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短編 | 温泉旅行

 もう30年以上前のことである。妻には2泊3日の出張だと伝えて、仕事を休んだ。
 前からずっと機会を伺っていたが、ようやく彼女と二人きりで遠出することになった。

 冷えきった夫婦関係とストレスの多い仕事から、たった3日間ではあるが解放される。年甲斐もなく、ウキウキとした気持ちだった。

「やっと二人で旅行できるのね」
「まぁ、3日限定だが、満喫しよう」

 新幹線に乗り込み、目的地にたどり着くまでの間、会話が途切れることもなかった。

 駅に到着した私たちはタクシーを拾い、予約した温泉宿へ向かった。
 
「木村ですが」
「ご予約の木村さまですね。お待ちしておりました。奥さまもようこそいらっしゃいました」
 奥さまと呼ばれ彼女は少し微笑んだ。

「なんか奥さまには申し訳ないけど、やっぱり嬉しい」
「そうか。奥さまと言われても堂々としていたね。ケリがついたら、必ずあいつとは別れる。そうしたら…」
「あなたのホントの奥さんになれるわけね」

「じゃあ、さっそく温泉に浸かるか」
「ご一緒してもよろしいかしら?」
「もちろん、そのために来たのだから」
 


 私にはその後の記憶がない。目を覚まして気がつくと、彼女ではなく、妻の姿が見えた。

「どういうこと?」
「それはこちらのセリフですよ。まぁ、あなたは病人だから、少しゆっくりとしていてください。彼女さまには、お引き取りしていただきました。まぁ、ともあれ、一命を取り留めたは、不幸中の幸いでしたね」

 私のベッドサイドには、私のヅラがおいてあった。

 妻が言った。

「彼女さんは、とても驚いていましたよ。あなた、泊まりがけの旅行なのに隠していらっしゃったんですね」

 説明によると、私は入浴中に軽い脳卒中で病院に運ばれ、緊急手術を受けたらしい。

 


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もしかしたら、私の妄想ではなく、あなたの妄想かもしれない。イラストも収録しています。

妄想はいつでもどこでもできるもの。倫理に反しても、こんな恋愛もいいかなという妄想を詩に託してみました。妄想も自分の大切な一部ですね。短編小…

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