○11章 エンタメ新時代の主役たち ~なろう、歌姫、ソシャゲは何を変えたか~

 06年で時代を止めて過去へ戻るなどするゾーンが長かったため、簡単な時系列としてのエンタメ小説戦線の振り返りをしてしまおう。

~80年代:ライトノベル前夜。ソノラマ、コバルト、ティーンズハートなど
~94年 :ファンタジー黄金期。ロードス島戦記やスレイヤーズなど
~00年 :ヴァーチャル系萌芽とセカイ系。クリス・クロス、ブギーポップなど
~06年 :シャナ、ハルヒ、とあるなど現代学園もの台頭、WEB出身作品も

 圧縮というやつはすればするほどそんなシンプルじゃないだろ感が出るものだが、まあ大筋はこんなところだろうか。
 さて、ここからどんな流れが出てくるか。

◆ライトノベルにおける昔と今の境界線◆


・2007~10年の小説戦線
「神様のメモ帳/杉井光」「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん/入間人間」
「タロットの御主人様。/七飯宏隆」「C³ -シーキューブ-/水瀬葉月」
「黄昏色の詠使い/細音啓」「火の国、風の国物語/師走トオル」
「ぼくと彼女に降る夜/八街歩」「夜想譚グリモアリス/海冬レイジ」
「バカとテストと召喚獣/井上堅二」「えむえむっ! /松野秋鳴」
「聖剣の刀鍛冶/三浦勇雄」「人類は衰退しました/田中ロミオ」
「RIGHT×LIGHT/ツカサ」「EX!/織田兄第」
「アキカン!/藍上陸」「ドラゴンクライシス!/城崎火也」
「宮廷神官物語/榎田ユウリ」「身代わり伯爵の冒険/清家未森」
「俺の妹がこんなに可愛いわけがない/伏見つかさ」「境界線上のホライゾン/川上稔」
「ご主人様は山猫姫/鷹見一幸」「ダンタリアンの書架/三雲岳斗」
「生徒会の一存/葵せきな」「いつか天魔の黒ウサギ/鏡貴也」
「ハイスクールD×D/石踏一榮」「SH@PPLE -しゃっぷる-/竹岡葉月」
「H+P -ひめぱら-/風見周」「とある飛空士への追憶/犬村小六」
「緋弾のアリア/赤松中学」「疾走れ、撃て!/神野オキナ」
「彼女は戦争妖精/嬉野秋彦」「ライトノベルの楽しい書き方/本田透」
「ベン・トー/アサウラ」「パーフェクト・ブラッド/赤井紅介」
「初恋マジカルブリッツ/あすか正太」「カンピオーネ!/丈月城」
「迷い猫オーバーラン!/松智洋」「いちばんうしろの大魔王/水城正太郎」
「ミニスカ宇宙海賊/笹本祐一」「お庭番望月蒼司朗参る!/流星香」
「アクセル・ワールド/川原礫」「ソードアート・オンライン/川原礫」
「電波女と青春男/入間人間」「ロウきゅーぶ! /蒼山サグ」
「ヘヴィーオブジェクト/鎌池和馬」「紫色のクオリア/うえお久光」
「サクラダリセット/河野裕」「R-15/伏見ひろゆき」
「これはゾンビですか? /木村心一」「RPG W(・∀・)RLD ―ろーぷれ・わーるど―/吉村夜」
「氷結鏡界のエデン/細音啓」「蒼穹のカルマ/橘公司」
「ささみさん@がんばらない/日日日」「IS 〈インフィニット・ストラトス〉/弓弦イズル」
「僕は友達が少ない/平坂読」「機巧少女は傷つかない/海冬レイジ」
「まよチキ!/あさのハジメ」「ギャルゲヱの世界よ、ようこそ! /有河サトル」
「織田信奈の野望/春日みかげ」「這いよれ! ニャル子さん/逢空万太」
「パパのいうことを聞きなさい! /松智洋」「15×24/新城カズマ」
「六畳間の侵略者!? /健速」「百花繚乱 SAMURAI GIRLS/すずきあきら」
「さくら荘のペットな彼女/鴨志田一」「彼女はつっこまれるのが好き!/サイトーマサト」
「なれる!SE/夏海公司」「だから僕は、Hができない。/橘ぱん」
「神さまのいない日曜日/入江君人」「東京レイヴンズ/あざの耕平」
「棺姫のチャイカ/榊一郎」「GJ部/新木伸」
「女子モテな妹と受難な俺/夏緑」「羽月莉音の帝国/至道流星」
「星刻の竜騎士/瑞智士記」「精霊使いの剣舞/志瑞祐」
「お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ/鈴木大輔」「この中に1人、妹がいる! /田口一」
「おれと一乃のゲーム同好会活動日誌/葉村哲」「変態王子と笑わない猫。/さがら総」
「つきツキ!/後藤祐迅」「B.A.D. Beyond Another Darkness/綾里けいし」
「ココロコネクト/庵田定夏」「ふぁみまっ!/九辺ケンジ」
「ニーナとうさぎと魔法の戦車/兎月竜之介」「はぐれ勇者の鬼畜美学/上栖綴人」
「魔王学校に俺だけ勇者!?/夏緑」「10歳の保健体育/竹井10日」
「千の魔剣と盾の乙女/川口士」「シュガーアップル・フェアリーテイル/三川みり」
「まおゆう魔王勇者/橙乃ままれ」「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり/柳内たくみ」
「リセット/如月ゆすら」「悪ノ娘 黄のクロアテュール/悪ノP(mothy)」

 ライトノベル・ファンタジー黄金期の息吹を継承するものとしては「火の国、風の国物語」「聖剣の刀鍛冶」「星刻の竜騎士」「神さまのいない日曜日」「棺姫のチャイカ」「千の魔剣と盾の乙女」あたりだろうか。
 「とある飛空士への追憶」は「ラピュタ」や「紅の豚」などの方向性も感じさせる作品として話題作となった。

 全体的には現代ものが多い。「これはゾンビですか?」「這いよれ! ニャル子さん」「東京レイヴンズ」などの現代×ファンタジー作品、「バカとテストと召喚獣」のような現代学園ものだがファンタジー風味を上手く加点している作品などがある中で、そういった要素のない現代ラブコメものと呼ぶべき作品が急増している。
 「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」「生徒会の一存」などは特に大きな人気を呼び、時代を代表する作品となった。

 「神様のメモ帳」「電波女と青春男」「サクラダリセット」「なれる!SE」「ココロコネクト」あたりはライトノベルでありながら新文芸(ライト文芸)側のムーブメントのような広がりを見せた印象がある。
 ライトノベルという枠で処理しきれなくなり、新文芸というカテゴリが飛び出してくる直前というところだろうか。

 「リセット」はこの時代を読み解くのにかなり重要な作品だが、異世界召喚・転生をまとめる章で語る。

 「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」(以下:ゲート)はアルファポリスからの刊行作品だ。この作品は初出がWEB小説投稿サイトのArcadiaとなり、00年創設と小説家になろうより古い存在であるArcadiaは、WEB小説出身というムーブメントで重要な存在となっていく。

 そして、この時代から特筆するべきは「アクセル・ワールド」「ソードアート・オンライン」「まおゆう魔王勇者」「悪ノ娘 黄のクロアテュール」となる。

 「アクセル・ワールド/川原礫:著」は09年に電撃文庫から刊行されたライトノベルだ。WEB小説投稿サイトArcadiaに別タイトルで投稿していた作品を電撃小説大賞に応募したものと言われており、初出はWEBだが新人賞受賞作という作品となる。

 「ソードアート・オンライン/川原礫:著」(以下:SAO)も同09年に電撃文庫から刊行された作品だ。形としてはプロデビュー後の新作ということになるが、こちらも個人HPにて02年から連載していた作品が母体であり、そういった経歴からWEB出身ライトノベル作家の代表や先駆けとされることが多い。
 WEB出身という意味で似たような経緯を持つ作家は他にもいるが、ライトノベルの王者格であった電撃文庫の新人賞を取ったこと、そこで代表的ヒット作家になったことは、やはり意味は大きい。

