見出し画像

夏休みの笑み

近所の神社にフクロウがいるらしい。

お嫁がそう言う。
情報源は、その神社の前にある喫茶店の店主。「そこの神社にフクロウがおるのよ。」
と店主が言ったらしい。

それを何年か前に聞いてから、野生神社フクロウをひと目見たくてその神社に通っていて、今日も今日とてその神社を歩いていた。

すると、虫網を持った7歳くらいの少年たちが現れた。こんにちわぁ!と、僕に挨拶をして、その次に、なにしてるんですかぁ!と質問してきた。

「うーん。秘密。」と、答えると4人とも驚いた顔をする。たぶん大人の人に、にこやかに話しかけたら、大人らしい、にこやかで愉しい返事があることを期待していたのかもしれない。でもどうやら“秘密”という言葉に、火がついた少年がいたようで、

「え!でも!大人の人がひとりで何かしているのは気になります!まさか、カブトムシ探しですか???!ほら!僕達もカブトムシ探してるんです!」

少年たちは虫かごを高々と掲げて僕に見せてくれた。

「いや、探してないよ。あ、でも、こっちの本殿の方には、杉しかないからカブトムシはいないかも。参道の方がおるかもね。」

どうやら少年たちは、カブトムシの習性などは無視して闇雲に探していたらしい。僕がそんな情報を漏らしてしまったものだから、4人の少年たちの目が爛々と輝き始め、

「え!じゃあ!じゃあ!どんな木に居るのかとかわかるんですか??!!」

と前のめりで訊いてきた。

「うん。」

「え!!!!!!!!!!教えて下さい!!」

出会って数分で、彼らの教祖になってしまった。

イガイガ帽子のどんぐりが下に落ちているクヌギの木が、カブトムシやクワガタは大好きだと教えて、まずそのどんぐりを探させた。すると、まるで鵜飼のように4人の少年たちが参道に散らばり、どんぐりを探す。

しばらくして、一人の少年が、ありましたぁ!と、どんぐりを持ってきて、高々と掲げ僕に見せる。すると他の少年たちも集まってきて、僕が頷くのを待つ。

そうだよ、と頷くと、彼らは一目散にその木の根元へ走っていく。

それじゃあね、ばいばい。と声をかけると、彼らにはもう聴こえないらしく、木の周りをきゃっきゃと虫網を持って駆け回っていた。

僕は僕とて、フクロウの痕跡をやっと発見した。フクロウがネズミを食べたあとに骨と毛を吐き出すペリットというものだ。確かにこの森には、フクロウが居るらしい。

ネズミの骨を観察しながら思い出す。虫を友達と捕まえるだけで、あんなに笑える夏が僕にもあったな、と。子どもは人生を楽しむ達人だ。笑っているだけで豊かである。教養や経験は人を深くしてくれるはずなのに、なぜだかわかった気になって、大人になると笑わなくなる。とても不思議だ。僕は立ち上がり、ペリットの上の木々を見上げて、まだ見ぬフクロウをおもった。参道には、少年たちの笑い声と、ひぐらしが響いている。


もしサポートして頂けた暁には、 幸せな酒を買ってあなたの幸せを願って幸せに酒を飲みます。