○6章 ライトノベルとコンピュータRPGの黄金期 ~主役がファンタジーになった日~

 「ロードス島戦記」が本格的なファンタジーの代表なのか、ゲーム的で本格的ではないファンタジーの代表なのかは、もう答えを出してしまっても良い気がする。だが、その答えのために「スレイヤーズ」の登場と、そこから発せられたムーブメントはやはり確認しておきたい。一般的にライトノベルが誕生した時代、ライトノベル黄金期時代と呼ばれる90年代をみていくとしよう。

◆スレイヤーズとライトノベル◆


 「スレイヤーズ!/ 神坂一:著」は1989年に雑誌初出後、90年にファンタジア文庫から刊行されたライトノベルだ。富士見書房が開催した第一回ファンタジア長編小説大賞の準入選受賞作であり、88年創刊の月刊ドラゴンマガジン(以下:ドラゴンマガジン)に短編を掲載しながら、同88年創刊のファンタジア文庫より書き下ろし長編を刊行するというスタイルで圧倒的な人気を博した。この形式での長編・短編/文庫書き下ろし・雑誌連載の同時展開戦略はライトノベル黄金期における富士見書房のお家芸となり、令和の現代にまで継承されている。

 主人公が魔法使いの少女で相棒が青年剣士という組み合わせはしばらくの間新人賞応募作が『そればかりになった』という逸話を生み出したり、特殊な漢字やフォントサイズ変更を利用した独特の文体は以降のライトノベルの型になったと言われるなど、後発に与えた影響が大きい。作風は長編本編の方は実はかなりシリアスであり、本格的な戦闘描写のあるバトル・ファンタジーとしても評価されている。

 ライトノベルという単語は70年代に三島由紀夫も絡んでいるような一般文芸界隈で生まれたという話もあったりするが、ここまでで見てきたライトノベル的雰囲気の作品群はジュブナイル小説、ジュニア小説、ヤングアダルト小説、ファンタジーノベルなど割と好き勝手に呼ばれていて、特に整理・統合はされていなかった。それがスニーカー文庫とファンタジア文庫の創刊、「ロードス島戦記」のスニーカー文庫移籍や「スレイヤーズ」の大ヒットなどの流れを経て、これらは全てライトノベルという新しい小説形態であるという認知が定着していく。
 角川書店と富士見書房が積極的にライトノベルという概念を採用・宣伝・拡散する方向性に舵を切ったことも定着への大きな要因だろう。そこから遡って創刊のより古いコバルト文庫や講談社X文庫(※9)、ソノラマ文庫などもライトノベルのレーベルであるとされるようになった流れだ。それを是とせず、ライトノベルと呼ぶなという激論も日々発生している。

※9 正確にはX文庫、X文庫ティーンズハート、X文庫ホワイトハートなど複数存在するのだがまとめて講談社X文庫表記とさせて頂く

◆スレイヤーズを中心とした「明るい」小説、あるいは「軽い」小説◆


 ライトノベルの『ライト』を、難解でとっつき難い純文学や海外翻訳文学と比較して明朗快活で少年少女にも読みやすい小説と解釈するか、古き良き重厚で壮大なエピック・ファンタジーやヒロイック・ファンタジーと比較して軽薄で本格的ではない小説と解釈するかの正解はない。それは誕生したその時からどちらの評価・価値観も混在していたものだからだ。

 ただ、それでもあえてどちらかといえばをやるのであれば『軽い』解釈が少し強かっただろうか。その空気感を後押した作品としてよく挙げられるのが「スレイヤーズ」を筆頭に「フォーチュン・クエスト/深沢美潮:著」(89年)、「ゴクドーくん漫遊記/中村うさぎ:著」(91年)、あかほりさとる作品といったあたりだ。

 「フォーチュン・クエスト」はこれほどはっきりとTRPGリスペクトを隠さない国産小説も珍しいという程にはTRPGをベースとした作品であり、登場するキャラクターたちはレベルやステータスが可視化された世界の住人だ。敵から逃げると経験値が入らないが逃げるも冒険者としての立派な経験値ではないのかといったテーマが描かれたり、主人公たちが異種族との交流としてTRPGを一緒に遊ぶという描写が存在したりする。TRPGを摂取せずにファミコンRPGからライトノベルに入る少年少女も増えて行く中で、「フォーチュン・クエスト」はドラクエ的TVゲームリスペクト小説だと認識した読者もいるようだ。

