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映画『黒い家』 欲の物語。なんなら性的なホラー(ネタバレ感想文 )

監督:森田芳光/1999年 日

私、森田芳光信者です。
ということを、映画感想文をnoteに書き始めてまだ2年程度ですが、既に2回も書いています。

なにしろ、『の・ようなもの』(1981年)の長編映画監督デビュー以後、全27作品中25作品観てますからね。
観てないのはジャニーズ企画映画『シブがき隊 ボーイズ & ガールズ』(82年)と日活ロマンポルノ『ピンクカット 太く愛して深く愛して』(83年)だけ。しかも『ときめきに死す』(84年)以外は全部映画館で観てる。
日活ロマンポルノ『(本)噂のストリッパー』(82年)ですら映画館で観ている。しかも★5(笑)。

そんな森田芳光のキャリアの中で、ホラーというかサスペンスというか、いわゆる「悪」のドラマは数少ないのです。1999年に発表した『39』と本作『黒い家』、続く『模倣犯』(2002年)の3作品しかない。しかも連続して。

『リング』(98年)から始まる「Jホラー」ブームの便乗企画とも考えられますがね。森田君は「僕、何でも撮れる」と思ってた人だから。
でも、得手ではなかったと思うんです。結果、フツーのホラーですし(そのため今日に至るまで一度も再鑑賞しなかった)。

でも、今なら分かる「時代感」があります。
私は森田芳光の時代を捉える感覚や先見の明を信じているのですが、森田芳光が描いた3本は心霊現象や超常現象を題材にしていません。
全て、恐怖の対象は「人間」です。
1995年に地下鉄サリン事件があり、97年に神戸連続児童殺傷事件、98年に和歌山毒物カレー事件が起きる。
いつの時代も世間を震撼させる事件はあるものですが、これらの事件は「人間らしい倫理観」が完全に崩壊していた。特に和歌山の事件は、本作同様田舎のおばさんですよ。そんな事件、それまでなかったもん(ちなみに本作の原作は97年刊行で和歌山の事件より早い)。
実際、本作は「常識人」のサラリーマンを主人公にして、「相手は普通の人間の感覚を持っていない」ということを何度も言うのです。
おそらく森田芳光の「時代感」は、人間的な倫理観が欠如する暗い時代を嗅ぎ取っていたのでしょう。
そしてその後は、(古典なども交えながら)おそらく意図的に、前向きな話に傾倒していくのです。

「黒い家」って言いながら基調色が黄色だったり、薄汚れた人間心理との対比として清らかな川の水を映したり、人々をなぎ倒す破壊力の象徴なのかボウリングを持ち出したり(原作にはないらしい)、相変わらず森田君の「俺ってどうよ」感はあるんですが、私はそれよりも、もっと「田舎感」を描くべきだったと思うんです。
田舎の閉塞感とか、田舎の屋敷独特の薄気味悪さとか。
茅ヶ崎生まれ渋谷育ちで80年代にマッチした森田君には無理な話だったかもしれませんけど。
西村雅彦の特異なキャラクターよりも、『冷たい熱帯魚』(2010年)のでんでんの「こういうオッサン、地方にいる。本当にいる」感の方が怖いもん。

もう一つ言いたいこと。
森田芳光映画は、ほとんど全ての映画で食べるシーンがあります。
ところがこの映画は、麦茶を飲むばかりで食べるシーンがない(と思う)。
一方、普段描かないエロシーンがあります。
「乳しゃぶれ!」もそうですし、大人の玩具がブーンなんてのも、今までやったことがない。
そう考えるとこの映画、主人公の内野聖陽が彼女とエッチしようとするけど心労からか勃たないというシーンがあります。
さらに消化器をぶっ放すシーンもありますね。これは男性の性的なイメージの暗喩だと思います。
つまりこの映画は、「食欲」は描かないけど「性欲」は描いている。
途中、「そんなの必要ねーだろ」と思うようなエロダンスのシーンもあるしね。
そこに何の意図があるのか私には分かりかねますが、保険金という「欲」を巡る話として、本作を捉えているのかもしれません。いや、本能的な何かなのかもしれませんけど。
ちなみに次作『模倣犯』では、性的な犯罪にも関わらず性的な描写はほとんどせず、むしろ「食事」シーンがやたらある作品です。

余談
大竹しのぶがボートを運転するシーンがあるんですが、私は違和感を感じるんです。海に死体を捨てたなら納得しますがね、どうも違うらしいし。
単なるミスなのか、その予定が変更されたのか、あるいは意図的なのか。
もし意図的なんだとしたら、どういう意図なんだろう?
ちなみに森田芳光は、『家族ゲーム』(83年)で松田優作をボートに乗せて登場させています。森田芳光自身は『ゴジラ』(54年)だと語っているんですよ、家庭を壊す破壊神が海からやって来るのだと。
もし同じ意図だとしたら、「怪獣」なんでしょうね。邪推ですけど。

(2023.08.06 目黒シネマにて再鑑賞 ★★★☆☆)

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