見出し画像

3つの語り③(探求の語り)

探求の語りとは,苦しみの経験を通しての自己変容の語りです。

ただし,それは直線的な成長物語ではなく,混沌の語りを通して紡がれる『後退-発展型』のロジックです。
後退(過去志向)を通しての前進(未来志向)であり,それらを繰り返しながら続くスパイラルなものです。
探求の語りにおける未来志向的な態度は,過去に体験した混沌とした苦しみへの過去志向的な態度に深く根差すことではじめて可能になるのです。
つまり,過去の経験から新たな未来がみえてくるのです。

繰り返しになりますが,探求の語りとは決して復帰の語りのような直線的な回復ストーリーではありません。


例えば,多くの医療職は死の受容過程,障害の受容過程など「〇〇の受容過程」というものを,直線的な物語として理解しているように思います。

スクリーンショット (47)

[ショック⇒否認⇒怒り⇒抑うつ⇒受容]
途中で上昇・下降はありますが,全体を通した一連の流れは直線的な回復ストーリーなのです。
そして,実際には誰もが直線的な道を辿るわけではありません。むしろ,一度は乗り越えたと思ったことが,環境の変化や新たな課題の出現で,簡単に混沌の語りへ陥ってしまいます。しかし,混沌とした苦しみに立ち還ることで,探求の語りがなされるのであり,苦しみから学ぶことができるのです。

スクリーンショット (46)

つまり,混沌とした苦しみは,克服され忘却されるべきものではなく,証言され想起される側面を持っているのです。だからこそ,支援者は苦しむ人の語りに耳を傾ける必要があるのです。また,苦しみが大きければ大きいほど言葉にならず,身体が証言するという側面があります。支援者はそういった身体の語りにも目を配る必要があります。

以上,3つの語りを簡単に解説させていただきました。

【参考文献】
・アーサー・W・フランク(著),鈴木智之(訳):傷ついて物語の語り手

#臨床哲学 #価値観 #ケア #看護 #介護 #リハビリテーション #善き援助者とは何か #臨床倫理 #コミュニケーション #対人援助

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?