 「アクセル・ワールド」と「SAO」は世界観を共有している作品だが、特に「SAO」の方はヴァーチャルRPGものの代表作と呼ばれることが多い。「クリス・クロス」や「.hack」の系譜という言い方も出来るだろうが、それらの作品登場時よりもMMO-RPGを中心としたオンラインRPG文化が定着していた背景も関係しているだろう。
 さらに「バトル・ロワイアル」以来のデスゲームのムーブメントも合流しているとする研究もある(※50)。

 WEB出身で、ヴァーチャルもので、MMOもので、時代のトレンドとなるほどの大ヒット作で、という要素は次第に一人歩きをはじめ、なろう系の代表作と呼ばれてしまう事象も発生するが、それぐらいライトノベルが変わる・変えた転換点という印象が強い作品ゆえだろう。

※50 漫画紹介の時に拾えなかったが、この系譜としては遊戯王などもMMO世界体験やログアウト不可などの要素は採用している

 「まおゆう魔王勇者/橙乃ままれ:著」(以下:まおゆう)は10年にエンターブレインより刊行された小説だ。こちらもWEB出身作品なのだが初出は2ちゃんねる(匿名掲示板)となる。
 スレッドという掲示板を作成したり書きこみによる会話をしたりが出来るサービスで、ややアンダーグラウンドな要素も持つ交流サイトとして有名であり、「電車男」もそこから生まれたことは紹介した。

 「電車男」との違いとしては、あちらが現実のエピソード(ノンフィクションとは言っていない)を母体に多数の掲示板住人との交流により発展し、それを物語として抽出・再構築した商業パッケージ化作品だったことに対して、「まおゆう」は最初から作家と呼べる個人が連載したファンタジー物語という『作品』であったことだ。
 作風としては戯曲に近い分析もあるが、商業化に関しては「桃太郎伝説」「天外魔境シリーズ」「リンダキューブ」「俺の屍を越えていけ」などのゲーム作品関係者である桝田省治が関わったという話もある。

 これまで見てきたWEB出身とは違う独自性を持つ作品として話題になったが、著者である橙乃ままれはほどなく小説家になろうへの新作投稿も開始しており、そちらはそちらでヒット作となったため、なろう作家としての認知の方が進み、「まおゆう」の特異性はトレンドとして確立することなく時代が進んでしまった印象はある。

 「まおゆう」誕生の源流には05年あたりから活発化しはじめたアスキーアート文化、やる夫やゆっくりというキャラクターの誕生、それらを受けてのやる夫スレと呼ばれる創作投稿文化の醸成などもあると考えられているが、今回はそちらの掘り下げは難しそうだ。
 ゆっくりという存在は「東方project」が無関係ではないこと、やる夫スレ出身のプロクリエイターもけっこういることは記録しておこう。ただ、この系譜の作品は未来にもう少し拾う。

 「アクセル・ワールド」「SAO」「まおゆう」は異なる背景を持つ作品だが、「ゲート」などのアルファポリス作品も併せてWEB出身ライトノベルという大枠に合流していき、一つのムーブメントとして認知され定着していく。
 それらとは異なる背景を持つ作品が「悪ノ娘 黄のクロアテュール」だ。

 「悪ノ娘 黄のクロアテュール/悪ノP(mothy):著」(以下:悪の娘)は、10年にPHP研究所から刊行された小説だ。PHP研究所は出版界では有名な老舗ではあるが、ビジネス書や歴史ものが得意分野であり、児童文学こそ手掛けていたがライトノベル業界とは縁遠い存在であった。
 その意外性は話題となったが、それ以上に異色だったのは「悪の娘」自体の背景だ。こちらの初出はボカロ楽曲と呼ばれる音楽ジャンルである。

 ボカロはVOCALOID(ボーカロイド)の略称で、ヤマハが開発した音声合成技術の総称だ。ニッチなジャンルとして一部音楽愛好家だけが知る存在だったが、クリプトン・フューチャー・メディア(以下:クリプトン)などがオリジナルキャラクターとセットでのブランディング展開をはじめたこと、初音ミクを代表とするシリーズキャラクターがニコニコ動画などを中心に人気となったことで、この時代にはオタクエンタメコンテンツとしての知名度が急上昇していた。
 「悪の娘」もピアプロというクリプトンが持つ投稿サイトを経てニコニコ動画への投稿を行うことで大ブレイクし、舞台化、小説化、漫画化と発展していく。

 ライトノベル読者層とボカロ愛好層は必ずしも一致していたわけではないが、漫画・アニメ・小説と同じぐらい、あるいはそれ以上に動画文化を愛好する層が生まれはじめていたこと、ボカロ楽曲を小説化するというアイデアがライトノベルの外で発生し、それがかなりの人気となっていることは、動画文化をどう取り込むか、自社コンテンツをどう売っていくかを課題としていたライトノベル業界を驚かせ、ライトノベルを売り込むフロンティアとして、飛びつかせた。

 ライトノベル系出版社によるボカロ取り組みの動きは早く、ボカロ小説というカテゴリが誕生することになる。

 上記を踏まえて、このまま11年と12年の小説戦線も見てしまおう。

・2011~12年の小説戦線
「魔法科高校の劣等生/佐島勤」「ストライク・ザ・ブラッド/三雲岳斗」
「はたらく魔王さま! /和ヶ原聡司」「魔王なあの娘と村人A/ゆうきりん」
「ログ・ホライズン/橙乃ままれ」「問題児たちが異世界から来るそうですよ? /竜ノ湖太郎」
「おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ! /村上凛」
「デート・ア・ライブ/橘公司」「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。/渡航」
「魔弾の王と戦姫/川口士」「魔法戦争/スズキヒサシ」
「しゅらばら!/岸杯也」「犬とハサミは使いよう/更伊俊介」
「ヒカルが地球にいたころ……/野村美月」「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる/裕時悠示」
「のうりん/白鳥士郎」「あるいは現在進行形の黒歴史/あわむら赤光」
「六花の勇者/山形石雄」「俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!?/なめこ印」
「俺のリアルとネトゲがラブコメに侵蝕され始めてヤバイ/藤谷ある」
「俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件/七月隆文」
「彼女がフラグをおられたら/竹井10日」「中二病でも恋がしたい!/ 虎虎」
「理想のヒモ生活/渡辺恒彦」「白の皇国物語/白沢戌亥」
「シーカ―/安部飛翔」「マグダラで眠れ/支倉凍砂」
「天使の3P! /蒼山サグ」「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン/宇野朴人」
「新妹魔王の契約者/上栖綴人」「俺の脳内選択肢が、学園ラブコメを全力で邪魔している/春日部タケル」
「冴えない彼女の育てかた/丸戸史明」「スカイ・ワールド/瀬尾つかさ」
「対魔導学園35試験小隊/柳実冬貴」「勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。/左京潤」
「ライジン×ライジン/初美陽一」「カゲロウデイズ -in a daze-/じん(自然の敵P)」
「オーバーロード/丸山くがね」「下ネタという概念が存在しない退屈な世界/赤城大空」
「俺、ツインテールになります。/水沢夢」「ノーゲーム・ノーライフ/榎宮祐」
「アブソリュート・デュオ/柊★たくみ」「落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国/舞阪洸」
「学戦都市アスタリスク/三屋咲ゆう」「剣神の継承者/鏡遊」
「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金/鳳乃一真」「覇剣の皇姫アルティーナ/むらさきゆきや」
「聖剣使いの禁呪詠唱/あわむら赤光」「異能バトルは日常系のなかで/望公太」
「うちの居候が世界を掌握している!/七条剛」「ハンドレッド/箕崎准」
「魔法少女育成計画/遠藤浅蜊」「境界の彼方/鳥居なごむ」
「RAIL WARS! -日本國有鉄道公安隊-/豊田巧」「花神遊戯伝/糸森環」
「(仮)花嫁のやんごとなき事情/夕鷺かのう」「異世界迷宮でハーレムを/蘇我捨恥」
「竜殺しの過ごす日々/赤雪トナ」「薬屋のひとりごと/日向夏」
「異世界でカフェを開店しました。/甘沢林檎」
「拝啓、あなたはボーカロイドを知っていますか?/北條俊正」

