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「はちどり」の小学生版? 韓国映画【わたしたち】

韓国の映画監督で好きな人はたくさんいるけれど、私にとってイ・チャンドンは別格なのです。彼のどの映画からも、いつも超ド級の大切なものを得ることができて(もしくは失う)、鑑賞前の自分の価値観には戻れくなってしまうから。なので、この映画にイ・チャンドンがシナリオに関わっていると聞き、絶対観ようと思っていました。
*以下最終的なネタバレはしていませんが、ストーリーには触れています。

【解説】
「オアシス」「シークレット・サンシャイン」の名匠イ・チャンドンが見出した新鋭ユン・ガウン監督が、自身の経験をもとに、いじめやスクールカースト、家庭環境の格差など、現代社会が抱える問題を盛り込みながら、人生で初めて抱く友情や裏切り、嫉妬といった感情に戸惑い、葛藤しながら成長していく子どもたちの姿を描いたドラマ。学校でいつもひとりぼっちだった11歳の小学生の少女ソンは、転校生のジアと親しくなり、友情を築いていくが、新学期になると2人の関係に変化が訪れる。また、共働きの両親を持つソンと、裕福だが問題を抱えるジアの家庭の事情の違いからも、2人は次第に疎遠になってしまう。ソンはジアとの関係を回復しようと努めるが、些細なことからジアの秘密をばらしてしまい……。2016年・第17回東京フィルメックスで上映され、観客賞などを受賞した(映画祭上映時タイトル「私たち」)。(映画.comより)
2016年製作/94分/G/韓国
原題:The World of Us
配給:マジックアワー、マンシーズエンターテインメント

わたしたち」は、ユン・ガウンという女性監督の、自身の幼少期の体験を基に作り上げた作品。2016年公開作品です(日本は2017年公開)。
小学校で仲間外れにされているソンが、一学期が終わる日に転校してきたジアと出会って友達になったことで、色んな出来事が起こっていく…。
とても静かで地味とも言える作品だけれど、あまりにも臨場感がありすぎて、たちまち気持ちは自分の子供時代に戻ってしまいました。

とにかく心が痛かった。ソンやジアと、自分の子供時代とは、時代も国も環境も友人関係も全く別物なのに、「この感覚や感情、知ってる!」のオンパレード。

友達のちょっとした嘘で傷ついたこと。
ある日突然、仲の良い友達の態度が変わったこと。
悲しいことがあっても、母を悲しませたくなくて内緒にしたこと。
イライラしていて何の罪もない弟に八つ当たりをしてしまったこと。

正直、今となっては実際にそれを私が経験したことなのかどうかも定かではないけれど、気持ちだけはすっかりあの頃に戻ってしまって、ソンの気持ちが、時にはジアの気持ちも、痛いほど分かってしまう。

それと同時に、このミニマムな彼女たちの日常から世界全体がくっきりと見えてきたりもします。だって、彼女たちが抱えている問題は、少なからず大人社会の影響を受けているのだから。
経済的格差や親の不在という実際の生活に関わってくること以上に、成熟しきれてない大人社会の状態(平気で差別したりマウンティングしたり、失敗した人を袋叩きにしたりなど)が、学校というコミュニティにも影響を与えているんだなって感じました。

じゃなかったら、まだ数年しか生きていない子供たちが、自分より弱いものを平気でいじめたり、バカにしたりなどしないはず。いじめっ子たちだって生まれながらのいじめっ子ではないのだから…。ノスタルジックな感情を刺激されるだけじゃなくて、今の自分のありかたも襟を正され、もう色んな意味で打ちのめされました。

終盤、もうこれ取り返しつかないでしょ、無理でしょって展開になったりもするんだけど、ものすごい変化球の人物から金言が放たれたりして(笑)、彼女なりに成長していく姿に涙。

本当に観て良かった!自分の子供時代に思いを馳せるだけでなく、多分きっと、今より少しだけ周りの人に優しくなれると思います。観る人によって得るものは違ってくると思うけれど、今の子供たちとその親たち全員に観てほしいと思える映画でした。

ミニマムな世界から社会全体を映し出す構造や、少女たちのヒリヒリするような心情の描写、そして透明感にあふれる美しい映像…。年代や主人公のキャラは違うけれど、やっぱり彷彿とさせるのは「はちどり」です。「はちどり」よりもう少しシンプルな内容かもしれないけれど、あの世界観に打ちのめされた人は、こっちも多分好きだと思います。

いい映画だからか、公式サイトの著名人のコメントもめちゃくちゃ気持ちが伝わってくる名文ばかりです。

極私的好き度 ★★★★★★★★★★(10)


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