82(ぱに) / 平々八十二

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千年戦争アイギス10周年に捧げる、ファミコンSRPG後継者としてのアイギス

 「千年戦争アイギス」ってゲーム、ジャンルはタワーディフェンスでしょと思った方は正しい。合同会社DMM.com (以下:DMM)の提供するブラウザ型ゲームとしてはじまったこの作品は2023年11月で10周年を迎える。ソシャゲ全体の歴史では10年越えの作品は既に複数存在するが、それでもかなりの古参組と言える偉業だ。  私は「千年戦争アイギス」は日本エンタメのファンタジー黄金期、RPG全盛期とそれに付随するSRPGの歴史の系譜に連なる末っ子にして後継者であると考えている。その理由

    • ○終章 本格ファンタジー論と本格的なファンタジー愛

       ファンタジーを中心としたエンタメを系譜的に眺めること、あるいはライトノベルを主役にエンタメの歴史を探ることは、もともとライフワーク的趣味ではあった。だが、それを1つの記事としてアウトプットすることはなかなかできずにいた。  その理由として最大だったものが『スタートラインを決めかねる』状態にあったからだ。ライトノベル始祖論のやっかいさは序盤の章の時点で露骨に溢れ出ていたと思うが、どこをスタートにしても何故その作品から語るの? がついて回る。  それがファンタジーというジャンル

      • ○15章 令和エンタメとファンタジー ~パンドラの箱の中に本格は座しているか~

         長い旅も終わりが見えてくると寂しさを感じる。6年前が最近かなどは個人差が大きいだろうが、17~23年を今であるとして、そのトレンドを見ることで旅を終わるとしよう。  まずは小説界の今に渦巻く濁流の中へ、いざ。 ◆なろう系が見分けやすくなった乖離時代?◆ ・2017~19年の小説戦線 「86-エイティシックス-/安里アサト」「戦闘員、派遣します!/暁なつめ」 「スーパーカブ/トネ・コーケン」 「通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?/井中だちま」 「キミと

        • ○14章 アナログゲームのそれから ~ゲームの原点が魅せる底力~

           「ロードス島戦記」と「ドラゴンクエスト」誕生を見るにはTRPG文化の誕生と発展を見る必要があるとし、アナログウォーゲームの系譜も重要であり、「モンスターメーカー」のような存在もその過程で生まれたという話はしてきた。  既に名前を出したものをざっと再確認しておこう。 ◆ファンタジー黄金期前夜のアナログゲー◆ □TRPG ダンジョンズ&ドラゴンズ(1974年) □ゲームブック 火吹山の魔法使い(82年/日本語版85年) パックス砦の囚人(85年) ペーパーアドベンチャー、

        千年戦争アイギス10周年に捧げる、ファミコンSRPG後継者としてのアイギス

          ○13章 融合する新旧エンタメ ~スマホが全部悪いで済めば楽は楽~

           ライトノベル創世記は何をもってしてライトノベルとするのかが議論として盛り上がった。そしてまた、何をもってしてライトノベルとするのかの見解が一致しない時代がはじまる。  そんな2013年以降の荒波に船を漕ぎ出そう。 ◆右手に現代ラブコメを、左手に異世界転生を◆ ・2013~14年の小説戦線 「エロマンガ先生/伏見つかさ」「安達としまむら/入間人間」 「ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?/聴猫芝居」 「この素晴らしい世界に祝福を!/暁なつめ」「グランクレスト戦記/水野良」

          ○13章 融合する新旧エンタメ ~スマホが全部悪いで済めば楽は楽~

          ○12章 異世界より ~貴方が落したのは左の異世界召喚? 右の異世界転生?~

           異世界召喚・転移もの(※64)も始祖論をやるのは難易度が高いと呼ばれている代物だ。世界各国の神話には神の国や黄泉の国に訪れる物語が定番として存在し、またそちらから人間界に人外がやってくる話も多い。  ここではないどこかへ消えてしまったのだろうというような神隠し的伝承も多く、根源的なルーツはまあそれらなのだろう。  エンタメ文学という側面で源流的代表としてよく挙げられるのは「不思議の国のアリス(1865年)」や「ナルニア国物語(1950年)」あたりだ。  「不思議の国のア