 レーベル事情の整理をしておこう。ファンタジー黄金期に見られた電撃・スニーカー・ファンタジアの3強+ソノラマなどのライトノベル前夜組という構造は大きく変化しており、この時代は率直に電撃一強といってよい情勢だった。スニーカーとファンタジアでは「ハルヒ」を世に出すことに成功したスニーカーがリードしていた印象もあるが、ファンタジアも意地を見せていた。
 そして3強という概念が崩壊するぐらいには群雄割拠の時代でもあった。ログアウト冒険文庫を継承したファミ通文庫は既に古参側であり、ガガガ文庫、MF文庫J、HJ文庫、GA文庫などが本屋のライトノベルコーナーのシェアを奪いあう戦国時代となっていた。

 88年からこのミステリーがすごい!という特集ムックを刊行していた宝島社は04年からこのライトノベルがすごい!も刊行するようになり、こちらのヒットを受けて09年にはこのライトノベルがすごい!文庫を創刊させている。講談社は11年に講談社ラノベ文庫を創刊し、本格的にライトノベル市場へ乗り出しはじめる。
 08年創刊の一迅社文庫や京都アニメーションが11年に創刊したKAエスマ文庫、12年創刊の創芸社クリア文庫などの新興勢力が出てきており、PFP研究所も10年にスマッシュ文庫を創刊している。

 古豪組ではソノラマ文庫は世紀末あたりにはやや元気をなくしていて、07年には朝日ソノラマ社自体が廃業している(※51)。集英社のライトノベル枠であったスーパーファンタジー文庫は01年に刊行停止となり、スーパーダッシュ文庫もかなり苦しい。
 ジャンプ ジェイ ブックスは現役で、オリジナル作品も扱うがどうしても少年ジャンプ作品のノベライズが強い状況だ。「銀河英雄伝説」を輩出した徳間書店は00年に徳間デュアル文庫を創刊したがやや苦戦して10年に刊行停止となった。
 時代に爪痕を刻んだ富士見ミステリー文庫も09年に刊行停止している。

 TRPGや海外ファンタジー小説を中心に発展したレーベルは斜陽傾向にあり、ドラゴンブック以外はかなり厳しい状況だ。ドラゴンブックも黄金期に比べると元気いっぱいとは言えないところではある。

 WEB小説系としては自費出版事業からWEB小説刊行事業に移行しつつあったアルファポリスの他に、WEB小説出身に特化したヒーロー文庫が12年に創刊されている。ライトノベルを抱える出版社がノベルズや単行本としてWEB出身作品を扱う事例も出始めている。

 少女小説はコバルト文庫と講談社X文庫以外では、98年創刊のウィングス文庫、01年創刊の角川ビーンズ文庫、06年創刊のビーズログ文庫、08年創刊の一迅社文庫アイリスといったあたりだろうか。

 そして新文芸あるいはライト文芸という概念はここからはじまったとされる説も強いメディアワークス文庫が09年に創刊されている。この枠としては14年にまた大きな動きが起きる。

※51 朝日新聞社は健在のため、そちらに引き継がれる形になった

 さて、11~12年作品をWEB出身でないものから見ていくと、現代×ラプコメ×美少女精霊ファンタジーというスタイルの「デート・ア・ライブ」はファンタジア文庫を代表する人気作となり、PCゲームのシナリオライターとして「WHITE ALBUM2」などが代表作の丸戸史明と、同じくPCゲームでも活躍していたイラストレーターの深崎暮人がコンビを組んだ「冴えない彼女の育てかた」もヒット作となった。

 「ノーゲーム・ノーライフ」は、異世界召喚を語る章でも拾いたい作品だが、著者がイラストも手掛けており、かなりの独自性としてそちらも話題となった。

 このあたりから長いタイトルが目立ち始める。長いタイトル=なろう系というイメージが令和には定着しているが、「問題児たちが異世界から来るそうですよ?」「おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!」「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」「俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!?」「俺のリアルとネトゲがラブコメに侵蝕され始めてヤバイ」「俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件」「俺の脳内選択肢が、学園ラブコメを全力で邪魔している」「勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。」「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」などはWEB出身作品ではない。
 ライトノベル・レーベルがこの時代に売れるものをどう出すかという模索の上で選んだ形として生まれたタイトルたちだ。その過程では小説家になろうにおけるタイトル傾向の研究などはあったとしても。

 この長いタイトル傾向は、ファンタジー論や本格ファンタジー論とも無関係というわけではなく、論において本格的か否かを振り分ける時の基準に採用されたりもしていく。

 WEB出身作品としては、学園ファンタジー×底辺主人公無双(底辺とはいっていない)の「魔法科高校の劣等生」、MMO型異世界というトレンド形成に大きく貢献した「ログ・ホライズン」、ダークファンタジーとしても高い評価を獲得した「オーバーロード」、「フルメタ」の四季童子がイラスト担当ということでも話題となった「異世界迷宮でハーレムを」などは話題作となり、主婦の友社から刊行となった「薬屋のひとりごと」は中華風の後宮を舞台に繰り広げられる学薬のドラマが、本格的な歴史小説のような読み味として一般文芸愛好層からのファンも獲得した(※52)。
 「オーバーロード」のみArcadia出身で、それ以外は小説家になろう出身となる。

※52 主婦の友社はヒーロー文庫創刊に関わるため薬屋のひとりごとはヒーロー文庫からも刊行されている。また、ライトノベル業界と無縁と思える主婦の友社は実は昔からメディアワークスと深い関係があったりする

 こうして並べてみると12年時点の商業作品では、なろう系の代名詞となっている長いタイトル作品は、WEB出身でない作品の方が多いことが興味深い。
 俺が~・俺の~系タイトルはライトノベル発の独自進化にも見える。商業化打診前や準備中の小説家になろう投稿作にも長いタイトルは多いわけだが、長いタイトルの誕生と進化の過程や関係性も、ライトノベルとなろう系の片方だけでは読み解けないものなのだろう。

 そしてボカロ小説として特筆するべきが「カゲロウデイズ -in a daze-」となる。

◆ライトノベルに侵入した異次元からの来訪者◆


 「カゲロウデイズ -in a daze-/じん(自然の敵P):著」(以下:カゲロウデイズ)は、12年にKCG文庫から刊行されたライトノベルだ(※53)。11年にニコニコ動画に投稿されたボカロ楽曲が初出だが、1つの作品で完結させるのではなく、シリーズものとしてボカロ世界で長い物語を構築するというアプローチが取られており、カゲロウプロジェクトと総称される一角として、小説版が刊行された。
 CD・漫画・アニメ・映画と次々展開され、ボカロ小説としては最も売れた作品となっただけはなく、23年時点でのライトノベル全体の売り上げでも上位にランクインするほどの熱狂的大ヒットとなった。

※53 KCG文庫はデジタル戦略に特化した角川コンテンツゲートという組織が主導したレーベルで、紙媒体をエンターブレインが担当しながら電子ビジネスも積極的に展開するというコンセプトをもったレーベル。この時代は電子書籍の模索期でもある

 ライトノベル読者層でも興味をもった者はいたとして、それ以上にライトノベルと縁がなかった層に売れた作品だ。女性人気も高く、少女小説以外は買ったことはないが「カゲロウデイズ」は買ったという層も多いだろう。

 売り上げ=影響力というほど安易なことを言うつもりもないが、本記事ではじまりの主役とした「ロードス島戦記」や少女小説出身で男子ライトノベル層や一般文芸層の支持も得た「十二国記」などより売れたという話もある。その時点でライトノベル史やライトノベル論において絶対に無視できない作品だろう。

 だが、この作品だけでなく13年以降のものも含めて、ボカロ作品というカテゴリはライトノベルを中心に過去を回帰する○○論などで無視されることが多い。ハイファンタジーやエピック・ファンタジー至高の論で扱われないのはわかるといえばわかるが、メフィスト賞作家や新文芸まで拾った広義のライトノベル論ですら顔を出さないことがある。

