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映画『瞳をとじて』 ビクトル・エリセの遺作(予定)(ネタバレ感想文 )

監督:ビクトル・エリセ/2023年 スペイン(日本公開2024年2月9日)

以前、『ミツバチのささやき』(1973年)を「最愛の映画」と書きましたが、それ以来ビクトル・エリセのファンです。大ファンです。

ただ、このスペイン人監督、寡作なんだ。
10年に1本しか撮ってくれない。

『ミツバチのささやき』(73年)
『エル・スール』(82年)
以上が劇場用映画。
そこから10年待ったら、まさかのドキュメンタリー。
『マルメロの陽光』(92年)
そこから10年待って、やっと撮ってくれたのが、たった10分の短編。オムニバス『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』(2002年)の1本。
そこから10年後、かろうじて短編2本。
オムニバス『3.11 A Sense of Home Films』(11年)と
オムニバス『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』(12年)のそれぞれ短編1本。
(『3.11』は観てないけど、『ポルトガル~』はドキュメンタリーだった)

そして今回11年ぶり、長編としては31年ぶり、いや、長編ドラマとしては実に41年ぶりの新作。
ちなみに私は『3.11』以外は全部観ていますが、次は10年後かぁ・・・
でも、ビクトル・エリセは現在83歳。10年後は93歳。
おそらく本作が遺作になっちゃうでしょうね。

それもさることながら、本作は事実上、たった2作の長編ドラマ、『ミツバチのささやき』と『エル・スール』の「受け」なんです。
まさか50年後の本人に「ソイ・アナ」言わせるとは思いませんでしたけど。

『エル・スール』は父が失踪する話で、本作も(アナ視点で見れば)その設定を踏襲しているのです。
そして、「移動映画上映」から始まった『ミツバチのささやき』を受けて、本作も映画鑑賞会で終えるのです。
「この映画館は祖父が作った」「祖父は昔、移動映画館をやっていた」とか言って、『ミツバチのささやき』との繋がりを思わせながら。

そういった意味では、エリセの「映画愛」の映画でもあるんですよね。

さらに言うと、劇中の映画、「別れのまなざし」でしたっけ?たしかこの映画の中の設定が1941年だったと思うんです。
『ミツバチのささやき』の設定がちょうどそのくらいで、スペイン内戦直後のフランコ独裁政権が始まった辺りがキーになっている。

ただ、この劇中劇、なかなか珍作の匂いがしますけど、もしかすると何か深い意味があるのかもしれません。
「別れのまなざし」、でしたっけ?
このタイトル自体が、83歳エリセの「お別れ宣言」のようにも思えます。
実際、この映画のメインストーリーもチャンドラー『長いお別れ』的でもありますし。あるいは村上春樹『羊をめぐる冒険』。いやもう、僕と鼠の物語ですわ。

「お別れ宣言」も含め、たぶん、エリセ自身の物語でもあるんです。
その未完の劇中映画は監督の2作目だったと語られますが、実際エリセの2作目『エル・スール』は、実は完結してないそうですよ。まだその続きがあったとか。
そういった意味では、本作は、その決着だったようにも思えます。
まあ、この海に面した高齢者施設が南部地方エル・スールかどうかは知りませんけど。

そしてエリセは、主人公の日常描写を通して「今は映画を撮らずに本を読んだり釣りしたりして暮らしている」という近況報告をしているのかもしれません。

劇中「ドライヤー亡きあと奇跡は起きない」とジョークを言う場面がありますが、少し前に観ましたよ、カール・テオドア・ドライヤーの『奇跡』(1954年)。

そしてその言葉通り、この映画に奇跡は起きていないように思うんです。
少なくとも、エリセ大ファンの私の瞳にはね。
その新作を10年待ち続けていましたけど、やっぱり80歳代の感性は信用できないんだ。
まあ、元々「枯れた」作風だからさほど違和感はないんだけど、物語を紡ぐ「粘り」がなくなる気がするんですよ、年をとると。
シーンとシーンを繋ぐ「粘り」がなくなって、フェイドアウトで終えてシーンの羅列になっちゃうんだ。
以前からその癖はあったんだけど、今回はだいぶ酷い。

長年お付き合いして、待ち焦がれた人が『長いお別れ』を持ち出してきたことに、個人的にはグッと来たんだけど、一見さんにはお勧めできない映画。

(2024.02.11 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞 ★★★★☆)

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