 「ゴクドーくん漫遊記」はざっくり言ってしまうと「ロードス島戦記」のようなファンタジー世界を、「ハーメルンのバイオリン弾き(91年)」「魔法陣グルグル(92年)」のようなノリ・切り口で描いた小説だ。少年ガンガンはわかるという層も多いだろうと考え、そういう紹介をさせていただく。

 あかほりさとるはアニメ畑出身のクリエイターであり、小説版「天空戦記シュラト(89年)」で小説家としても活動を開始した人物だ。ロボとファンタジーを後述する際や異世界召喚と異世界転生を見て行く際にも顔を出すだろうが、ここでは氏の書くライトノベルがとにかく軽く、薄く、明るかったこと、あるいはアニメ的擬音の流用が得意技だったことなどからライトノベル=軽い=あかほりさとるといったような称号(?)を得た作家だったことを紹介しておく。

 「スレイヤーズ」を含めて上記で挙げた作品は『軽い』や『本格的ではない』という先入観ありきでいざ読んでみると、意外とそうでもないことに驚くかもしれない。その世界観や物語からはシリアス的な壮大さを感じさせることも多々で、奥深さもしっかりと感じる作品ばかりだ。軽薄の代表とまでいわれたあかほり作品からもそれはちゃんと感じとれる。

 だが、それでもやはりそれらに強い抵抗やなんか違うんだよな感を抱くファンタジーファン層というものは生まれてしまう。技術的なアプローチの違いや、創作ロジックそのものが違うなどもあるはあったのだろう。
 そういった評価を下した層は、最初は「指輪物語」やヒロイック・ファンタジー黎明から続くファンタジームーブメントと比較してそう指摘していた可能性が高い。彼らにとってはゲーム的な匂いを感じ取れる「ロードス島戦記」や「フォーチュン・クエスト」、擬音テキストの強調やアニメ的掛け合いのノリが埋め込まれている「スレイヤーズ」やあかほり作品などは、まとめてライトノベルという本格的ではない軽いジャンル作品となる。

 だが、同じライトノベル=軽薄評価層でも、また異なる視線を持つ層も登場しはじめてくる。それが海外ファンタジームーブメントや「D&D」ムーブメントを古すぎる、あるいはマニアックすぎて存在を知らないとして摂取しておらず、それらを経由せずに国産小説やコンピュータRPGからファンタジーに目覚めた層だ。

 そういった層が爆発的に増えたからこそファンタジー黄金期と呼ばれるわけでもあり、この層の中で新しいジャンルとしてのライトノベル・ファンタジーを軽いと感じた者たちは、軽くない重厚で壮大な作品のルーツを「グイン・サーガ」や「アルスラーン戦記」、あるいは「吸血鬼ハンター"D"」といった作品に求めた。さらにその中から「ロードス島戦記」や「ドラゴンクエスト」をそっち側の所属として圧倒的に売れた頂点的代表作であると認識する層が形成されていく。
 そうして「スレイヤーズ」は新しく軽い本格的ではないファンタジーの代表であり、「ロードス島戦記」は古き良き本格的なファンタジーの代表であるという価値観が産まれる。

 これが、「ロードス島戦記」が本格的なファンタジーであるとされると同時に、あれは本格的なファンタジーとして評価されてなかったよとも言われるその理由であると私は考えている。

 ライトノベル・ファンタジーがバブルの如く勢いを増し、「ドラゴンクエスト」以降のコンピュータゲームの王道がファンタジーとなっていく中で、どんどんと「指輪物語」やパルプ・フィクション時代は古すぎる存在となっていく。そして「D&D」とTRPGムーブメントを直接的な親とする作品たちもその古すぎる枠側の住人とされていき、それら古典の遺伝子の後継者代表として「ロードス島戦記」が評価される風向きが強まる。「ソード・ワールドRPG」などの動きもあるがそちらはまた別に追うとして、ファンタジー黄金期の作品群を、ライトノベルとコンピュータゲームを中心に見ていこう。

