重要かもしれない。

 あとは、格闘ゲームでロボものは流行らないという当時の常識を覆したと言われる「電脳戦機バーチャロン(95年)」、熱狂的信者が生まれやすいフロム・ソフトウェア作品でも別格扱いの風がある「アーマード・コア(97年)」、アニメとゲームが相互関係のように展開された「魔装機神サイバスター(99年)」などは挙げておきたいところだ。

 ロボものはライトノベルやRPG・SRPGで一定の存在感は示したが、やはり映画やアニメなどの映像系作品やゲームならアクションよりのジャンルが主戦場という印象は強い。
 そのほとんどがファンタジー作品として紹介されれば違和感を得る人の方が多いはずだ。私も本格的なファンタジー作品を紹介してと言われて「機動戦士ガンダム」や「ターミネーター」を出すことはないだろう。だがここで紹介した全ての作品を出さないかと言われれば出すものもある。この境界線は個人差が大きいだろう。
 その個人差がファンタジー論におけるロボものの位置を難しくしているのかもしれない。

◆分類できないことが本質という一面◆


 ずいぶんと長いこと06年までで止まってしまっているが、時代を進める前に咀嚼しておきたいライトノベルとRPGの構成要素に関しては、なんとか最低限は見れたのではないだろうか。
 ここから先はどう変化していくのか、いくつかの角度から本格的なファンタジーは主役ではなくなったという意味での死んだという表現は出来るとしたそれは甦るのか。

 それを見ていく最後の締めとして、ファンタジー黄金期とセカイ系ブームを経たライトノベルにおいて、ジャンルはさておきこれは実にライトノベルらしいライトノベルだねという概念も定着していたことを見ておきたい。その一例として挙げたい作品が「天華無敵!/ひびき遊:著」(03年)だ。

 ライトノベルにおいて令和まで続く何かを生み出したとか、新しいジャンルや概念を構築した金字塔とか、そういう言われ方をする作品ではない。
 ダブル主人公ものに近い作品だがそれぞれの名前を天華・白華と言い、タイトルとあわせて中華風ファンタジーものかなと思わせる。だが、実際の舞台は崩壊世界の超未来ものを示唆していて、重要なキーアイテムとして携帯メールが出てくる。
 その一方で精霊や剣聖といったファンタジーらしい概念も重要なものとして組み込まれており、私はこの作品をファンタジー小説ですかと問われれば迷わずYESと答えるが、何系のファンタジーですかと続けられたら、何系というかライトノベルらしいライトノベル・ファンタジーかなと答えるしか出来ない。

 これはこの作品だけの話ではなく、そういう作風はライトノベルという業界におけるひとつの答えだった。そしてその感覚を持ってライトノベルという概念を愛好していた層が、時代を経るにつれて自分が愛した世界が変容したと感じ、昔を愛し今を否定するというリアクションを起こす。そういう現象も、数多のファンタジー論には混じっていると感じている。
 少年ジャンプにおけるジャンプらしい作品などの概念論に近いのかもしれない。そしてそれは、ライトノベル誕生前を愛した層がライトノベル誕生と隆盛に対して得た感情でもある。

 だからどう、という結論をここで出すことはしない。だが、この先の時代も可能な限り丁寧に追いたいとは思っているが、多分きっとおそらくちょっと苦戦するだろう。
 何故かと言えば動画サイトやSNSにスマホといった存在によりエンタメの性質が変容していく時代であり、ライトノベルとコンピュータRPGを主役にファンタジーを見るというアプローチそのものが困難になっていくからだ。
 膨大になりすぎた世界、情報量の海の中で溺れるように足掻く醜態を晒すかもしれない。

 何が主役で何が脇役かもわからない時代、エンタメの多様化がもたらす大洪水を見ていく中で、貴方にとってのファンタジーらしいファンタジー、ライトノベルらしいライトノベル、RPGらしいRPGなどを並べて比較して頂ければ幸いだ。

 それでは行くとしよう、07年以降へ。

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