 おそらくだが、ライトノベル誕生前のヒロイック・ファンタジーから追っている層、「スレイヤーズ」から入った層、「ハルヒ」から入った層など色々いる中で、ライトノベル読者層にとってボカロ小説というものがあまりにも異質だったからだろう。
 それは異世界からの侵略のように知らないものの襲来であり、WEB小説投稿サイトに感じる共通項もあるゆえの反発すら起きる余地がなかった。ボカロ小説ブームはけっこう長く続くが、仕掛け側は男性向け戦略を早々に諦めたと見られる形跡もあるにはあり、よくわからないものとして目を向けずにいるうちに消えていたという認識のライトノベル読者も多いはずだ。

 これは一種の自分語りになるので、真偽不明の与太話として処理してもらって構わないのだが、ボカロ小説を担当し、それで一定の成果を出したことがキャリアに与えた影響が強いという編集者と話をしたことがある。
 伝統的なライトノベル業界で育った氏にとって、ボカロ小説は本当に異質だったと語っていた。それまでのライトノベル編集での常識が通じず、まったく違うプロセスを取らざるを得ず、それはWEB小説の商業化よりも遥かに困難だったと、そういう話を聞いた。

 それまでのライトノベル読者層が大熱狂したとも言いがたいのに、歴史を動かした伝説級のライトノベルと同じ、あるいはそれ以上に売れたライトノベル。この事実は、ライトノベルを作る側にも多大なる影響をもたらした。
 ライトノベルの変化というテーマを語る時、作る側の変化という資料化されにくい部分をどう組み込むかは難しい問題なのだが、ボカロ小説と「カゲロウデイズ」は出版社や編集という作り手側の常識や信念を侵食した存在と言えるだろう。
 WEB小説の台頭が注目されやすい時代だが、伝統的なライトノベル・ファンタジーを作ってきた人間たちの常識を破壊したということをもって、古き良き本格的なファンタジーやその土台としてのライトノベルを殺したといえる存在、「ハルヒ」や「SAO」やなろう系がそれであるように、ボカロ小説もまたそういうものだったと私は考えている。
 そして、その中で最も異質であったとも。

 だが、それは視線をかえればライトノベルの懐の深さという話にもなると思ってもいる。それまでになかったものをいつでも、どこからでも、どんな形でもライトノベル化できる。これはとても偉大な話であり、そういう意味ではボカロとライトノベルは最初から好相性だったのかもしれない。

 ここまで、シリーズものがいつ完結したかなども触れていなかったが、「新ロードス島戦記」の最終巻が06年、「スレイヤーズ」の本編最終巻が08年、「グイン・サーガ」の著者である栗本薫が完結まで書くことなく死去したのが09年ということは書いておきたい(※54)。
 「フォーチュン・クエスト」は20年まで続くなど、終わったものばかりではないが、ライトノベル前夜や黎明期からの代表的ファンタジー作品が終わることによる寂寥感が、それらが消えたライトノベルへの視線・感情というものを生み出していった一面はあるだろう。

※54 ロードス島戦記とスレイヤーズは完結から大きく時を経てから復活という形で新刊を出している。また08年時点でスレイヤーズの短編シリーズは終わっていない。グイン・サーガは別の作家が続きを書くという形で続刊することになる

 ライトノベル外の小説の動きとしては、ライトノベルにカテゴライズされることもあるが時代小説レーベルから出たりもしている「大正野球娘。(07年)」、現代ファンタジー作品として一世を風靡した「有頂天家族(07年)」、西尾維新の新作である「刀語(07年)」、デビュー数年で早世してしまった作家・伊藤計劃の「虐殺器官(07年)」、06年の雑誌初出後に09年に角川文庫、12年にスニーカー文庫から刊行された「Another」、メディアワークス文庫から「シアター!(09年)」「探偵・日暮旅人(10年)」「ビブリア古書堂の事件手帖(11年)」「0能者ミナト(11年)」、新文芸に惹かれる層からも人気が高かった「バチカン奇跡調査官(07年)」「万能鑑定士Qの事件簿(10年)」「謎解きはディナーのあとで(10年)」「珈琲店タレーランの事件簿(12年)」、お仕事ものというムーブメントの源流にカウントされることもある「アクアリウムにようこそ(後に水族館ガールに改題)(11年)」、SNSを活用した異色のエンターテイメント作品としてブームとなった「ニンジャスレイヤー(10年初出/12年刊行)」、月刊アフタヌーンでのコミカライズも話題となった「マージナル・オペレーション(12年)」、政治・経済・芸能エンタテインメントを謳った「大日本サムライガール(12年)」といったところだろうか。

 児童文学からは、「魔天使マテリアル(07年)」「帝都〈少年少女〉探偵団(07年)」「RDG レッドデータガール(08年)」「怪盗レッド(10年)」あたりは挙げておきたいか。

 WEB小説界の動きとして12年にオープンした個人運営の投稿サイトであるハーメルンを紹介しておく。ただ、こちらは二次創作がメイン、積極的な書籍化の打診や斡旋は行わないなど、企業運営系とは大きく異なる存在となる。

 時代の傾向としては、ハードボイルド系一般文学に興味をもつライトノベル読者もじわじわ増えていた印象もある。一例として挙げるなら「コインロッカー・ベイビーズ(80年)」で有名な村上龍による「歌うクジラ(06年雑誌/10年刊行)」あたりだろうか。
 SF・ファンタジー色が強いディストピア世界小説であり、ライトノベルが生まれる前のSFとファンタジーと伝奇小説が渾然一体となっていた時代の匂いもかすかに感じる作品だ。

 かつては区分がなかったところからライトノベルというものが新しく生まれた。それも20年が経ち、ライトノベルから入り一般文芸へという読書履歴を持つ者が増えて行く。その際、いきなり一般文芸へと行かずに新文芸・ライト文芸(とのちに認識される作品)を経由するムーブも見え始めていた。

 そんな流れの中、ゲームはどんな動きを見せたのだろうか。

◆融合する家庭用ゲーム機とPC、独立するソシャゲ◆

・2007~09年のコンピュータRPGとソシャゲ戦線
「オプーナ/コーエー」「すばらしきこのせかい/スクウェア・エニックス」
「機甲装兵アーモダイン/SCE」「召喚少女 ~ElementalGirl Calling~/角川書店」
「世界樹の迷宮/アトラス」「オーディンスフィア/アトラス」
「絶対音感オトダマスター/ハドソン」「ルミナスアーク/マーベラス」
「アガレスト戦記/コンパイルハート」「エルヴァンディアストーリー/スパイク」
「ソウルクレイドル/世界を喰らう者」「偽りの輪舞曲/サクセス」
「コンチェルトゲート/ゲームポット」「キャッスルファンタジア アリハト戦記/GN Software」
「魔王物語物語/カタテマ」「Eternal League of Nefia/Noa」
「戦場のヴァルキュリア/セガ」「白騎士物語/SCE」
「アヴァロンコード/マーベラス」「クロスエッジ/コンパイルハート」
「キミの勇者/SNKプレイモア」「剣と魔法と学園モノ。/アクワイア」
「世界はあたしでまわってる/GAE」「ルーセントハート/ガマニア」
「エルミナージュ ~闇の巫女と神々の指輪~/スターフィッシュ」
「Generation XTH -CODE HAZARD-/エクスペリエンス」
「Fallout 3/ベセスダ・ソフトワークス」「タワー オブ アイオン/エヌ・シー・ジャパン」
「フォーチュンサモナーズ ~アルチェの精霊石~/リズソフト」
「魔剣少女エンヴィー ~Blade of Latens・炎の継承者~/ZyX」
「黄金の絆/ジャレコ」「Demon's Souls/フロム・ソフトウェア」
「ブラッド オブ バハムート/スクウェア・エニックス」「セブンスドラゴン/セガ」
「シャイニング・フォース クロス/セガ」「女神異聞録デビルサバイバー/アトラス」
「勇者30/マーベラス」「アークライズファンタジア/マーベラス」
「朧村正/マーベラス」「モンスター☆レーサー/コーエー」
「ドラゴンクルセイド/Vector」「怪盗ロワイヤル/DeNA」
「サンシャイン牧場/Rekoo」「リュートピア/株式会社リュートピア」
「ヴァルキリーコンプレックス/CIRCUS」「輝光翼戦記 天空のユミナ/Will」
「姫狩りダンジョンマイスター/エウシュリー」

