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よむラジオ耕耕 #30 『三重県いなべ市へ向かっています』

💁 こんなひとにオススメ:ローカルの編集に興味がある。ギャラリー『岩田商店』がある『いなべ』が気になっている。加藤の編集技に興味がある。


今回の放送は、加藤が出張先の三重県いなべ市へ向かう車内での「一人語り」での収録になります。スケジュールの都合にてアシスタントの星野くんは登場しません。

ノーギャラがいつしか仕事に


加藤:今日は「編集者としての加藤の仕事や出張先での思い出について聞きたい」といういくつか質問があったので、仕事術とまではいかないですが、編集者としてのコツ、みたいなことを話していければと思っております。

*パーソナリティの加藤は PARK GALLERY を運営する傍で編集者やアートディレクターを生業としている。

加藤:いまとなっては編集者の肩書きで仕事をしているのですが「もともと編集者を目指していたか」と言われるとそうでもなくて、かつて制作会社にいたときはディレクターとして、むしろ編集者さんやライターさん、デザイナーさんを統括する仕事をしていました。

2012年にフリーランスとして独立するときに、ディレクター1本でやっていくのは厳しいと思う一方で、クライアントに出す企画書や提案書で魅力的なコピーをつけたり、わかりやすく読みやすく文章を整えていくっていう作業をわりとひとりでやっていたから、「編集」もできるんじゃない? って感じで「編集者」としての仕事を受けるようになりました。ここ10年くらいいろいろな媒体に関わる中で、特に「ローカル」の仕事が多いのは、わりと旅行が好きだったから。とにかく「旅するように仕事がしたい!」とまわりのひとたちに言っていた時期があって「じゃあうちの町に来なよ!」という具合に(笑)。最初はノーギャラで受けたりしていたんだけど、それを実績として SNS で発信しているうちに「じゃあうちにも」「こっちにも」と声がかかるようになって「仕事」として成立するようになったという流れです。極め付けは、「さがごこち」という佐賀県の旅のガイドブックの編集長を担当して、1冊のガイドブックを作ったことですかね。編集者としての知識はないけど、経験と感覚で作った1冊。胸を張って「編集者」と言えるものにはなったかと思っています。

いなべの豊かさの象徴・藤原岳


いまこうして編集者として三重県のいなべ市に向かっているので、いなべ市をかんたんに説明すると、三重県の北の方に位置し、滋賀県と岐阜県と隣接している44,000人くらいの人口の町です。鈴鹿山脈に囲まれるように町があるので自然と暮らしがちょうど良いバランスで融合している感じ。印象的なのは、いなべに着くとまず目に飛び込んでくる『藤原岳』という山。鉱山として資源を採取できる山ということもあって、ダイナマイトで段々に切り崩した山肌が見える不思議な形状になっています。パッと見、日本の景観には見えない場所。

撮影:ウラタタカヒデ

でもこの山を見ると「いなべらしさ」を感じます。車でどこを走らせていても藤原岳がついてくるかのように見えます。ひとによっては「自然破壊」と思うかもしれませんが、一方ではいなべの豊かさを象徴しているようにも見えるし、かつて鉱山の町として栄えた歴史も感じることができるかなと。いろいろな視点でみるべきかなと。今もセメントが採れるみたいで、いなべの大きな産業となっています。町のあらゆるところに大きなお屋敷があって、豊かだったんだろうなーと感じることができます。

ここに住んでるひとたちの性格もどこか温厚で、とてもいい空気が流れているのを感じます。最初に来たのは2017年かなー。とわでざいんという名古屋にいた友人の衣服ブランドのカタログのロケ地がいなべで。で、その時の出会いがきっかけで2019年に市からの発注でガイドブックを作ったり、いなべの魅力を伝えるための映像を作ったりと、いろいろ仕事でも関わらせていただいています(市役所ではぼくが作った映像が流れています)。

見たまま、感じたままを書いただけ


数年にわたって取材を通じていくと、気づくことがあります。出会うみなさん全員が口を揃えて「水が良い」と言うんですよね。僕もそれは実感していて、特にいなべのスーパーで売っている「縁」という豆腐がすごい。僕が今まで食べた中で一番おいしい。それくらい水がおいしくて、かつ、いなべはオーガニックで野菜を生産している農家さんが多くて、東京では買えないようなびっくりするような安さで有機野菜が買えます。それを魅力に感じて、子育て世代や、生活に対して意識の高いひとたちが移住して、どんどん賑わいをみせています。これ、僕が「編集者だから」いなべという町の魅力に気づけたとかではなくて、もうとっくにみんな気づいてて、たくさんのひとが移住していて、ぼくはそれをなぞって言語化しているだけ。それに、いなべに行けば、ここが魅力的な町なんだって誰でもすぐにわかります。だからぼくは誰かに会いに行って、見たまま感じたままをただ言葉に書いているだけなんです。編集者と言っても。

とはいえ、2019年にはぼくが編集を手がけた「いなべ市パンフレット」が、地域の魅力を活性化する・発信するための冊子の準グランプリに選ばれました。

ここで読めます(PDF)
https://www.city.inabe.mie.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/973/kurasi2022.pdf

いなべ、暮らしを旅する。(2019)

でも、それは編集者としての僕の手柄というより、いなべにもともと「すばらしいひと」がいて「店」があって、ぼくはありのままの言葉で「いいものがここにはある」ということを証明したようなものです。素敵なひとが集まっている土地です。おおげさなことをぼくが「編集」と謳って語ったって、それはよくないものだと思っています。コツと言えばそんなところでしょうか。