◆輝かしきファンタジー黄金期◆


・89~95年のライトノベル戦線
「フォーチュン・クエスト/深沢美潮」「三剣物語/ひかわ玲子」
「自航惑星ガデュリン/羅門祐人」「宇宙一の無責任男(無責任艦長タイラー)/吉岡平」
「雷の娘シェクテ/嵩峰龍二」「小説版ソード・ワールド関連/著者複数」
「ハイスクール・オーラバスター/若木未生」「破妖の剣/前田珠子」
「ユメミと銀のバラ騎士団/藤本ひとみ」「悪霊がいっぱい!?/小野不由美」
「小説版ドラゴンクエスト/高屋敷英夫」「界渡りの魔道者/麻城ゆう」
「羅刹王/六道慧」「ねこたま/小林めぐみ」
「炎の蜃気楼/桑原水菜」「アナトゥール星伝/折原みと」
「星虫/岩本隆雄」「機神兵団/山田正紀」
「宝剣物語/伊東麻紀」「ゴクドーくん漫遊記/中村うさぎ」
「メルヴィ&カシム/冴木忍」「妖魔夜行/山本弘・他」
「蓬萊学園の初恋! /新城十馬」「小説版モンスターメーカー/鈴木銀一郎」「王国物語/山崎晴哉」「星魔バスター/丘野ゆうじ」
「闇に歌えば/瀬川貴次」「都市戦記 妖魔アルディーン/井上ほのか」
「ルナル・サーガ/友野詳」「ロスト・ユニバース/神坂一」
「百星聖戦紀/ひかわ玲子」「〈卵王子〉カイルロッドの苦難/冴木忍」
「カウス=ルー大陸史・空の牙/響野夏菜」「十二国記/小野不由美」
「日帰りクエスト/神坂一」「MAZE☆爆熱時空/あかほりさとる」
「それゆけ宇宙戦艦ヤマモトヨーコ/庄司卓」「魔法戦士リウイ/水野良」
「漂流伝説クリスタニア/水野良」「ソーサラー狩り 爆れつハンター/あかほりさとる」
「大久保町の決闘/田中哲弥」「クリセニアン年代記/ひかわ玲子」
「龍と魔法使い/榎木洋子」「デルフィニア戦記/茅田砂胡」
「魔術士オーフェンはぐれ旅/秋田禎信」「クリス・クロス 混沌の魔王/高畑京一郎」
「竜剣物語/D.J. ハインリヒ」「天高く、雲は流れ/冴木忍」
「風の白猿神 神々の砂漠/滝川羊」「ロケットガール/野尻抱介」
「タイムリープ あしたはきのう/高畑京一郎」「五霊闘士オーキ伝/土門弘幸」
「龍は微睡む/真堂樹」

 この手の抜粋リストは突っ込まれてなんぼである。あれがないこれがないなど、まあ大量にあるだろう。
 「星虫」は一般文芸での初出後にソノラマ文庫でも刊行された作品だ。多分ライトノベルではない。が、今後もそういう作品はリスト入りしてくる。
 「フォーチュン・クエスト」「ゴクドーくん漫遊記」は軽く紹介済だが、「炎の蜃気楼」は最終的に全47巻に到達する人気を誇り、この時代の少女小説を代表する作品となる。
 「十二国記」は異世界召喚・転移ものの名作、あるいは東洋風ファンタジーの傑作として少女小説の枠を超え、ファンタジー史に名を残す。
 「竜剣物語」は「D&D」を原作とする作品だ。ライトノベル世代へも布教しようという動きは見られてはいた。
 高畑京一郎という作家は後の章の主役の1人となるので、覚えておいて頂けると大変有り難い。