・2010~12年のコンピュータRPGとソシャゲ戦線
「ゼノブレイド/任天堂」「ニーア ゲシュタルト・レプリカント/スクウェア・エニックス」
「CHAOS RINGS/スクウェア・エニックス」「ラジアントヒストリア/アトラス」
「ラストランカー/カプコン」「二ノ国 漆黒の魔導士/レベルファイブ」
「超次元ゲイム ネプテューヌ/コンパイルハート」「キングダムサーガ/ガマニア」
「ドラゴンネスト/NHN hangame」「魔王と500人の戦士/ランド・ホー」
「ドラゴンコレクション/コナミ」「戦国コレクション/コナミ」
「天空のスカイガレオン/ジー・モード」「ラストストーリー/任天堂」
「ダンボール戦機/レベルファイブ」「DARK SOULS/フロム・ソフトウェア」
「ファイナルファンタジーXIV/スクウェア・エニックス」
「ロード オブ アポカリプス/スクウェア・エニックス」
「ノーラと刻の工房 霧の森の魔女/アトラス」「あやかしがたり/ケムコ」
「グランナイツヒストリー/マーベラス」「剣と魔法のログレス/マーベラス」
「アンチェインブレイズ レクス/フリュー」「つくものがたり/フリュー」
「最後の約束の物語/イメージエポック」「TERA/ゲームオン」
「The Elder Scrolls V: Skyrim/ベセスダ・ソフトワークス」
「アイドルマスター シンデレラガールズ/バンダイナムコ&Cygames」
「神撃のバハムート/Cygames」「ソード×ソード/ドリコム」
「夢みる月のルナルティア/Arianrhod」「ドラゴンクエストX/スクウェア・エニックス」
「ブレイブリーデフォルト/スクウェア・エニックス」
「拡散性ミリオンアーサー/スクウェア・エニックス」
「エンペラーズ サガ/スクウェア・エニックス&オルトプラス」
「圧倒的遊戯 ムゲンソウルズ/コンパイルハート」「ファンタジーライフ/レベルファイブ」
「ロード・トゥ・ドラゴン/アクワイア」「電波人間のRPG/ジニアス・ソノリティ」
「ギルティドラゴン 罪竜と八つの呪い/バンダイナムコ」
「ヒーローズファンタジア/バンダイナムコ」「パズル&ドラゴンズ/ガンホー」
「クラッシュ・オブ・クラン/Supercell」「神魔×継承!ラグナブレイク/ CROOZ」
「ガールフレンド(仮)/サイバーエージェント」
「あんさんぶるガールズ!/Happy Elements」「Lord of Walkure/ DMM.com」
「帝国戦記/さくらソフト」「創刻のアテリアル/エウシュリー」

*マーベラスエンターテイメント→マーベラスAQL→マーベラスのような社名変更の変遷がある企業は発売時の会社名称と一致しない記載をしているケースあり
*海外産オンラインゲームは日本版を運営・管理している企業を記載しているケースあり

 家庭用ハードの歴史をさらっと見ておくと、NECとセガが撤退しマイクロソフトが参戦してきている。ソニーはプレイステーションからの参戦で、任天堂も好不調の波はあり絶対的王者ではなくなっていたが常に頂点争いをする存在だ。90年代、00年代に参入&撤退したメーカーも存在したが、省略させて頂く。

 ソフトメーカーの紹介もほぼしていないが、合併ムーブメントだけは触れておこう。エニックスとスクウェアは03年に合併し多くのファンを驚かせた。さらにタイトーがそこに吸収されている。
 他にも04年にセガとサミーが、05年にバンダイとナムコが、11年にコーエーとテクモが、12年にスパイクとチュンソフトが合併している。ハドソンは11年にコナミに吸収された。
 非常に複雑な経緯を持つアトラスや、普通に倒産したメーカーなど色々あるが、こちらも今回は語りきれぬところだ。

 アーケードは格闘ゲーム黄金期、クレーンゲームやリズムゲーム台頭、プリクラブームなどを経て、リアルカードコレクション要素と融合したTCGアーケード時代に突入していた。

 PCはオンライン化の動きが大きい。光栄の歴史シミュレーションとして名高い「信長の野望」は03年にはオンライン版を出していて、この時代もアップデートが続いている。

 PC-R18界隈ではアドベンチャーブームがずっと続いており、おそらくこの時期の作品としては、RPGよりアドベンチャーの方にファンタジー作品が多い。ファンタジーとゲーム論をやるなら、アドベンチャーも主役におくべきなのだが、今回はそれも諦めている。どうしてもね。

 MMOは「ラグナロクオンライン」や「リネージュ」がそうであったように、海外産が日本に入ってくるケースが目立つ。そしてソシャゲが本格的に目立ちはじめる時代に突入していく。

 リストの作品を見ていくと、ナンバリングで名前が載った「ファイナルファンタジーXIV」と「ドラゴンクエストX」はMMOを採用した作品だ。
 「ファイナルファンタジーXIV」はリリース直後にシリーズ最大の失敗、これでブランドが終わるかもなどと呼ばれてしまった問題作だったが、一度こけたら復活不可能といわれたMMO界隈での奇跡とも呼ばれる建て直しと大復活に成功している。
 そしてあのドラクエがMMO参戦として大きな話題を呼んだ。

 「ウィザードリィ」などのダンジョンRPG黄金期をリスペクトした「世界樹の迷宮」は新時代のダンジョンRPGとして人気シリーズとなっていく。「戦場のヴァルキュリア」は従来のシミュレーションRPGを変革した作品としても高く評価された。

 なんだかんだで新規オリジナル作品もしっかり出し続けるスクウェア・エニックスからは「すばらしきこのせかい」「ニーアシリーズ」「ブレイブリーデフォルト」などが話題作となった。

 「シャイニング・フォース クロス」はセガがメガドライブ時代から家庭用ゲーム機で出していた人気シリーズの新作だが、ネットワーク対応型アーケードとしてリリースされファンを驚かせた。

 「Fallout 3」は核戦争後の世界を舞台にした海外発オープンワールドRPGだ。初代は97年発売だが、日本でのリリースはこの3からとなる。

 「Demon's Souls」「DARK SOULS」はフロム・ソフトウェアが放つ本格的なダークファンタジー作品だ。後者は「アーマード・コア」と並ぶ代表作シリーズとなっていく。

 「The Elder Scrolls V: Skyrim」は「スカイリム」と書いた方がわかりやすいだろうか。シリーズの初代ではないのだが、世界的大ヒットになったこの時代の代表作として紹介させて頂く。

 この時期の活躍が目立つメーカーとしてはレベルファイブとマーベラスだろうか。レベルファイブはドラクエ開発にも関わっていたメーカーで、「レイトン教授」シリーズや「イナズマイレブン」などがヒットした他にファンタジーRPGとして出した「二ノ国」シリーズも人気作となる。
 マーベラスはアニメ・ゲーム・音楽販売など複合的に手掛ける企業であり、ファミコン時代から別の社名で存在していた老舗だが、ファンタジー色も強い作品をコンスタントに発表するメーカーとして認知が広まりつつあった。

 PC-R18からはファンタジーRPGやシミュレーションRPGを手掛けるメーカーとしてエウシュリーの活躍が目立つ。

 ソシャゲだが、RPG要素なしやファンタジー要素なしもまとめて扱わせていただく。「ギルティドラゴン 罪竜と八つの呪い」はタイトルから連想しづらいが「.hack」シリーズ作品である。
 シリーズ初の.hackを冠にしないタイトル、カードゲームRPG化、スマホ用アプリでのリリース(※55)ということで、シリーズファンからも驚かれたが、こういった既存シリーズのスマホアプリ化(ソシャゲ化)は、ゲームファンが現在進行形で激論するテーマにもなっていく。

