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パンを出す場末の喫茶店

「パン屋さんになるの?」

「パン屋さんになったらいいのに」

作ったパンをおすそ分けしていると、かなりの確率で言っていただけるのがこういう言葉。

本当にパン屋さんになるには、それなりの資金も必要だし経営的な視点も必要なので、現役のパン屋さんが聞いたら、きっと「パン屋なめんなよ」と言われてしまうだろう。

それはもちろんわかっているので、はいそうですとは気軽にはいえない。

だから、シロウトが作ったとは思えない、パン屋さんで売っててもおかしくない、という意味のほめことばとして、ありがたく拝聴する。

自分はパンを作って何モノになりたいのだろうか。

パン屋さんになりたくて、というわけでも、パンを食べることが大好きで、というわけでもなく、ただパンを作るという行為が好きで、パン作りを続けている。

思えば、これまでさまざまなことに手を出しては、三日坊主でほったらかして忘れてしまう、ということを繰り返してきた。

それらは、○○ができる私、として認知されたいがため、というのがきっかけであったことは否めない。

そのなかから、○○ができる私、として成就したものは一つとしてなかったのに、パン作りだけは、いつのまにか、パンを作るねこのて、として認知されるようになっている。狭い範囲ではあるものの。

これが、ものごとの真理。

さて、自分はパンを作って何モノになりたいのだろうか。


カップにメッセージを書いてくれるようなお店ではなく、カフェ、というより、喫茶、と呼ぶ方がふさわしい店構え。

飲み物はコーヒーと紅茶、オレンジジュースのみ。

食べ物は、少し甘めのバターロールと塩バターパン。気が向いたら、シナモンロールとか、クロワッサンとかが並ぶこともある。

パンは日持ちがしないから、という店主の屁理屈で、パンは好きなだけ食べていいことになっている。

そんなにお客も多くないし、回転も悪いので、長居をしても文句を言われない。

話したいことがなくなるまでコーヒーを飲んでパンを食べて、気が済んだらどうぞお帰り。

そう、まるで場末のスナックのような、パンを出す喫茶店。

それが、ねこのてべーカリー。

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