 レーベルの動きをみておこう。スニーカー文庫、ファンタジア文庫の2強+古豪のソノラマ文庫時代と言われる中、スーパーファンタジー文庫やスーパークエスト文庫が参戦、後にファミ通文庫へとつながるログアウト冒険文庫も誕生している。
 一般小説界が主戦場だったノベルズからもライトノベルにカテゴリされるレーベルが新設されるなどの動きがあった。週刊少年ジャンプ(以下:少年ジャンプ)も93年にジャンプジェイブックスを創設、小学館もキャンバス文庫を創刊させた。
 大陸書房は90年に大陸ネオファンタジー文庫を創刊したが92年に会社が倒産している。非常に短い活動だったがごく少数とはいえ名作を輩出した。「女戦士エフェラ&ジリオラ」などは大陸書房出身作品だ。
 一般文芸としてC★NOVELSというレーベルを持っていた中央公論新社も93年にライトノベルに寄せた暖簾わけとしてC★NOVELSファンタジアを創刊している。
 そして電撃文庫も93年創設だ。いわゆる角川お家騒動関連は本記事ではやらないが、電撃文庫はライトノベル戦国史を塗り替えた覇王とか魔王とか絶対王者とか呼ばれる怪物レーベルに成長する存在となっていく。
 少女小説では古参のコバルト文庫と講談社X文庫が2強状態だが、こちらも小学館がパレット文庫で参戦している。

 児童文学も最低限は拾いたいと考えてはいるのだが、「かいけつゾロリ(89年)」を挙げておく。また、ライトノベルとコンピュータRPGを主役として見て行く中で、一般文芸をどこまで拾うかは大変難しい。オタク的エンタメに影響を与えた作品などは紹介していきたいと考えているが、この時代だと「リング(91年)」あたりだろうか。

◆家庭用ゲーム黄金期と、密かに花開くPC-R18時代◆


・87~89年のコンピュータRPG戦線
「デジタル・デビル物語 女神転生/ナムコ」「ファイナルファンタジー/スクウェア」
「桃太郎伝説/ハドソン」「闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光/データイースト」
「インドラの光 ケムコ」「エスパードリーム/コナミ」
「ゾンビハンター/ハイスコアメディアワーク」「月風魔伝/コナミ」
「未来神話ジャーヴァス/タイトー」「魔城伝説II ガリウスの迷宮/コナミ」
「カリーンの剣/DOG」「ファンタシースター/セガ」
「ソーサリアン/日本ファルコム」「イース/日本ファルコム」
「ダンジョンマスター/FTL GAMES」「ラプラスの魔/ハミングバードソフト」
「貝獣物語/ナムコ」「半熟英雄/スクウェア」
「ティル・ナ・ノーグ/システムソフト」「ダンジョンエクスプローラー/ハドソン」
「アークス/ウルフ・チーム」「カオスエンジェルズ/アスキー」
「ファミコンジャンプ 英雄列伝/バンダイ」「MOTHER/任天堂」
「天地を喰らう/カプコン」「天外魔境 ZIRIA/ハドソン」
「ヴァーミリオン/セガ」「魔界塔士Sa・Ga/スクウェア」
「セレクション/選ばれし者 ケムコ」「エメラルドドラゴン/バショウハウス」
「サーク/マイクロキャビン」「ドラゴンスレイヤー英雄伝説/日本ファルコム」
「魔導物語/コンパイル」「ドラゴンナイト/エルフ」
「Rance -光をもとめて-/アリスソフト」