 「クラッシュ・オブ・クラン」はファンタジー世界でのストラテジーゲームとして世界的ヒット作となった。

 ソシャゲの歴史的代表作が生まれた時期でもある。今回特筆するべきは「怪盗ロワイヤル」「神撃のバハムート」「パズル&ドラゴンズ」だろう。

※55 iPhoneの発売が07年、Androidの登場が08年。すぐにスマホ時代が来たわけではなく、ソシャゲもガラケー・スマホ共存時代がそこそこ続く。スマホ自体の普及にあわせてスマホ用ゲームへの移行も加速していく

◆その時ゲーム史が動いた。大ソシャゲ時代のはじまり◆


 「怪盗ロワイヤル」は09年リリースの、DeNAが運営するソシャゲだ。モバゲーとミクシィでプレイ可能で、怪盗団のリーダーとして他プレイヤーとお宝を奪い合うというコンセプトのゲームであり、ソシャゲの代表としてまず名前が出てくるほどの大ヒット作となった。
 ソシャゲ最初期のヒット作としては「釣りスタ」「ハコニワ」「サンシャイン牧場」「探検ドリランド」などがあり、特に「サンシャイン牧場」はソシャゲという概念をユーザーに広めた貢献度が極めて高いと言われている。

 そんな中で、「怪盗ロワイヤル」は先達や同期のソシャゲとは大きく異なる歴史的特長を持つことになる。ソシャゲのテンプレ化だ。何かがヒットした時によく似た模倣が出てくるのはあらゆる産業での定めであり珍しくもない話なのだが、「怪盗ロワイヤル」を大いに参考にしたと見られるものが恐ろしい勢いでソシャゲ界を染め上げていき、ソシャゲのイメージを固めてしまう。
 その系統の大成功作としては「アイドルマスター シンデレラガールズ」が挙げられるだろうか(※56)。

 「怪盗ロワイヤル」型のソシャゲは瞬く間にソシャゲ界の主流となり、ガチャ文化と融合することで現在イメージされるソシャゲの基本形が完成していく。「神撃のバハムート」もその流れの中で生まれ、ヒットした作品だ。

 「神撃のバハムート」は11年リリースの、Cygamesが運営するソシャゲだ。モバゲーでプレイ可能で、本格的なファンタジー作品として注目されたヒット作だ。TCGの流行以来デジタルゲーム業界でも採用されることが増えていたカード収集概念を上手く組み込んでおり、ギルドを作ってプレイヤー同士が勝敗を競う要素もあったことから、強さに直結する手段としてのガチャが非常に重要なゲームとして、ガチャゲーの代表作ともなっていく。
 「アイドルマスター シンデレラガールズ」からの影響が大きい作品であり、その意味では特筆枠はそっちなのではという面もあるのだが、一応ファンタジー論記事でもあるのでというあれである。実際、世界観やイラストの美麗さへの評価は高くCygamesの新作へと継承されていくことになる。

 この時期のソシャゲは所持カードをプレイヤーとトレードできるシステムを採用している事が多かったため、ソーシャルゲームならではの要素としてそちらも注目された。MMOやMMOを参考にしたCGIゲームでも存在していたシステムであり、シャークトレードやリアルマネートレードなどは、オンラインゲーム業界における大きな課題になりつつあったが、ソシャゲがそれを加速させたとする研究もある(※57)。
 また、運営側が指定したガチャ輩出カードをコンプした場合のみに発生する特典という商法があり、後にコンプガチャ問題として社会問題にまで発展していくことになる。

※56 ガチャ要素を今の形にしたのは、怪盗ロワイヤルよりもアイドルマスター シンデレラガールズという声は強く、この2つに神撃のバハムートを足したものが、ガラケーソシャゲにおける1つの基準になっていった感はありますね

※57 シャークトレードは価値が不釣合いな交換を行う詐欺・騙し行為で、リアルマネートレードはゲーム内のアイテムやアカウント自体を不正に金銭取引する行為

 一方で、スマホ時代のソシャゲ代表としてソシャゲ界の覇者となる作品も出てくる。それが「パズル&ドラゴンズ」だ。

 「パズル&ドラゴンズ」(以下:パズドラ)は12年リリースの、ガンホー・オンライン・エンターテイメントが運営するソシャゲだ。iOS、Android、一部タブレットでプレイ可能で、ファンタジー世界観をベースにRPGとパズルゲームを融合させた作品となる。
 「テトリス」「コラムス」「ぷよぷよ」「Dr.マリオ」などの落ちものブームだけでなく、非落ちもの系もファミコン時代から定番で存在しているのがパズルというジャンルだ。ハンゲームなどのネット時代コンテンツでも人気ジャンルの1つになっていた。

 パズルゲームはいわゆるゲームマニア以外にも遊ばれる傾向があることは昔から言われており、ソシャゲは基本やらないが「パズドラ」だけはやるという層も生み出した。
 リリースから23年現在までソシャゲ界の頂点争いに君臨し続けることになる、ゲーム史全体で見ても怪物と呼べる作品だ。

 そのヒットの要因は多数分析されているが、この作品でもガチャが重要な役割を果たしており、最新ガチャの目玉が特定の状況で有利に働く特攻という概念や、それを繰り返すことによる最新ガチャの目玉が最強を更新し続けるインフレという現象がソシャゲ界全体の課題になっていく遠因として、この作品が挙げられてしまうことも多い(※58)。

 また他作品とのコラボおよび、コラボガチャと呼ばれる限定ガチャを定期的に行うゲームとしても有名であり、ソシャゲ界での風潮を作った源流の1つとされることもある。

※58 登場の古いガラケーソシャゲにも特攻概念やインフレ現象は普通にあった

 流れでしれっと特筆枠に入れていないソシャゲを2作品ほど語りたい。まずは「Lord of Walkure」だ。DMM.com(以下:DMM)が提供するプラットフォームからプレイ可能なソシャゲとなる。
 DMMはアーティストのライブや証券なども扱う複合企業だが、アダルト作品販売でも有名であり、その長所を活かしてか独自のゲームプラットフォームを開設し、そこに同タイトル作品で一般版とR-18版を別に用意して提供するという試みを開始している。その最初期に活躍した作品だ。
 DMMは13年にゲーム史に残る歴史的作品を発表することになる。

 もう1つはさくらソフト提供の「帝国戦記」だ。この時期のソシャゲはイラストレーターに光が当たることがない傾向が強かったのだが、ゲームに実装するイラストカードに対してイラストレーターのクレジット表記を行っていたソシャゲとして小さな話題となった。
 内部にイラストレーターを抱える大手も存在するが、ソシャゲのイラストはフリーに外注するケースが多く、ソシャゲ黄金期にはクレジットありソシャゲでキャリアを積んだ後にその枠を超えて大成するイラストレーターというムーブメントも出てくるようになる。

 「神撃のバハムート」と「パズル&ドラゴンズ」はファンタジー背景を持つ作品だ。「神撃のバハムート」は黄金期のライトノベル・ファンタジーやコンピュータRPGを思わせるシナリオも話題となり、ゲームとは内容が異なるもののアニメ版の評価も高い。
 だが、「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」を理想とするファンタジーRPG論で並べられることは稀で、ソシャゲの時点で落選という者もいれば、ソシャゲ差別をする気はないが往年のRPGと同じ枠ではないだろうという者もいる。そもそも評価をするには永遠の未完成という構造上の問題があると指摘されることもある。

 ソシャゲはリアルタイム性やライブ性が非常に高いため、サービスが終了したら二度と触れないだけなく、サービス継続中でも後から体験することのハードルが高いという話がある。
 また、サービス継続中の作品はストーリーが完結していないことが当然で、サービス終了作品は連載漫画の打ち切りのように途中で終わっているものが多い。そういう理由から、そもそも評価できないという声が挙がるのは理解できる。

 とはいえ、小説でも漫画でも刊行中作品や未完終了作品がその時点で評価されることは普通にある。ソシャゲもその理屈は通るはずであり、やはりもっと違う理屈ではない抵抗感をソシャゲというカテゴリに対して感じてしまう層が多い気配はある。

 この感覚はもしかしたら小説におけるなろう系よりやっかいで根が深く、ファンタジー論や本格的なファンタジー論をやる時に、ファンタジー系ソシャゲをどう扱うか、その向き合いこそが令和にファンタジーを語る際に最初にやるべきことなのかもしれない。

