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映画『JSA』社会派とエンタメの38度線(ネタバレ感想文 )

監督:パク・チャヌク/2000年 韓国

私、ポン・ジュノ嫌いなんですが、パク・チャヌクは大好きなんです。
『親切なクムジャさん』(2005年)で出会って、この年のナンバー1映画に推すほど熱狂しました。
その後、遡ったりしながら、『復讐者に憐れみを』(02年)以降の長編監督作品は全部観ています。
観ていないのが、それ以前の作品。
その一つがこの『JSA』。

もう一人、私の好きな韓国の監督にキム・ギドクがいます。
2020年に59歳でコロナで亡くなりましてね。惜しい人を亡くしたな。
ベルリン、ヴェネチアの国際映画祭で監督賞を受賞した監督なんですが、追悼上映とか全然してくれないの。
パワハラ、セクハラで韓国映画界を追放されたせいなんです。
韓国って「前大統領がほぼ必ず逮捕される」という極端な潔癖主義・制裁主義の国だから、その作品の上映も永久追放なのでしょう。
(配信では観られるみたいだけど)
特集上映してほしいな。通うからさ。

なんていう恨み節は置いておいて、キム・ギドクに『The NET 網に囚われた男』(16年)という映画があります。
北朝鮮の漁師が船の故障で韓国の海域に流れ着いてしまってだ捕されるって話で、かなり「政治的」な意図のある映画です。

同じキム・ギドク脚本&製作総指揮の『レッド・ファミリー』(13年)という映画もあって、これは韓国で暮らす理想的な家族が、実は北朝鮮のスパイだというコメディ。

何が言いたいかというと、ドラマ『愛の不時着』(19年)もそうだけど、
「38度線」という政治的緊張の舞台は、韓国エンタメ界にとって美味しい「かせ」なのです。
つまり「ロミオとジュリエット」のモンタギュー家とキャピュレット家。
ま、『愛の不時着』は見てませんけど。

ここで興味深いのは、(『愛の不時着』は分かりませんが)この『JSA』も『The NET』も『レッド・ファミリー』も、わりと「中立」の立場で描いていることです。
中立というか、わりと韓国側を(も)悪く描いている。
なんとなく「どっちも悪いよね」というスタンスに見えるのです。
これ、日本映画やハリウッド映画には見られない立ち位置で、日本の戦争映画でも、アメリカのベトナム戦争物でも、「どっちも悪いよね」というスタンスの映画を観た記憶がない。

で、この「どっちも悪いよね」スタンスから透けて見えるのは、「国同士はどっちも悪い」けど「個人は違う」ということのように思えます。
言い換えると、「南vs北」の構図ではなく、「国家(社会)vs個人」の構図に思えるのです。
先に挙げたキム・ギドク作品もそうですが、中でもこの『JSA』はそれが顕著なように思えます。
あ、「顕著なよう」と「ケンチャナヨ」って似てるな。大丈夫、気にしないで、ケンチャナヨ。

パク・チャヌクは「情」に訴える映画を撮る人だと私は思っています。

『復讐者に憐れみを』、『オールド・ボーイ』(03年)、『親切なクムジャさん』の「復讐三部作」で執念と情念を描いていますが、この映画も「情」の映画です。「情緒的」と言ってもいいかもしれません。
キム・ギドクのように直接的に政治的なメッセージを訴えるのではなく、観客の感情にエンターテインメントとして届けることで、この政治的問題を考えさせようとしているように思います。

ある意味、正しいエンタメの姿。
主義主張一辺倒になりすぎず、娯楽一辺倒になりすぎず、匙加減がいい塩梅。
この政治(主義主張)とエンタメの「境界線」、結構難しい。

あと、余談ですが、久しぶりに思ったけど、イ・ヨンエは美人だな。
いまさら「チャングムの誓い」を見ようかな?見ないけど。

(2022.10.04 CS放送にて鑑賞 ★★★☆☆)


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