・90~95年のコンピュータRPG戦線
「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣/任天堂」「46億年物語/エニックス」
「SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語/バンダイ」「サイバーナイト/トンキンハウス」
「サンサーラ・ナーガ/ビクター音楽産業」「コズミックファンタジー/日本テレネット」
「アレサ/やのまん」「鬼忍降魔録 ONI/バンプレスト」
「ドラゴンクリスタル ツラニの迷宮/セガ」「ドラッケン/インフォグラム」
「シンドバッド 地底の大魔宮/IGS」「闘神都市/アリスソフト」
「じゅうべえくえすと/ナムコ」「天使の詩/日本テレネット」
「ラグランジュポイント/コナミ」「メタルマックス/データイースト」
「リトルマスター ライクバーンの伝説/徳間書店インターメディア」
「ラングリッサー/NCS」「バハムート戦記/セガ」
「シャイニング&ザ・ダクネス/セガ」「聖剣伝説 ~ファイナルファンタジー外伝~/スクウェア」
「ロマンシング サ・ガ/スクウェア」「摩訶摩訶/シグマ商事」
「レナス 古代機械の記憶/アスミック」「ヒーロー戦記 プロジェクト オリュンポス/バンプレスト」
「シャイニング・フォース 神々の遺産/セガ」「ランドストーカー/セガ」
「LUNAR ザ・シルバースター/ゲームアーツ」「DALK/アリスソフト」
「プリンセス・ミネルバ/リバーヒルソフト」「伝説のオウガバトル/クエスト」
「ブレスオブファイア/カプコン」「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン/チュンソフト」
「アルバートオデッセイ/サンソフト」「デュアルオーブ/聖霊珠伝説 I'MAX」
「エストポリス伝記/タイトー」「エルファリア/ハドソン」
「ガイア幻想紀/エニックス」「バズー!魔法世界/ホット・ビィ」
「神聖紀オデッセリア/ビック東海」「ファイナルファンタジーVI/スクウェア」
「ライブ・ア・ライブ/スクウェア」「フェーダ/やのまん」
「ダークキングダム/日本テレネット」「キングスフィールド/フロム・ソフトウェア」
「英雄志願/マイクロキャビン」「クロノ・トリガー/スクウェア」
「タクティクスオウガ/クエスト」「テイルズ オブ ファンタジア/ナムコ」
「ミスティックアーク/エニックス」「空想科学世界ガリバーボーイ/ハドソン」
「天地創造/エニックス」「FRONT MISSION/スクウェア」
「グランヒストリア ~幻史世界記~/バンプレスト」「風来のシレン/チュンソフト」
「リンダキューブ/NEC-HE」「アークザラッド/SCE」
「ビヨンド ザ ビヨンド/~遥かなるカナーンへ~ SCE」「幻想水滸伝/コナミ」
「ソードアンドソーサリー/マイクロキャビン」「ロマンスは剣の輝き/フェアリーテール」

 ハード史は深くはやらないが、ファミコンの後継作であるスーパーファミコンと持ち運び可能なゲームボーイが出てきている。メガドライブと発展系のCD版、PCエンジンと発展系のCD版がライバル関係として存在していた。 
 他にアーケードと縁が深いネオジオなどがコアゲーマーに愛されている。さらに次世代機も動き出しており、94年にはセガサターンとプレイステーションが姿を現している。

 リストを見ていこう。まずは「ファイナルファンタジー」だろう。RPGブームは「ドラゴンクエスト」以降より加速度を増し、無数の新作が投入されている。その中で「ドラゴンクエスト」のライバルとか同格の2強などと称される存在へと育って行く、日本を代表するRPGだ。
 他に「イース」「デジタル・デビル物語 女神転生」「ドラゴンスレイヤー英雄伝説」「ファイアーエムブレム」「魔界塔士Sa・Ga」「聖剣伝説 ~ファイナルファンタジー外伝~」「テイルズ オブ ファンタジア」「シャイニングシリーズ」「ブレスオブファイア」「アークザラッド」なども人気シリーズの地位を確立し、一部名称変更や発売元変更などが発生するものもあるが、長く愛されていくことになる。

 「クロノ・トリガー」は、日本RPGの2大人気と言っていい「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」のスタッフが集結して制作されたとして大きな注目を呼び、注目を遥かに超える名作として語り継がれることになる。
 令和の現在でも熱狂的なファンが多数存在するのが「伝説のオウガバトル」「タクティクスオウガ」だ。ゲームにおけるダークファンタジーの最高峰という評価をする者も多い。
 「トルネコの大冒険」「風来のシレン」は不思議のダンジョンシリーズとして日本にローグライクを布教したとも言われている。ローグライクとはファミコン前夜のコンピュータRPGでちらりと出た「ローグ」っぽいゲームというカテゴリとなる。
 「空想科学世界ガリバーボーイ」はマルチメディア前提企画であり、リリース自体はアニメの方が早かった作品だ。
 「ラプラスの魔」はジャンルとしてはホラーであり、クトゥルフに連なる作品でもある。ホラー史も本記事ではやらないが、クトゥルフは触るし、ゾンビやグールやゴーストなども本格的なファンタジー世界の住人だしと、ファンタジーを探る旅で無視してはいけないジャンルにはなってくる。「シャドウゲイト(89年)」や映画の「スウィートホーム(89年)」をゲーム化したファミコン版なども後発のファンタジーゲームに影響を与えたホラー作品だろう。

