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木人木譚(コビトキタン)作品解説記事 Vol.1


個展『俤人 (オモカゲビト)』を開催中の木人木譚(コビトキタン)さんに、作品それぞれについてお話をお聞きしました。
エピソードを聞くことで各作品の味わい深さが一層深まるようです。ぜひお楽しみください。



歩(ほ)

この作品は、詩人・童話作家として活動した宮沢賢治のポートレイトをモチーフに制作しました。

▲宮沢賢治のポートレイト

このポートレイトで宮沢賢治は、よく聴いていたというベートーヴェンの真似をして歩いています。

▲宮沢賢治が真似た、ベートーヴェンのポートレイト

その様子が印象に残り、作品にしました。

本作が、木人シリーズの中では最も自分を重ねられます。他の作品では、ギターやパンを持っているのですが、歩は歩いているだけなので、固定したイメージが生まれません。

ただ歩いているだけというシンプルな作品ですが、気に入ってます。

ギター

木人に最初に持たせたのは、ギターでした。木人に何かを持たせたら、流れが生まれるかなと思って。

ギターって、誰でもとっつきやすい楽器だなと思います。
初期のころから、今もなお作り続けているシリーズの一つです。

チェロ

「歩」のモデルにもなった宮沢賢治が自分は好きで。
彼が書いた「セロ弾きのゴーシュ」に影響を受けて誕生したシリーズです。

宮沢賢治は、チェロを弾いていたので、自然とチェロを持っている木人のイメージが湧いて生まれました。


木人を作る時、いつも次に何を作ろうかなと100個ぐらいイラストをノートに書き出します。最終的に残るのは5個ほどで、傘もその一つでした。

傘は、どんな木人が持つかでストーリーが拡がるので気に入っています。

小さい子が傘を持っていたら、今からお父さんを迎えに行くのかな、とか。あるいは、一人淋しく雨が止むのを待っているのかな?とか。

若く見える木人が傘持っていたら、恋人を持っているかな、とか。

大人の木人が持っていたら、哀愁を帯びて見える時があります。それまでの長い人生が作品からにじみ出てくる、というのでしょうか。

傘は、そんな可愛らしいストーリーを引き出しやすくするアイテムだと思っています。どんな木人が傘を持つか、どんな人が傘を持った木人を見るかによって生まれるストーリーの幅広さを気に入ってます。

パーカー&キャップ

これは自分です。
ポートレイトとして作りました。

パーカーが服装で一番楽ですね(笑)。
パーカーとキャップとジーパン、この3つを押さえておけば間違いない。

このシリーズは2022年に制作しました。
2022年までの間に色々な作品を制作してきた中で、この作品を作ることで少し区切りをつけた感じです。

時々、遊び心で楽器を持たせています。

探検家

一番凝って作った作品かもしれません。

1800年代のイギリス人のイメージがこの作品のベースにあります。
当時の探検家に、発掘を通じて色んな文明を再発見していくイメージを持っています。

本作の探検家は、紳士な態度で探検しているイメージで作りました。
手に持っているのは炎。洞窟を照らして歩いています。

「探検楽しい!」そんな空気感を表現しようと試みたので、その雰囲気が少しでも伝わったら嬉しいです。

兵隊

この作品は、実際の人間サイズの比率に寄せて制作しています。そのため他の木人と比べ、リアリティが生まれたかなと思っています。

兵隊を制作していた時、帝国主義が蔓延していた時代のイギリスやフランス、ヨーロッパの事について調べていました。そのため、銃というリアルな要素もあえて取り入れました。

