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映画『バートン・フィンク』 細部に凝った不条理劇(ネタバレ感想文 )

監督:ジョエル・コーエン/1991年 米

後に「インテリ兄弟」と呼ぶに至るコーエン兄弟作品を私が見初めたのは、『未来は今』(1994年)からです。なので、本作を含むそれ以前の作品はビデオでしか観たことがありませんでした。
本作は20数年ぶりの再鑑賞で、初の映画館での鑑賞。
この映画こそ、映画館の大画面で観て、大音響で聴きたい映画。
大画面で観るべき映画って「迫力」だけじゃないんですよ。
細部の面白い映画こそ大画面で観るべき。
そして、コーエン兄弟ほど細部がめちゃくちゃ面白い監督はいない。

ホテルに行くでしょ。フロントに誰もいないから「チ~ン~」ってベルを鳴らすでしょ。すると、なぜか床下から現れるホテルマンのスティーブ・ブシェ~ミ。彼が微かに余韻の残るベルをそっと指で抑えて止める面白さ。
いろいろあってベッドを壊すシーンがあるんだけど、ベッドから外れた丸い玉がゴロゴロっと転がる面白さ。
何と言っても、死体を抱えて運ぶ時に、棚に「ゴン!」ってぶつけるんですよ。
そういう細部の描写が最高に可笑しい。

コーエン兄弟は「変なキャラクター」も持ち味です。
デフォルメしたキャラクターという方が正しいかもしれません。
映画プロデューサーなんか典型例ですよね。
こういう濃い?弾けた?フザけた?キャラクターって、観ててたいがい引いちゃうんですけどね。コーエン兄弟はなぜか許せるんだ。なんでだろう?

こんなことを書いていますが、いや、実際私はケラケラ笑いながら観ていましたが、コメディーではありません。
カフカ的悪夢の不条理劇です。
ある種、ヴィスコンティ『異邦人』(1967年)。

悪夢的不条理とか、私好きなんですよ。鈴木清順とか押井守とか。
不条理物は、主人公が迷い込む「迷宮」という舞台が必要です。
優れた映画は、「迷宮(の入り口)」をきちんと画面えづらで見せます。
押井守『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84年)であれば袋小路の友引町がそれです。

鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』(80年)なら「切通し」。

そして、この映画は、ホテルの長い廊下。

でも、コーエン兄弟の良さって、変に説教じみてないんです。
インテリなんですけどね。インテリが馬鹿やってる感じ。
その延長線上に「不条理」があって、不条理劇として「フザケている」印象。

その後の、今日に至るまでの作品を振り返ってみると、コーエン兄弟は常に「人生が思うようにいかない」という「不条理」を「悲喜劇」として描き続けている作家なのだと、この初期作品で気付かされます。

(2023.07.22 目黒シネマにて再鑑賞 ★★★★☆)

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