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「キツネに化かされる」


「『キツネに化かされた』とはよく言ったものだ」と、彼女は語り出した。

彼女は私が今まで出会った数十名のおばあさんの中で、最も品のあるおばあさんだった。
指先にまで神経が張り巡らされていることが分かる、そんな人。

品のあるおばあさんは、世にも不思議そうに、キツネに化かされた人の話をしてくれた。

「むかしむかし、村には水道がなくてね。川から竹で水を引いていたんだよ。」
と始める。
私はわくわくしながら、初めて会った彼女の言葉に耳を傾けた。

「冬になると寒くて竹が凍ってしまうから、使う時にだけ竹を取り付けて水を引いていたんだよ。
竹を外したり取り付けたりする当番が日毎に決まっていてね。」
そんなふうに語る彼女の瞳は至って真剣だ。昔話に出てくるような内容を、現実世界で聴いているという真実を全身に刻み込む。

「ある日当番のSさんが山へ竹を取り付けに行ったんだよ。それまでは平凡な人だったのに、ギャーギャー叫びながら帰ってきてね、それから会話ができないほどになってしまってね。あれは、不思議だったなぁ。きつねに化かされたんだよ。」という。
Sさんは亡くなるまで、混乱状態であったそうだ。

そんなことがあったものか。と心の中で思ったが、彼女はまた語る。
「Sさんだけでない、ほかにも3人化かされた人がいる。」と。
○○さんのお宅の1番上のお姉さんは、竹を取り付ける当番の日に山へ入って行き、言葉がしゃべれないほど錯乱状態で、泥酔したかのような千鳥足で帰ってきたと。ギャーギャーと叫ぶそのお姉さんはキツネが入ってしまったんだろうね、という。

あとで村のお爺さんに聞いた話だが、村にキツネが多くいた頃は、山から「ギャーギャー」と、鳴き声が聞こえてきたものだよと。
きつねはコーンと鳴くかと思っていたが、違うようだ。
「きつねはギャーギャーと鳴いてうるさい」と、学んだ。

また、こんな話も聴いた。

「電気も引かれてなかった時代なのに、真夜中に山にたくさんの提灯の光がつくことがあってね、
あれは狐の嫁入りといって、きつねの提灯行列だったんだよ」

「狐の嫁入り」、、、。

日本昔ばなしか!と序盤で突っ込みたくなっていた私も、いつしか不思議な感覚へと変化していった。

そんなふうに感じている時点で、私は「きつねに化かされた」のかもしれない。

実際に、村のお婆さんからこの耳で聞いた、狐に化かされたお話。

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