銃について調べた際、その暗い歴史の多さに、作品に取り入れることは控えようと思った時もありました。

ですが、この兵隊を台座に乗せたことで、あえて銃を残すことにしました。兵隊は古代の彫刻が乗っているような台座に乗せています。

銃を持った兵隊。この争いの象徴は過去の石像のように、過ぎ去りしもの。現在の存在ではない。そういった想いを込めて制作しました。

エスキモー

普段とは異なる木工加工を通じて木人を作ってみたくなり制作した作品です。これまでと違う作風を試しました。

普段の木人は、木工ロクロで制作した体の上に物を付けています。

エスキモーの場合は、体の部分を木工ロクロで削り、顔の部分に穴をあけ、そこに顔を入れています。最後、顔の周りに木の粉をたっぷり貼り付けました。

エスキモーを作っていた頃、他のシリーズの木人がどんどん大きくなっていたんです。

やっぱり、小さく作るのって大変なんですけど、そこは自分の強みとして大切にしていて。「いいな」と思える小さいサイズのラインも自分の中に確かに存在しているんです。

だから、いつの間にか大きくなっていた木人にちょっと危うさを感じ、新シリーズのエスキモーは少し小さくして作ろうと思いました。

これからも、自分が一番納得できる小さいラインを探っていきたいですね。

水兵

水兵は、ギターやブラシなど、人物によって異なるものを持っています。
ブラシを持っている水兵は船を掃除する人のイメージですね。

ギターを持っている水兵は、やっぱり演奏担当。

自分は、水兵は演奏しているイメージを持っています。海イコールギター。もしかすると、加山雄三さんのイメージから来ているのかもしれません。

木人の水兵は、戦争の水兵ではなく、あくまで陽気な水兵です。

カメラ

木人にカメラを持たせることで、旅情感が一気に増す気がします。
自分自身、写真が好きなので持たせているところがありますね。

カメラのレンズ部分は光るよう特別な塗装もしています。

アコーディオン

自分の作品を扱っているお店の方がアコーディオンを演奏していたことから「アコーディオン作れませんか?」と聞かれたことがありました。

その時は「細かくて難しい」という話で終わったのですが、その後ふと、やってみようかなと思い立ち、試行錯誤したらできたんです(笑)。

アコーディオンの方が、木人を作るよりも難しいですね。この楽器を作れるようになった以降、制作の幅が一気に広がりました。

あの方との出会いが無かったら、生まれていなかった作品。
もしかすると、アコーディオン制作を通じて得た技術で誕生した作品も無かったかもと思うと、感慨深いです。

鍵盤ハーモニカ

この作品も「ピアノを作って欲しい」という人との出会いから生まれた作品です。

木人が立った状態で横にピアノがあるのは変だなと思い、いろいろ考えた結果、鍵盤ハーモニカを持たせることにしました。

実はギター、チェロ、鍵盤ハーモニカはレーザーでパーツを作ってもらってます。鍵盤ハーモニカはパーツを4つ作ってもらい、それらを組み合わせて1つの楽器にしています。

大太鼓&小太鼓

このシリーズは楽器シリーズの延長として誕生しました。

バンド編成で、ドラムって必要ですよね。
そんな考えの延長線上で自然と生まれた作品です。

パン屋

この作品も「アコーディオン」や「鍵盤ハーモニカ」と同じような経緯で生まれています。
自分が作品を置かせてもらっていたカフェに、飲食店を生業にしている方がいて。そういう人たちが作品を見た時に喜んでくれるかなと思って作りました。

使う木によって、パンの質感が伝えやすくなる点も気に入ってます。

コック

この作品は、実際にコックさんとの出会いがあったわけではないのですが、そういった仕事をしている方の近くに置いていただけたらいいなと思って作りました。

信徒

このシリーズ、一番最初は「敬虔な人」というタイトルでした。自分が昔 宗教について調べていた時に影響を受けて誕生したんです。

その後、「何者かを信じる人」というテーマから「信じる人」と、より大きな物語を設定し今も制作を続けています。

木人の中では、一番 静かな存在かなと思います。
静寂を持ち合わせる何かを作りたいのかもしれません。

日輪仏(にちりんぶつ)・月輪仏(げつりんぼとけ)

「日輪仏」と「月輪仏」は、インドの仏教を調べていた時に影響を受けて制作しました。

日輪仏と月輪仏は兄弟みたいなものです。

太陽は生きていく上でなくてはならない存在ですが、ずっと照り続ければ大地は干からびますよね。考え方によっては、悪にもなる。

インドで信仰されているヒンドゥー教のシヴァ神という神様は、創造もすれば破壊もする。善か悪か、右か左かなどの二者択一では測れない価値観があるんだよ、と言うことを提示してくれているように思います。

世界各地には姿形がさまざまな神様と崇められる存在が居ます。

きっと、あの頃に産業革命が起こらず、その後科学が発展せずにいたら、人はその後も人智を超えたあらゆる現象に神という見えない存在を信じて人の形として偶像を作っていったんじゃないのかなと。

もしそうだったらこうゆう神も生まれていたのかもな、と考えてできたのが日輪仏と月輪仏の二神。

イメージは太陽と月です。 

照らす神が居れば隠す神もいて良いのだし、月輪仏と日輪仏は自分なりに想像/創造してみた人の姿形をした神様です。

僧侶

この木人は修行の身です。
僧侶も、宗教について調べていた時に制作しました。

「日輪仏」と「月輪仏」が特定の宗教の神様を模していないように、この僧侶も、具体的な宗教を象徴しているわけではありません。

何かを信じ、何者かに成るため一心に修行している人。
そんな存在を自分なりに作ってみたくて制作しました。

この僧侶は、善か悪か、そういった二項対立的な要素にきっぱり分けられる存在ではありません。

その観念はもっと曖昧だし、僧侶の中にある善悪が僧侶本人に同時に影響を与えながら、何のためか分からないけれど、確かな遺志を持って何かしらに取り組んでいる存在としての僧侶。

そういった、簡単に理解できないような存在に興味があって、自分なりに解釈したその存在を木工で表現したかったのかもしれません。

宗教について調べていた当時、日本神話も掘り下げていました。
そこに登場する、地上、霊界、月の世界、それぞれを収める3名の神様から受けたインスピレーションがもしかすると「日輪仏」「月輪仏」「僧侶」それぞれに反映されているのかもしれません。

今回ご紹介する作品は以上です。
皆様はどの作品のエピソードが心に残りましたか?

スタッフは「兵隊」のお話が強く記憶に残りました。
「兵隊」が特別な台座に置かれている背景、銃をあえて作品に採用している想いを知ることができ興味深かったです。

木人木譚さんのお話を聞く前は、「兵隊」という作品からは、くるみ割り人形などの童話に登場する兵隊に持つような「かわいい」印象を持っていました。

作品の物語を知ることで、印象がガラッと変わる新しい感覚を味わうことができました。作品そのものを見る楽しみだけでなく、物語を知ることでより深い感覚が生まれる楽しみを知れた特別な体験でした。

木人木譚さんの個展は今週日曜、10月15日で終了です。140点を超えるの作品を一堂にご鑑賞いただけるこの特別な機会をお見逃しなく!

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木人木譚 個展『俤人 (オモカゲビト)』

〈会期〉
2023年10月4日(水)– 10月15日(日)
〈OPEN日時〉
毎週水 – 金、土日祝:11時 – 18時
月火:定休
〈夜の特別OPEN日時〉
10月4日(水)、11日(水)
18時 – 22時
〈個展詳細〉
https://picaresquejpn.com/kobitokitan_exhibition_2023/
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木人木譚 プロフィール

神奈川県で木工製作をしています。
◇展示歴、掲載歴
【展示歴】
2015年 11月:odawara book market 椰月美智子BOOK展 にて作品展示
2016年 3月:【鎌倉・文具と雑貨の店 コトリ】にて作品展示
2017年 4月:【NARAYA CAFE】 にて企画展「キニナルカタチ」
2017年 12月:【東急ハンズ名古屋店9F 時トクラス】 にて企画展「木人展」
2018年 6月:【東急ハンズ名古屋店9F 時トクラス】 にて企画展「雨に想ふ木人たち」
2018年 7月:【東急ハンズ名古屋店 9F 時トクラス】 にて企画展「海辺のパン屋さん」
2018年 8月:【東急ハンズ名古屋店9F 時トクラス】 にて企画展「森の音楽隊」
2022年 7月:【銀座三越 本館7階 ジャパンエディション エムケイ·クラフト】 にてグループ企画展「おうちと小さな世界」
【掲載歴】
2018年 :フリーマガジン【海の近く 3月号】 作品掲載
2019年:【Hanako 6月号】 作品掲載
◇木人木譚 公式SNS
Instagram https://www.instagram.com/kobitokitan/
Blog http://koboalp.blog.fc2.com/

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