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映画『マイ・ブロークン・マリコ』タナダユキはいいヤツだ(ネタバレ感想文 )

監督:タナダユキ/2022年 日(2022年9月30日公開)

私はこれまで、タナダユキ監督作品を、『百万円と苦虫女』(2008年)、『ロマンス』(15年)、『ロマンスドール』(19年)しか観ていないのですが、一貫して「タナダユキはいいヤツだ(と思う)」と評しています。
いい人でも、いい方でもなく「いいヤツ」。分かるかな?この感じ。
実際はどんな人なのか全然知りませんけどね。
(いいオンナなのかもしれないけど)

私は勝手に、タナダユキが描く主人公の女性は、彼女自身が投影されていると思っています。『百万円と苦虫女』と『ロマンス』が彼女のオリジナル作品だったから尚更。

彼女の描く女性たちは強い自我を持っています。
それは絶対的な強さではなく、もろく危うい強さです。
この映画の永野芽郁も同様です。
彼女は強がっているけれど非常に脆い。むしろその脆さを隠すために、強がって周囲と距離を置いているようにさえ見えます。
そして、外敵と戦うのではなく(包丁と骨壺は振り回しますが)、自我を巡って自分自身と向き合うのです。

これはハードボイルドです。
包丁振り回して奪った骨壺を抱えて裸足で川を渡るのがハードボイルドでなかったら何だと言うのでしょう?

ハードボイルドは「損得抜きの、自分のための戦い」です。
幽閉されたカリオストロ城からお姫様を救出するなんて話はハードボイルドではありません。あなたのハートを盗んだロマンス話です。
何の得にもならない、ただ己のプライドのためだけに複製人間と戦うルパンこそハードボイルドの真骨頂なのです。マモー!ミモー!

この映画の永野芽郁がそうです。
その岬に行ったところで、何かが変わるわけでも何かが起きるわけでもない。そんなこと最初から分かってる。
誰に頼まれたわけでもなければ、義理や義務や、ましてや安い正義感でもない。
ただ「マリコと一緒にそこに行く」という、わけのわからない情熱とプライドだけが彼女を突き動かす。
これをハードボイルドと呼ばずに何と呼ぶ!
そんな永野芽郁が「いいヤツ」じゃなかったら何だというんだ!
思い出しただけでも俺は泣きそうだ。

一方、マリコもまた、タナダユキ自身が投影されているように思います。
マリコは極端ではありますが、タナダユキ作品の女性たちは、どこか「自分を殺して社会と折り合いをつけている」感じがあります。
皆、大なり小なり「生き辛さ」を抱えている。
おそらく、タナダユキ自身もそうなのでしょう。
そうでなかったら、他人の生き辛さに寄り添えない。
このマリコの描写は、煽情的なバイオレンスよりも、生き辛さに寄り添う視点のように思えます。
タナダユキはいいヤツだ。

しかし、『僕の好きな女の子』(19年)奈緒ちゃんは、こんな役が多いな。
『君は永遠にそいつらより若い』(20年)とか。僕の好きな女の子なんだけどな。

(2022.10.02 TOHOシネマズ日比谷にて鑑賞 ★★★★☆)

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