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雨の日は絶好のフェルメール日和だ

雨の日、特に冬でも春でもない雨の日はキッチンが似合う。

今朝、ココアをうっかり沸騰させて鍋からあふれさせた。
朝一番に歯医者に行ってから、水につけておいた五徳を金ダワシでじゃりじゃりとこする。窓からはほのかに光が入っている。そこはかとない明るさが心地いい。しばらく手入れをさぼっていたから、力を入れないと五徳の汚れは落ちない。手のひらからは錆びた匂いがする。

雨はしずかに降って、この空間はとてもとてもしずかだ。

こんな画を見たことある。
五徳の焦げ付きを調べながら、私は記憶をたどった。


絵だ。
フェルメールの。水差しを手に持つ女。
違うな。たしか「牛乳を注ぐ女」、だっけ?

私は固有名詞を覚えないたちなので、ここまで思い出せたことがちょっと驚きだ。やるね、じぶん。


じゃりじゃりとした手ざわりの金ダワシ。
焦げ付きを落とすと、五徳はつるつるになってきた。
浸けている水からは微かに鉄の匂いがあがってくる。

外は雨がしずかに降っていて、すりガラス越しの窓の外は淡くしろい。
部屋の中はやわらかく明るくて、少しだけ暗い。

なんともない日常のシーンが蓄積されていく。


自分は、こうやって画を蓄積していたのかぁ。と知った。
だからどうってことないんだけど、その「どうってことない自分」のことすら私は今の今まで知らなかったわけで。知らないことばっかだね。

ランチがてら、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」を検索する。
ありゃ。私の記憶よりはるかに明るい。
フェルメールのこの部屋は、こんなに光が差してたのね。記憶って曖昧。
でも、私の目にはこの絵は、この部屋はそういうふうに見えていたんだ。


勝手に下げてた照度をプラス3、戻して。
そろそろ現実らしい日常に戻ります。

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