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映画『フェイシズ』 階段と愛想笑い。ワーッハッハッハ…シーン……(ネタバレ感想文 )

監督:ジョン・カサヴェテス/1968年 米

「インディペンデント映画の父」と呼ばれるジョン・カサヴェテス。
今回「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ」という特集上映で初鑑賞。
特集上映されてもさ、重すぎてカサヴェテス作品を続けて観たかねーんですよ。
結論を先に言うと、この映画★5付けるけど、二度と観たくない(笑)。
『こわれゆく女』(1974年)も同じ。傑作だけど二度と観たくない(笑)。
胃もたれする。

そう考えると、俺、カサヴェテス好きなのかな?
11本か12本くらいある監督作の中で本作含めて3本しか観てないし。
今回の特集上映にコメントを寄せてるのが濱口竜介とか三宅唱とかイランのアミール・ナデリとか、俺の嫌いな監督ばかりだし(笑)。
ちなみに『こわれゆく女』以外で観たのは、カサヴェテスファンに言わせれば「商業映画に魂を売った」という『グロリア』(80年)しかない。
『グロリア』大好き。俺の尊敬する人、グロリアおばさん。
ちなみに今さら言うまでもないけど、『グロリア』は、みんな大好き『レオン』(1994年)の元ネタね。

俺の尊敬する人グロリアおばさん

で、また結論を先に言うと、この『フェイシズ』、とにかく不快なの。
だいたい俺、はしゃいでる大人が大嫌いだからさ。
ワーッハッハッハ…とか、ずーっと笑ってて、ずーっと不快なんです。
でもね、シーン……ってなってから俄然面白い。超面白い。めちゃくちゃ面白い。二度と観たくないけど(笑)。
ちなみに静かな場面に「シーン」て擬音を当てたのは手塚治虫だって話だけど、本当かな?

なんでもカサヴェテスが、前の監督作(『愛の奇跡』(63年)なのかな?)で揉めたのか失敗したのか、いずれにせよハリウッドに嫌気が差してニューヨークに戻って撮った作品だとか。
劇中、「ロスは好き?」「気候は」みたいな台詞がありますが、カサヴェテスの本音だと思うんですよね。

やはり劇中、「社会の中心の年配男性は若い男性に取って代わられるのを恐れている」「(若い男自身は)そんなこと思ってないけどね」みたいな台詞があります。全然うろ覚えですけど。
これもね、ハリウッドで揉めたカサヴェテス(当時30代前半)の本音だと思うんです。

どうして若い男、つまりカサヴェテスは、今の社会の中心と取って代わろうと思っていないのでしょうか?
それはきっと、ハリウッド(映画界の中心)とは全然違う所を目指していたからでしょう。

本作の冒頭で、映画への出資の話が出ます。
どんな映画なのかという問いに「ビジネス版『甘い生活』」という台詞が出てきます。
そうです。この映画はイタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニ『甘い生活』(60年)の本歌取りなのです。
『甘い生活』は50年代後半ローマの上流階級の退廃的な生態を描きますが、本作は60年代後半アメリカの中流階級の退廃を描きます。
さらに言えば、「ベルイマンの映画を上映している」という台詞もあります。当然、スウェーデンの映画監督イングマール・ベルイマンのことです。
つまりカサヴェテスが目指したのは、ハリウッド的なそれではなく、フェリーニやベルイマン的な「映画」だったのです。

ありとあらゆる「ドルチェ・ヴィータ」の語源『La dolce vita』(邦題『甘い生活』)

この映画、『FACES』というタイトル通り、アップが異常に多いのですが、私はあまり「表情」が読み取れなかったんです。
正しくは、愛想笑いなど「本音」の見えない「建前」の顔が多いように思えたんです。
その一方で、「男の裸」が印象的なんですよね。2人の男に裸のシーンが無駄にあるように思えるんです。
なんだか、実は「顔と身体」の映画のような気がします。ダンスとかもね。
つまり、人の感情は必ずしも「顔」に出るものではないのだということをカサヴェテスは描いているような気がします。

そしてラストの階段の方が、人々の愛想笑いよりも多くを物語っているような気がするのです。

(2023.07.16 渋谷シアター・イメージフォーラムにて鑑賞 ★★★★★)

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