          ○12章 異世界より ~貴方が落したのは左の異世界召喚? 右の異世界転生?~

          ○11章 エンタメ新時代の主役たち ~なろう、歌姫、ソシャゲは何を変えたか~

           06年で時代を止めて過去へ戻るなどするゾーンが長かったため、簡単な時系列としてのエンタメ小説戦線の振り返りをしてしまおう。 ~80年代:ライトノベル前夜。ソノラマ、コバルト、ティーンズハートなど ~94年 :ファンタジー黄金期。ロードス島戦記やスレイヤーズなど ~00年 :ヴァーチャル系萌芽とセカイ系。クリス・クロス、ブギーポップなど ~06年 :シャナ、ハルヒ、とあるなど現代学園もの台頭、WEB出身作品も  圧縮というやつはすればするほどそんなシンプルじゃないだろ感が

          ○11章 エンタメ新時代の主役たち ~なろう、歌姫、ソシャゲは何を変えたか~

          ○10章 和風・学園・ロボ ~それは酢豚のパイナップルか、シャキシャキ野菜か~

           ファンタジー論は色々な軸が跋扈しているという話をひたすらしてきたが、それでもやはり主流派として強いのは中世西洋風ファンタジー至高論だろう。  日本人がイメージする本格的なファンタジーが西洋風メインな理由はここまでの歴史回顧で見えてきていると思う。だが、別にファンタジー黄金期=西洋風一色だったわけではない。和風(東洋風)ファンタジー、学園ファンタジー、ロボット・ファンタジーという概念はファンタジー黄金期の終了を経て出てきたムーブメントというわけでもなく、最初期から普通に存在し

          ○10章 和風・学園・ロボ ~それは酢豚のパイナップルか、シャキシャキ野菜か~

          ○9章 ファンタジー観と郷愁 ~ジブリからダークファンタジーまで~

           「風の谷のナウシカ/宮崎駿:著」は1982年にアニメージュにて連載開始された漫画だ。科学文明が崩壊した後の終末世界を舞台にしたSF・ファンタジー作品であるが、そこだけをとってセカイ系の親玉や始祖だと言われることは基本的にない。  「猿の惑星」などの海外発SFムーブメント作品との関係性を研究する動きはある。  劇場版「風の谷のナウシカ/宮崎駿:監督」は84年に公開されたアニメ映画だ。まず漫画の連載がはじまり、連載しながら(休載を挟みながら)映画製作を行った流れは有名だが、振

          ○9章 ファンタジー観と郷愁 ~ジブリからダークファンタジーまで~

          ○8章 セカイ系以後の時代 ~ファンタジーの中心でセカイを壊したケモノ~

           「新世紀エヴァンゲリオン(以下:エヴァ)」は1995年にテレビ東京系列で放送されたTVアニメだ。原作はGAINAX、監督は庵野秀明(※21)で、90年代最大のアニメブームだ、社会現象としてヤマト級だいやそれ以上だ、エンタメはエヴァ前かエヴァ後かになっただ、セカイ系の始祖だなどなど、とにかく色々と語られている大ヒット作品である。 ※21 現在は原作・監督ともに庵野秀明表記  ブレイクの過程も夕方枠での放送当時はそんなでもなかったぞ深夜再放送からや説、パチンコが大ヒットした

          ○8章 セカイ系以後の時代 ~ファンタジーの中心でセカイを壊したケモノ~

          ○7章 世紀末でも強かった非セカイ系 ~ムーブメントはいつだってミルフィーユ~

           その引きでセカイ系やらないんかい! というクソ構成なわけですが、まあ普通に90年代後半から00年代前半は単純にエンタメ=セカイ系でしたというわけでもなかった。それまでのヒロイック・ファンタジー的ムーブメントからつながるファンタジー黄金期も絶好調継続中であり、セカイ系とはまた系統がずれる未来のトレンドが萌芽した時代でもある。  ここはすっぱりと章単位で切り分けるべきだろう。というわけで、セカイ系以外の動きを先に見てしまおう。 ◆ファンタジー黄金期に起きる、小さくも大きな変

