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映画『ミッドサマー』を見ました。

ホラー映画なのにすっきりする?

正直ホラーは苦手です。グロ要素と脅かしビックリ演出がダメ。「明るいのに怖い」とよく言われるミッドサマー。明るいなら大丈夫か…?とドキドキしつつも見ることにしました。ホラー物が苦手なくせにミッドサマーに惹かれたのは、「失恋した人が見るとスッキリする」という感想を見かけたからです。ここ数年休む暇もなく失恋しているような私にはぴったりなんじゃ!!?と思ったのです。恋愛映画で癒される失恋の傷と、ホラー映画で癒される失恋の傷では、後者の方が圧倒的にパンチが強そうだと思いませんか?

表面的にはたしかにヒーリング映画だった

結論から言うと、何かに打ち勝ったような爽快感しかありませんでした。それは多分、人間関係のしがらみとかそんなものかもしれない。自分の弱さや醜さかもしれない。何度も見に行きたくなるのもわかる。ミッドサマー最高!民俗学的にもつくりこまれている作品ですが、そこらへんの考察は色んな人がわかりやすく解説してくれているので、今回は私個人の感想を残していきます!

ミッドサマーがスッキリするのは、女性に限られるかもしれません。主人公が彼氏とうまくいっていないのは明らかで、それに加えて彼氏の友人のクソさ加減もなかなか。女性をモノみたいに扱って、男の連帯感を深める構図…ホモソーシャルな世界の気持ち悪さが序盤で結構描かれます。このホモソーシャル野郎達を文字どおり焼き払ったことが、限りなく本音で下品な言い方をすれば、クソ男どもざまぁwみたいな気持ちにさせるのかな、と。
また、性の儀式も気色悪いっちゃあ気色悪いけれど、「女が男を選んで、女が男の性を搾取する」という現実とは逆の方向性に、ある種の気持ちよさを感じる女性がいても不思議ではないと思うのです。"愛され"とか"選ばれる"とか、そんな商業的煽り文句がはびこる世界には疲れ果てたよね。

儀礼や儀式は共同生活を円滑にするが、考えることをやめさせると思う

日本人は同調圧力の強い民族なので、この映画を見てもあんまり違和感を感じないらしいですね。
主人公の彼氏は彼氏としてはクソだったけど、習わしにたいして偏見を持ちたくないと言ったのは立派だと思いました。老人を施設に入れる方が異常。これは一理あると思います。
72歳になったら死ぬ。それは、延命治療するよりも自分の意識がハッキリしているうちに自分で死を選びたい、という昨今よく議論される話題と何も変わらないはずです。ただその手段が飛び降りで自殺ではないだけで……。日本では、安楽死制度を認めてしまうと、安楽死したくない人に対しても死んだ方がいいという圧力がかかることが恐れられています。「72になったら死ぬ」ということに疑いのない彼らの方が、私たちよりも尊厳死を手にしているとも言えるかもしれません。
その一方で、生け贄にされる直前になって恐怖を感じた村人のように、風習に従うということは、自分の本来の気持ちと向き合う機会を失ってしまうことでもあると思います。ホルガ村に限らず、私たちの日常生活においても、なんの疑いもなく行っている当たり前の習慣のなかにこそ、自分の本心には反する、一方で、それさえ行っていれば真実と向き合わずにすむような行動が潜んでいると思いませんか?

ダニーはホルガ村の家族の一員になれたのか

ダニーは妹の無理心中によって、家族全員をなくしています。クソ彼氏を焼き払っただけではなく、ホルガ村の人々が自分のことを本当の家族だと心から思っていることを実感したことが、深い悲しみからダニーを立ち直らせたと思うのです。ダニーがメイクイーンに選ばれたあとの村人たちの笑顔は、本当に心からダニーを包み込んでくれるようでした。愛らしい民族衣装と豊かな自然の映像美とともに。
クリスチャンの性の儀式を見てしまったダニーが混乱した時も、ホルガ村の女子たちは、慰めるでも励ますでもなく、ダニーのぐちゃぐちゃになった感情に共鳴しています。本当に心から。それは、孤独だったダニーには一瞬の癒しになり得た。一方で、ダニーが彼女たち村人に共鳴することはないのです。共感してくれて救われる気持ちがある一方で、心の奥では本気で共感している様はちゃんちゃらおかしいのです。癒しと狂気によって、ダニーは他人への依存心と決別するのです。それがラストの笑顔だと思うのです。
他人に依存しないというと聞こえはいいですが、大好きだった家族も彼氏ももうどうでも良く、一瞬の癒しをくれたホルガ村の人のことももちろんどうでも良く、自分以外の人間すべてから解放された、なにか極まりきった境地みたいなところまでたどりついた、そんな笑顔だったと思うのです。だからこそ鑑賞者もスッキリした気持ちになる。クソ男燃えてざまぁwとは言ったけれども、当のダニーにすれば、彼氏が燃えたことすらもう意識の端にもひっかからなくなっていたでしょう。よって、ダニーはホルガ村の一員になれたわけではありません。ラストのシーンで村人たちは焼け死んだ生け贄に共鳴しているのに対して、ダニーだけが微笑んでいますからね。あのラストシーンはとても爽快感がありますが、そのあとのダニーを想像すると不安な気持ちが立ち込めてきます。どうかその狂気をまとい続けたまま、ホルガ村でもいいし、村を脱出してもいいから、存命で幸せであってほしいなーと思います。


『ミッドサマー』は、2019年のサイコロジカルホラー映画。監督はアリ・アスター、主演はフローレンス・ピュー。アメリカの大学生グループが、留学生の故郷のスウェーデンの夏至祭へと招かれるが、のどかで魅力的に見えた村はキリスト教ではない古代北欧の異教を信仰するカルト的な共同体であることを知る。 ウィキペディア



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