 PC界ではR-18ゲーム、いわゆるエロゲーが大きく花開いた時代だ。80年代前半に源流は生まれてはいたが、ファンタジー色の強い作品を武器とするエルフとアリスソフトを中心に、ファンタジーの歴史としても極めて重要な独自文化を形成していく。エロゲーを無視した日本でのファンタジー論は成立しないと言ってしまって問題ないだろう。「ドラゴンナイト」や「Rance -光をもとめて-」などが人気シリーズとなっていく。

 RPGという枠から弾かれたゲームも拾っておこう。

「愛戦士ニコル」「バイオ戦士DAN」「ポケットザウルス 十王剣の謎」「妖怪倶楽部」「ロックマン」「R-TYPE」「ドラゴンスピリット」「妖怪道中記」「メタルギア」「伝説の騎士エルロンド」「えりかとさとるの夢冒険」「スナッチャー」「忍者龍剣伝」「獣王記」「PC原人」「マインドシーカー」「ワギャンランド」「キャッスルオブドラゴン」「ゴールデンアックス」「アクトレイザー」「暴れん坊天狗」「F-ZERO」「重装機兵レイノス」「妖精物語ロッド・ランド」「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」「レミングス」「コットン」「星のカービィ」「アローン・イン・ザ・ダーク」「魔法大作戦」「妖獣戦記」「聖少女戦隊レイカーズ」「ポリスノーツ」「ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ」「パンツァードラグーン」「クロックタワー」「カルネージハート」「QUOVADIS」

 あたりがSF・ファンタジー色が強い作品だろうか。

 さらに、エンタメ業界全体に与えた影響力が高い作品が多くある。SF・ファンタジー要素なし作品も込みで紹介したい。

・アナログウォーゲームの系譜を継ぐと言える「ファミコンウォーズ」「マスターオブモンスターズ」「ロイヤルブラッド」
・こちらはボードゲームの電子版と言える「桃太郎電鉄」「爆笑!!人生劇場」「いただきストリート」「すごろクエスト ダイスの戦士たち」「決戦!ドカポン王国IV ~伝説の勇者たち~」
・元祖アイドルもの(?)とも言われカルト人気の高い「アイドル八犬伝」
・世界や街を構築するシミュレーション系の「ポピュラス」「シムシティ」
・アドベンチャーゲーム史の重要作品となる「きゃんきゃんバニー」「同級生」
・ファンタジー世界での育成ゲームという新世界を築いた「プリンセスメーカー」
・色々やりすぎたし色々遅すぎたファミコンソフトとして伝説になってしまったSFアドベンチャーの「メタルスレイダーグローリー」
・格闘ゲームブームと黄金期を生み出した怪物作である「ストリートファイターII」
・格闘×3Dポリゴン、格闘×和風伝奇、格闘×ファンタジー代表として「バーチャファイター」「SAMURAI SPIRITS」「ヴァンパイア」
・未来のFPSにつながる伝説のはじまりとなった「DOOM」
・女性向けとして作られた恋愛要素の強い「アンジェリーク」
・ファンタジー世界の住人となって多数のキャラクターと交流し日常を過ごす「ウィザーズハーモニー」

 コンピュータゲームにおける○○はここからはじまったが目白押しの時代だ。ついついあれもこれもと拾ってしまう。
 そういえば、リストの方ではシリーズものは拾い過ぎないように初代のみ掲載に務めているのだが、ナンバリングものである「ファイナルファンタジーVI」をこっそり拾っている。これは本記事のテーマである本格ファンタジーは死んだのか? を見て行く際のチェックポイントに設定したい意図があるからだったりする。
 しかしまあ、それをやるのはもう少しだけ後になる。