◆世界一の箱庭から対戦型三人称視点シューティングまで、黒船来航時代◆


 その他のゲームとしては、「FolksSoul -失われた伝承-」「勇者のくせになまいきだ。」「グリムグリモア」「ミストオブカオス」「エターナルファンタジー」「バトルファンタジア」「アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝」「うみねこのなく頃に」「ミラーズエッジ」「月と魔法と太陽と」「ヴェルディア幻奏曲」「超昂閃忍ハルカ」「ベヨネッタ」「巨乳ファンタジー」「メモリア」「薄桜鬼 ~新選組奇譚~」「ラブプラス」「初音ミク -Project DIVA-」「アマガミ」「ゴッドイーター」「戦国IXA」「うたの☆プリンスさまっ♪」「学園ハンサム」「AKIBA'S TRIP」「閃乱カグラ -少女達の真影-」「穢翼のユースティア」「ヴァニタスの羊」「大帝国」「ワルキューレロマンツェ 少女騎士物語」「グリザイアの果実」「英雄*戦姫」「竜翼のメロディア -Diva with the blessed dragonol-」「王国の道具屋さん」「東京バベル」「魔女と勇者」「とんがりボウシと魔法の町」あたりだろうか。

 一言添えたいものとしては、アサシン教団の一員となって暗躍する「アサシン クリード」は、古代~中世の歴史的舞台をオープンワールドとして駆け巡ることが出来る作品として世界的ヒット作となった。

 「恋姫†無双 ~ドキッ☆乙女だらけの三国志演義~」や「戦極姫 -戦乱の世に焔立つ-」など、歴史的人物を美少女化させる作品が増加している。パチンコ作品の「CR戦国乙女」はギャンブルをしないオタクへも訴求した。
 また、「萌え萌え2次大戦(略)」は歴史上の兵器を美少女擬人化したゲームの先駆けとされている(※59)。  

 「CHAOS;HEAD」「STEINS;GATE」「ROBOTICS;NOTES」は想定科学アドベンチャーシリーズと呼ばれ親しまれたが、特に「STEINS;GATE」はアニメ化の反響もあって一大ブームとなった。多数のマルチメディア化が行われた中でドラゴンブックがノベライズを出したりもしている。

 学園ものとホラーファンタジーやホラーミステリーはもともと好相性ではあったが、「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」はその尖った世界観やゲーム性が新しいゲームとしての支持を獲得するヒット作となった。

 「LORD of VERMILION」はスクウェア・エニックスによるTCGアーケードで、ファンタジー色の強い作品として個性を発揮した。
 「戦国大戦」「アイカツ!」「超速変形ジャイロゼッター」など、このジャンルは存在感が強まって来ている。

 サンドボックスというジャンルを確立し世界一売れるゲームとなる「Minecraft」が生まれたのもこの時代だ(※60)。
 また、海外では対戦型シューティングとでも呼ぶべきジャンルの一大ムーブメントがはじまっており、「ボーダーブレイク」「World of Tanks」などは日本でも大流行する。

 フリーゲーム界の戦略シミュレーションとして歴史に残る傑作と呼ばれる「ヴァーレントゥーガ」に、ゲームの評価とは別の切り口で有名になった「エルシャダイ」など、濃い作品も多い。

 04年作品だが、熱狂的なブームが発生したのは09~11年あたりというホラージャンルのフリーゲームとして「青鬼」を紹介しておく。
 動画文化による拡散がブームの火付け役となっており、登場後年数を経てから大ブレイクする作品というものも増えていく。

※59 95年のモデルグラフィックスという雑誌、06年のMC☆あくしずという雑誌など、より古いとされる兵器や戦艦擬人化ものは存在する

※60 サンドボックスはコンピュータセキュリティや仮想通貨ビジネス界隈でも使われる言葉なので、ごく稀に混同が起きることもあるらしいっすね

◆巨人の口から地の底まで鳴り響くはファンタジー◆


・07~09年漫画
「PSYREN -サイレン-」「獣神演武」「侵略!イカ娘」「将国のアルタイル」「そらのおとしもの」「神様ドォルズ」「デッドマン・ワンダーランド」「てんたま。」「とある科学の超電磁砲」「ゆうやみ特攻隊」「妖怪のお医者さん」「つぐもも」「武装神姫2036」「宇宙兄弟」「マケン姫っ!」「ゆうやみ特攻隊」「よんでますよ、アザゼルさん。」「トリコ」「ぬらりひょんの孫」「CØDE:BREAKER」「エデンの檻」「月光条例」「アラタカンガタリ~革神語~」「神様はじめました」「純潔のマリア」「COPPELION」「血界戦線」「乱と灰色の世界」「テルマエ・ロマエ」「夢喰いメリー」「女王の花」「貧乏神が!」「べるぜバブ」「めだかボックス」「ワンパンマン」「進撃の巨人」「どうぶつの国」「境界のRINNE」「マギ」「波打際のむろみさん」「ムシブギョー」「蒼き鋼のアルペジオ」「青の祓魔師」「暁のヨナ」「妖狐×僕SS」「ドリフターズ」「シドニアの騎士」「アイアムアヒーロー」「シュトヘル」「断裁分離のクライムエッジ」「BTOOOM!」「魔界王子 devils and realist」「信長協奏曲」「暁のヨナ」「ブラッドラッド」「それでも世界は美しい」「魔法少女プリティ☆ベル」「-ヒトガタナ-」「黎明のアルカナ」「レーカン!」「ぎんぎつね」

・10~12年漫画
「アカメが斬る!」「今際の国のアリス」「戦勇。」「ウィッチクラフトワークス」「東京ESP」「いなり、こんこん、恋いろは。」「常住戦陣!!ムシブギョー」「ノラガミ」「神さまの言うとおり」「SERVAMP-サーヴァンプ-」「ULTRAMAN」「ビッグオーダー」「エリア51」「テラフォーマーズ」「鬼灯の冷徹」「東京喰種トーキョーグール」「軍靴のバルツァー」「信長のシェフ」「トリニティセブン 7人の魔書使い」「暗殺教室」「七つの大罪」「AREA D 異能領域」「終わりのセラフ」「山田くんと7人の魔女」「邪神ちゃんドロップキック」「魔法少女・オブ・ジ・エンド」「紅殻のパンドラ」「極黒のブリュンヒルデ」「亜人」「がっこうぐらし!」「宝石の国」「王国の子」「僕だけがいない街」「ふらいんぐうぃっち」「モンスター娘のいる日常」「文豪ストレイドッグス」「メイドインアビス」「ダーウィンズゲーム」

 過去作から引き続きファンタジー作品を手掛ける「獣神演武」「どうぶつの国」「境界のRINNE」は少年漫画界で活躍し、ファンタジー寄りの作風だった作者の新作である「七つの大罪」は本格的なファンタジー漫画の大ヒット作となった。
 「将国のアルタイル」と「マギ」はオリエント風世界を描いて人気を得た。

 「進撃の巨人」は少年漫画界で「ONE PIECE」以来のメガヒットと言われる超大作であり世界的な人気を獲得した。
 「ワンパンマン」はWEB公開作品であり、人気を受けて集英社から「アイシールド21」の作者である村田雄介の作画版が出るというムーブメントを見せた。漫画界もWEBを初出とするムーブメントが広まりつつあった。

 「武装神姫2036」はフィギュア業界出身で、メカ少女という新ジャンルを生み出したとも言われる作品だ。「プロジェクトA子」や「最終兵器彼女」などが存在してはいたが、それらとも異なる切り口は島田フミカネというクリエイターによるものが多く、「スカイガールズ」「ストライクウィチーズ」などでも活躍し、美少女×機械や美少女×ロボといったジャンルにおいて大きな存在感を発揮していくことになる。

 「宝石の国」は宝石の擬人化と独自の作風がコアファンの心を掴み、「文豪ストレイドッグス」は実在した文豪が異能バトルを繰り広げる作品として話題となった。

 「メイドインアビス」は内容も相当に話題となったが、企業が運営するWEBサイトで連載配信された作品であることも注目したい。この流れは13年以降でもう少し詳しく触れる。