          ○7章 世紀末でも強かった非セカイ系 ~ムーブメントはいつだってミルフィーユ~

          ○6章 ライトノベルとコンピュータRPGの黄金期 ~主役がファンタジーになった日~

           「ロードス島戦記」が本格的なファンタジーの代表なのか、ゲーム的で本格的ではないファンタジーの代表なのかは、もう答えを出してしまっても良い気がする。だが、その答えのために「スレイヤーズ」の登場と、そこから発せられたムーブメントはやはり確認しておきたい。一般的にライトノベルが誕生した時代、ライトノベル黄金期時代と呼ばれる90年代をみていくとしよう。 ◆スレイヤーズとライトノベル◆  「スレイヤーズ!/ 神坂一:著」は1989年に雑誌初出後、90年にファンタジア文庫から刊行さ

          ○6章 ライトノベルとコンピュータRPGの黄金期 ~主役がファンタジーになった日~

          ○5章 ロードス島戦記 ~ライトノベル始祖論だけは手を出すな~

           ジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズ、あるいはメアリー・シェリーやバイロンからはじめるのは厳しいとして、世界的なSFムーブメント、幻想怪奇ムーブメント、あるいはミステリーというジャンルの誕生と流行などが、江戸川乱歩や横溝正史の時代を生み出し、パルプ・フィクション的ムーブメントもそこへ混ざり合っていく中で、星新一や小松左京や筒井康隆の時代を生み出していく。  筒井康隆は少年少女向け小説と言われるジュブナイル小説の先導者としても知られており、「時をかける少女(1965年)」など

          ○5章 ロードス島戦記 ~ライトノベル始祖論だけは手を出すな~

          ○4章 ドラゴンクエスト ~伝説を育てた親は何人いてもよい~

           「ドラゴンクエスト/エニックス」は1986年にファミコンより発売された、コンピュータRPGだ。RPGブームは「ドラゴンクエスト」よりはじまった、日本のファンタジー観の多くは「ドラゴンクエスト」にあるなどとも言われる、国産ファンタジーの代表作である。あまりにも知名度が高すぎて、コンピュータRPGの始祖のように扱われることすらある。決してそうではないと知っている人の方が多いだろうが、まずはざっくりとドラゴンクエスト前夜を覗いてみるとしよう。 ◆コンピュータRPG始祖論もまあま

          ○4章 ドラゴンクエスト ~伝説を育てた親は何人いてもよい~

          ○3章 ゲームブックと日本アナログゲーム布教活動 ~ファミコン・ファンタジーとアナログ・ファンタジーをつないだ仲人~

           「火吹山の魔法使い/スティーブ・ジャクソン、イアン・リビングストン:共著」は1982年に刊行されたゲームブックだ。ゲームブックというカテゴリの始祖ではないが、日本でも流行したファンタジー系ゲームブックの最初期代表作とされており、著者の2人はTRPGの普及活動を行っていた人物である。  火吹山の魔法使い型のゲームブックとはざっくりと言ってしまうと、本を使って遊ぶ1人用アナログRPGだ。海外では大きなブームを呼び起こし多くのシリーズが登場したが、それはTRPGの流行や普及と同時

          ○3章 ゲームブックと日本アナログゲーム布教活動 ~ファミコン・ファンタジーとアナログ・ファンタジーをつないだ仲人~

          ○2章 ファンタジーのはじまりは指輪物語? ~そんな簡単な話でもないから困る~

           「指輪物語/J・R・R・トールキン:著」は1954年に刊行された、ファンタジー小説始祖論で必ず顔を出す作品だ。始祖論なら「ホビットの冒険(同著者:37年)」の方だろもワンセットでついてくる。この作品および著者は手塚治虫で例えるのが日本人には一番わかりやすいと思う。  漫画論をはじめてしまうと何がどうなっても大体は手塚治虫に到達してしまうように、ファンタジー論をはじめると大体は「指輪物語」に到達する。だが、別に手塚治虫は漫画というジャンル自体の始祖ではないし、トールキンもファ

          ○2章 ファンタジーのはじまりは指輪物語? ~そんな簡単な話でもないから困る~