◆ファンタジー論やるなら結局必須な漫画・アニメ・ゲーム◆


 大変申し訳ないがライトノベルとコンピュータRPG以外は、より簡略化された紹介となる。まず漫画から見てみよう。

・86~89年
「ファイブスター物語」「イティハーサ」「妖精国の騎士」「ぼくの地球を守って」「アリーズ」「らんま1/2」「ジョジョの奇妙な冒険」「ゴッドサイダー」「ヴイナス戦記」「3×3 EYES」「雷火」「魍魎戦記MADARA」「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」「ドラゴンハーフ」「サイレントメビウス」「ああっ女神さまっ」「望郷戦士」「機動警察パトレイバー」「寄生獣」「まじかる☆タルるートくん」「YAIBA」「吸血姫夕維」「電影少女」「DRAGON QUEST -ダイの大冒険-」「スプリガン」「ベルセルク」「精霊使い」「攻殻機動隊」「銀河戦国群雄伝ライ」

・90~95年
「幽☆遊☆白書」「うしおととら」「遥かなる異郷ガーディアン」「ドラゴン騎士団」「BASARA」「銃夢」「東京BABYLON」「アウターゾーン」「南国少年パプワくん」「ハーメルンのバイオリン弾き」「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」「覇王伝説 驍」「機神幻想ルーンマスカー」「マトゥルスの血族」「聖獣伝承ダークエンジェル」「影技 SHADOW SKILL」「ダーク ウィルベル」「魔法陣グルグル」「GS美神 極楽大作戦!!」「美少女戦士セーラームーン」「ふしぎ遊戯」「X」「NINKU -忍空-」「地獄先生ぬ~べ~」「魔法騎士レイアース」「無限の住人」「龍狼伝」「鬼神童子ZENKI」「A・Iが止まらない!」「ドラゴンヘッド」「ヱデンズボゥイ」「天使禁猟区」「天は赤い河のほとり」「少年魔法士」「レベルE」「烈火の炎」「青龍」「トライガン」

 といったところだろうか。漫画専門誌での連載だけではなく、ライトノベル雑誌やアニメ雑誌に掲載された作品も多い。少年ジャンプ系では藤崎竜もこの時代にファンタジーを題材にした短編を手掛けている。
 エピック・ファンタジーやヒロイック・ファンタジーの系譜を継ぐというような異世界舞台のファンタジー作品、舞台は現代でそこにファンタジー要素が入ってくる作品、異世界や現実の過去世界に召喚ないしタイムスリップする作品など色々な切り口が存在し、この特徴は同時代のライトノベルと共通点が多い。

 ダークファンタジーという概念は本格的なファンタジー観というものを見る時に極めて重要なピースとなるもので、「BASTARD!! -暗黒の破壊神-(以下:バスタード)」「ベルセルク」はその方面の代表的作品として名高い。
 また、「ダーク ウィルベル」はR-18漫画、成年コミックと呼ばれるカテゴリの作品だが、性的描写が絶対的主役ではないダークファンタジー寄りのストーリー漫画として単行本化もされた。

 少女漫画界も誕生期からSF・ファンタジー作品が強いが、今も語られる歴史的名作を多数輩出している。「美少女戦士セーラームーン」「ふしぎ遊戯」などは男性ファンも獲得した。

 他に、歴史大河ものという枠になるが「花の慶次 -雲のかなたに-」や「蒼天航路」も人気作となった。「雷火」や「龍狼伝」も歴史枠ではあるのだが、そこの切り分けはふわっとやらせて頂く。
 エンターテイメント活劇大河とでも名付ければよいだろうかなジャンル作品として「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」もヒット作となった。

 アニメでは「アニメ三銃士(87年)」と「ふしぎの海のナディア(90年)」はNHKで放送され、世界名作劇場や宮崎作品と並んで愛好された。
 「トップを狙え(88年)」はこの時期のオタクエンタメとして重要な作品だろう。「天地無用!(92年)」は小説版もヒットし、スピンオフとして「魔法少女プリティサミー(95年)」も生まれた。他に「SMガールズ セイバーマリオネットR(95年)」などが話題となった。