名古屋のとわでざいんも結婚していなべに移住して2人の子どもに囲まれながらアトリエやっていますし、そのアトリエの冊子の編集もいま手伝ってます。それもありのまま。できることだけをやるっていうスタイル。

最近はいなべにある「岩田商店」というギャラリーともPARK GALLERY はつながりがあって、パークで個展をした作家が岩田商店にお誘いを受けて展示をしたりとか、逆もしかりで、そんなつながりも取材の副産物というか、うれしいなと思っています。コロナ禍で行けない時期もありましたが、最近でも仕事関係なく行ったり、好きでよく通っている場所の1つです。

ちなみに今回の出張は、新しいグランピング施設の取材です。とわでざいんの自宅兼アトリエに泊まらせてもらう予定です。

だいたい名古屋からだと高速で40分くらい。東京からだと車で5時間くらいです。5時間のドライブと聞くとツラいと思うかもしれませんが、僕は5、6時間は平気で運転できます。そのくらい好きな行為のひとつです。運転自体がストレス発散というか。道中のサービスエリアのお土産コーナーや窓から見える景色もまた、いつかの取材の時のための糧になると考えています。旅はすればするほど自分の中の知的財産になっていく。なので、僕はどんなところでも車で行きたがります。キャンプ道具を常に載せているので、いつでもどこでも車中泊ができます。

いなべ、脱輪の旅の思い出


2017年に写真家の熊谷義朋くんと一緒にいなべの里山の魅力を伝えるフリーペーパを作ったんですが、その時に取材で合わせていただいた方々がとても温かくて優しくて、超個性的で、会うひと会うひとに衝撃を受けました。

まず、市役所の担当者の運転で山奥のお寺まで行ったんですが、いきなり車が脱輪したんですよね。絶対にそっちに道ないだろうと思いながらも突っ込んで組んで、案の定って感じ。もう少しで車が川に落ちるっていう(笑)。その時、助けてくれたのが地元のスーパーヒーローと言われているおじさんで。いきない現れてトラックで引っ張ってくれて、それで助かった⋯。あの時の衝撃が取材のあとも忘れられなくて熊谷くんと「なんかお返しがしたいね」って話をして、取材で撮ったみんなの写真を東京で現像して、ギャラリーで額装して、車に積んで、改めて助けてくれたおじちゃん含め、みんなに会いにいなべへ行ったんですよね。写真をプレゼントした時のみんなのよろこぶ表情が本当にうれしくて。あの時の写真がきっかけで、自分たちの暮らしてる里山のこと、もっと好きになってくれたら本望だなぁという気がしていて。「写真の力」を身をもって知ることができたし、とにかく感動したんですよね。

そのあと、せっかくいなべまで行ったので市の担当者の方々とみんなで打ち上げを兼ねて、キャンプ場で BBQ しました。もちろん仕事の一環なんだけれど、納品して「はいおしまい」っていう一過性のものではなく、取材とはいえ、ひとつの僕の人生の延長線上にある「関わり」なんだし、ひととして、そこをドライに考えて逸れてはいけないという認識はあって。それはシンプルに「何かもらったら返す」ということ。それは「取材の成果物の納品」ということだけではなく、ひととして、気持ちでできたらなぁと思っています。

それがお互いにとって思い出となって、よろこんでもらえた事実も僕の中の糧となって、また次の取材のエネルギーにもなっているんだなと思っています。また会えるって思うとうれしいですし。

ぼくは編集の学校に通っていたわけでもないので、特に優れた編集のスキルはないかもしれないですけれども、それに、自費で額装したり仕事以外でいなべに行くって余計なコストはかかってしまいはするんですけれども、でも「僕にしかできないこと」って何かなと考えた時に、そういうアイデアは出したいし、行動にうつしたいとこころがけています。

おしまい。

ラジオの後半でも紹介していますが、いなべのオススメのお店を、耕耕の新企画『ARTRIP』でまとめています。よかったらそちらもご覧ください。


よむラジオ耕耕スタッフかのちゃんによる文字起こし後記

三重県いなべ市。三重県にすら足を踏み入れたことのない私にとって、全く耳馴染みのない土地名で、そこに加藤さんが向かっている様子は、何だか加藤さんの旅やこれまでのいなべとの関わりを追体験するようで、いつもの耕耕とは一味違う新鮮な回だった。車内の音も、ロード感があってとても良い。中でも気になったのは、いなべの一つのトレードマークとも言えるだろう「藤原岳」の存在だ。

「印象的なのは、いなべに着くとまず目に飛び込んでくる『藤原岳』という山。鉱山として資源を採取できる山ということもあって、ダイナマイトで段々に切り崩した山肌が見える不思議な形状になっています。パッと見、日本の景観には見えない場所。でもこの山を見ると「いなべらしさ」を感じます。車でどこを走らせていても藤原岳がついてくるかのように見えます。ひとによっては「環境破壊」と思うかもしれませんが、一方ではいなべの豊かさを象徴しているようにも見えるし、かつて鉱山の町として栄えた歴史も感じることができるかなと。」

加藤さんのこの言葉に、目にみえる現在形の自然や町の豊かさだけが、町の良さではないのだと知ることができた。かつて鉱山で栄えた跡地も、これまでいなべをいなべたらしめてきた揺るがない証だ。確かに、グーグルマップで藤原岳を検索してみると、硬くて、まるで空から落ちてきたような石石が大自然の中にSFチックに転がっている。しかし、さすが300名山の一つであり、山頂まで続く杉たちは東京ではまずお目にかかれないような代物のようだった。いつかおすすめのお店を巡りながら、藤原岳の健脚コースに挑戦してみたい。耕耕でまたしても行きたいところが増えた。

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