 歴史大河枠からは「乙嫁語り」が、19世紀中央アジアを描いた作品として高い評価を得ている。

 他に、ライトノベル読者層と親和性が高い話題作として名前を挙げておきたいのは「けいおん!」「アオイホノオ」「キルミーベイベー」「ゆゆ式」「のんのんびより」「昭和元禄落語心中」「ハイスコアガール」「ご注文はうさぎですか?」「桜Trick」「ヤマノススメ」「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」あたりだろうか。

◆銀河の天辺で魔法少女が戦車とティータイム◆


・07~12年アニメ
「アイドルマスター XENOGLOSSIA」「天元突破グレンラガン」「電脳コイル」「ドラゴノーツ -ザ・レゾナンス」「ウエルベールの物語 ~Sisters of Wellber~」「月面兎兵器ミーナ」「ストライクウィッチーズ」「マクロスF」「快盗天使ツインエンジェル」「亡念のザムド」「異世界の聖機師物語」「クイーンズブレイド」「東のエデン」「探偵オペラ ミルキィホームズ」「宇宙をかける少女」「Angel Beats!」「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」「TIGER & BUNNY」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「フラクタル」「放課後のプレアデス」「ギルティクラウン」「魔法少女まどか☆マギカ」「輪るピングドラム」「戦姫絶唱シンフォギア」「輪廻のラグランジェ」「ガールズ&パンツァー」「セイクリッドセブン」「夏色キセキ」「PSYCHO-PASS サイコパス」

 「マクロスシリーズ」は初代以外拾っていなかったが、間がかなり空いてからの仕切り直し作品として注目された「マクロスF」は挙げておく。
 「ストライクウィッチーズ」はホビー雑誌での企画発作品で、「クイーンズブレイド」は対戦型ゲームブックが原作とアニメオリジナル作品ではないがここで紹介させて頂く。
 「探偵オペラ ミルキィホームズ」も原作はゲームとされているが、マルチメディア展開の最後に原作が発売されたという稀有な作品だ。
 「快盗天使ツインエンジェル」の原作はパチスロとなる。ギャンブル業界もオタク系エンタメの大侵略が進んでおり、その中でも「マジカルハロウィン」と並んで代表的作品と言われている。

 アニメオリジナルで特に話題になったのは「天元突破グレンラガン」「魔法少女まどか☆マギカ(以下:まどマギ)」「ガールズ&パンツァー(以下:ガルパン)」だろう。
 「天元突破グレンラガン」は「エヴァ」のGAINAXが手掛ける新作SFロボットものとして話題になり、まったく方向性が違う作風の名作として高い評価を得た(※61)。

 「まどマギ」の脚本を担当した虚淵玄は「斬魔大聖デモンベイン」や「沙耶の唄」などに関わったゲームクリエイターにして、小説家として02年からスニーカー文庫などに顔を出しつつ「Fate/Zero」「ブラック・ラグーン」のノベライズを担当したり、アニメ制作にもがっつり関わったりというマルチクリエイターだが、アニメやゲーム作品は大ヒット漫画家などと比べるとまだまだクリエイター名まで認知されない時代だったため、知る人ぞ知るという人物だった。
 それが「まどマギ」の社会現象に近い勢いのヒットにより、大きく注目されるようになる。

 「ガルパン」もまた社会現象級と言われるヒットとなった。美少女×戦車タクティクスというジャンル作品だが、舞台の大洗は聖地巡礼の大成功例としてニュースなどでも取り上げられ、令和まで続くブームを生み出している(※62)。

 社会現象といえば「アニメ版けいおん!(09年)」はそれに近いブームとなり、高額商品である楽器が飛ぶように売れたかと思ったら、数ヶ月で中古屋に並ぶ現象を呼び起こしたりもした。

 ロードムービー風アニメの「ミチコとハッチン」、お仕事ものジャンルの代表作にもなる「花咲くいろは」なども人気を獲得した。

※61 庵野秀明は関わっていない(企画最初期には触っていたという話はある)。GAINAX史とその崩壊史、独立したクリエイターたちの物語あたりは、10年代エンタメに大きく関わってくるがまあ深掘りなしで

※62 本来は宗教用語である聖地巡礼は、オタクエンタメ界では原作の舞台を巡る行為を指す。これも始祖論が激しく色々な説があるのだが、成功例として大きく取り上げられた事例としてはらき☆すた×埼玉県久喜市の鷲宮神社が有名。ガルパンの茨城県大洗町は元々観光地ではある

 映画からは「ヱヴァンゲリヲン新劇場版(07年)」が、TV放送の実質的な続編であった既存劇場版とは完全に異なる、新規リメイクシリーズ第一弾として話題をさらった。
 「秒速5センチメートル(07年)」は「ほしのこえ」を紹介した新海誠の新作として氏の知名度を上げる転換点の作品となった(ファンタジー作品ではない)。

 「劇場版CLANNAD(07年)」や「劇場版 空の境界(07年)」がコアファンを中心にヒットしたが、アニメ業界ではTVアニメ放送後に総集編を映画化した上で、新作続編も映画でやるというスタイルが定着しはじめていた時期でもある。
 その枠としては「東のエデン」や「まどマギ」などが人気を獲得した。さらに120分といった長編ではなく、比較的短いものを1話単位で劇場公開するという形も見えはじめており、「機動戦士ガンダムUC(10年)」などはその形式での成功例となった(※63)。

 「スカイ・クロラ The Sky Crawlers(08年)」は森博嗣による小説だが、「攻殻機動隊」の映像作品監督でも知られる押井守が監督を務めて注目を浴び、「サマーウォーズ(09年)」や「おおかみこどもの雨と雪(12年)」なども話題となった。

 ジブリは「崖の上のポニョ(08年)」「借りぐらしのアリエッティ(10年)」「コクリコ坂から(11年)」を公開している。

 歴史大河枠からは三国志演義の赤壁の戦いを描いた「レッドクリフ(08年)」が話題作となった。マーベル作品を拾えてないのだが、北欧神話を背景にしている「マイティ・ソー(11年)」も挙げておこう。

※63 この形式では映画作品ではなくOVAの公開であるとされることが多く、スターウォーズのエピソード展開やロード・オブ・ザ・リングなどの三部作構成の映画とは別物と区別される。また、機動戦士ガンダムUCはアニメオリジナルではなく小説が原作となる。

 映画ではなく実写ドラマ枠となるが「勇者ヨシヒコと魔王の城(11年)」も紹介しておきたい。「ドラゴンクエスト」をリスペクトした作品だが、実写であること、いわゆる低予算系と見られる中でなんだかんだ作りが良いこと、単純なギャグものとも違うシュールな世界観、スクウェア・エニックスが公式協力していることなどで話題作となり人気シリーズ化した。

 エンタメの一大転換点時代、あるいは『今のエンタメ』のはじまりとでもいうべき時代となり、本格的なファンタジーとは何かを追う旅であることを見失いそうになる。
 だが、時代の代表作や話題作をこのテーマで取り上げるかどうか迷うことが増えるということそのものが、大きな示唆ではあるのだろう。

 時代の転換といえば電子書籍が定着しはじめた時代でもある。誕生の過程などは深掘りできていないがAmazonがKindleを生み出したのが07年だ。KADOKAWAによる電子書籍コンテンツであるBOOK☆WALKERの開始は10年となる。DMMも12年にDMM Booksをリリースして参戦してきている。

 ファンタジーは死んではいない。ファンタジーに属する名作は大豊作だ。だが、本格的なファンタジーですよという確信をもって差し出すには少し迷う作品の方が多い。
 その事実をしっかりと受け止めつつ、その傾向がより加速していく13年以降、なろう系とソシャゲ黄金期をさらに見ていくわけだが、なろう系黄金期で重要になるキーワードが異世界転生だ。

 私はどうせならライトノベル前夜から存在する異世界召喚という概念と並べて見た方が面白いと考えた。なので、ここでまたエンタメ巡りの時の針を止めてしまい恐縮なのだが、次章では異世界召喚の歴史を振り返るところからはじめたいと思う。

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