 「魔神英雄伝ワタル(88年)」「魔動王グランゾート(89年)」「NG騎士ラムネ&40(90年)」「覇王大系リューナイト(94年)」など、ファンタジー色の強いロボットものが存在感を発揮した時代でもあった。「機動武闘伝Gガンダム(94年)」はシリーズの転換点となった作品として、ガンダム史においても重要とされている。
 ロボットものではないが「新世紀GPXサイバーフォーミュラ(91年)」も人気を博した。

 「KEY THE METAL IDOL(94年)」はロボットの少女がアイドルを目指す物語だ。時代を経て機械少女、ヴァーチャルもの、アイドルものなどのテーマが脚光を浴びたことにより源流的扱いをされることもある。

 映画からは「ラビリンス 魔王の迷宮(86年)」や「ウィロー(88年)」あたりだろうか。古典的名作である「不思議の国のアリス」や「オズの魔法使い」の実写映画もブームとなった。
 宮崎駿によるスタジオジブリ創設が85年だ。85年までを雑に羅列した際に一部作品名も出しているがここでは「天空の城ラピュタ(86年)」のみ紹介して、宮崎駿特集は別に設ける。

 あとは劇場版として「プロジェクトA子(86年)」「オネアミスの翼(87年)」「AKIRA(88年)」「攻殻機動隊(95年)」なども公開された。また、「ブレイブハート(95年)」は歴史大河ものになるが、ファンタジー愛好家からも高い評価を得た。

 さすがに省略したが「D&D」や「ロードス島戦記」も様々な派生展開が行われている。それと今回、魔法少女ものや特撮系などを拾えていない。ディズニーやアメコミなども厳しそうだ。ホントのホントはファンタジー論やるならそこも必要なんですけどね。

◆この時代のジャンルわけ認識はどうだったのか◆


 さて、羅列するのはよい。問題はこれらを羅列した上で、本格ファンタジーを探る旅および本格ファンタジーは一度死んだのかを検証する旅の肥やしとせねばならぬことだ。

 私は80年代末期から95年ぐらいまでのゴールドラッシュもびっくりなファンタジー黄金期において、これはSF、これはファンタジー、これは本格でこれはライトといった切り分けを行うムーブメントは一部の強い拘りをもつ熱心なマニア層以外ではさほど起きていなかったと考えている。

 小説で、ゲームで、漫画で、アニメで、映画で、次から次へと洪水のごとくファンタジー的な作品が押し寄せる中で、自分が一番好ましく思う作品を選別し、それと近い匂いのする別の作品漁りへと没頭する過程からSF要素が強い方が好みの者、その逆の者、0-100にこだわる者などが現れはしたが、それでも全部まとめてSF・ファンタジーで処理する層の方が圧倒的に多かった印象がある。
 ライトノベルかそうでないかを切り分け、肯定派か否定派かというようなオタク派閥バトルみたいな動きもあるにはあったが、この時代はどちらかというと海外文学や日本の純文学を至高とする層がライトノベルを小説もどきとして見下すムーブメントの方が目立っていた気はする。

 だが、ファンタジー愛好家やライトノベル愛好家などの層の中でも、95年あたりから少々空気感が変わってくる。90年代最大規模の社会現象となる怪物作品「新世紀エヴァンゲリオン」の登場と、そこをきっかけにはじまったといわれる90年代後半のエンタメ界一大ムーブメントだ。

 その現象はやがてセカイ系と呼ばれることになる。

 私は、本格ファンタジーは死んだのかの鍵はこの時代にあると考えている。扉を開ける呪文を唱えよう、エヴァ、セカイ系、ブギーポップ、ハルヒ、西尾維新、あるいはクラインの壺、高畑京一郎、.hack──重いファンタジーだ軽いファンタジーだSFの影響の大小がうんぬんだを全てまとめて古い過去の時代化させる90年代後半から00年代へ、旅は進む。

⇒7章へ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?