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インフルエンザ⑤ 症状による事前確率

クリスマスが終わると一気に「年末感」がましますね。

私が住んでいる地区では一気にインフルエンザの流行が来ている感じがします。年末の救急外来はすごいことになりそうです。学校や仕事が休みになりますので、接触が減って感染が減らないかなあと期待していますが、年末年始はイベントで人が一杯集まりますかね、、、、

そんなか、救急外来が大変混み合いますので、本シリーズを受診のタイミングを考える一助にして頂けたらと思います。

事前確率が大事、とさんざんお話ししています。

では、どんな症状があると「インフルエンザの事前確率が上がる」つまり、「よりインフルエンザっぽい」のでしょうか?

成人の研究から、、、

下記の表を見て下さい。インフルエンザ流行期において、どんな症状があったらインフルエンザである PPV(陽性的中率)が高いのか、NPV(陰性的中率)が高いのか?を示した表です。(文献1)

PPVが高い = その症状がある人はよりインフルエンザっぽい
NPVが高い =  その症状がある人はよりインフルエンザではないっぽい

ということでしたね。ここでのポイントは、「インフルエンザの流行期において」です。まずは流行の確認が大事、というのはお話ししたとおりです。

画像1

みてみますと、発症から36時間以内では fever(発熱)があると、PPVが76.85% ということになります。

つまり、超単純にいうと、流行期に熱があると 76% がインフルエンザである。ということになります。

熱と咳が組み合わさると、PPV は85%になるようです。

小児では、、、?

別の研究から引用します(文献2)

ここではOR(odds ratio)を用いています。ざっくりいうと、

odds ratio
その症状がある場合、ない場合に比べて何倍インフルエンザっぽいか?

ということになります。

インフルエンザが流行している地域で、発症 48 時間以内に、37.8 ℃以上の発熱を来した患者の内、咳または鼻水を来した患者、を対象としています。

やっぱり「流行している地域」、が重要です。

1 - 4 歳では Myalgia (筋肉痛)がある場合に、インフルエンザがある確率がない場合に比べて、2.32 倍になることがわかりましたが、それ以外はインフルエンザを特別に示唆するような症状はないようです。

成人では PPV 85% を誇った 熱+咳もこの年代では 64% と いまいち振るいません。

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5 - 12 歳では、咳が加わると、10 倍、インフルエンザっぽいということになるようです。表にはありませんが、熱+咳のPPVは71%ということで、成人ほど事前確率は上げられません。

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これらの事前確率を実際に患者さんに適応して大丈夫?

さて、これらの研究では上記の結果でした。

これらの事前確率を、実際に患者さんを診察するときに本当に当てはめても大丈夫でしょうか?

キーポイントは、「インフルエンザの流行状況」という曖昧きわまりない言葉をどう定義するか?です。

上記の

成人の研究では、「インフルエンザの流行期」
小児の研究では「地域でのインフルエンザの流行」

と定義されていますが、ここを個別の症例でどう考えるか?ということになります。

つまり、一口で「流行」といっても、

・クラス内でたくさんインフルエンザの子どもがいる
・6年生が一人インフルエンザになったけど患者は一年生

・家族がインフルエンザにかかって看病していた

・友達がインフルエンザになった
   →その友達はよく一緒に遊ぶ友達?
    単に「クラスメイト」をさしている?
   
・彼氏/彼女がインフルエンザになった
  →でもここ1週間はあっていない?

など、想定される状況が様々です。

この「流行状況」に対する見積もりを、どれくらい加味して上記の研究で示された事前確率をより高く見積もるか?、あるいは 低く見積もるか? が臨床医の勘所、になります。

逆に患者さん側がそれらを把握していなければ、医者の診断もより「占い」に近づいてしまう、ということになります。


【参考文献】
1. Ann Intern Med. 2012 Apr 3;156(7):500-1
2. Clin Infect Dis. 2006 Sep 1;43(5):564-8



小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン