見出し画像

詩 | ニルヴァーナ

死装束に身を包み
客人を待つ
火鉢から
静謐な香りが漂う
椀の美しさを愛でる
ひとりひとりより送られる
無言の惜別の言の葉を
合わせ呑む
刻一刻と
旅立ちの時刻が迫る
他の誰も
二度とこの椀に
接吻出来ぬように
粉々に砕く
客人を黙したまま見送り
我ひとりとなる
遅く逝くか
早く逝くかの違いだと 
自らの心を鎮めんとす
有限の世界から
無限の冥土への
旅立ちと思えば
何を恐れることがあろう
鳥たちの羽音と
木々の葉の軋轢の音が
次第に遠退いてゆき
我が魂は永遠の世界へと旅立った
その刹那
一陣の風が
茶室を通り抜けた

この記事が参加している募集

日本史がすき

一度は行きたいあの場所

記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします