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聖女のlabyrinth | 第1話 | 天使か悪魔か

「星野さんって子のこと覚えてる?」

「あぁ、あの優しそうな女の子でしょう?少ししか話したことはないんだけど、1度も怒ったことがなさそうだよね」

「実はね、この前のバイトの帰りに、駅へ向かっている途中で見かけたんだ」

 久しぶりに友人の宮本と一緒に飲んでいるとき、星野さんのことが話題になった。

「それで?星野さんに何か話しかけたの?」

少し興奮気味に、宮本は話をつづけた。

「いや、ちょっと恐くて話しかけられなかったんだ」

「どうして?」
私は、もったいぶった宮本の話に少し苛立ちながら尋ねた。

「星野さんね、酔っ払って駅前に寝ていたオジサンに近づいて行って、肩を叩きながら『大丈夫ですか?』って。見ず知らずの酔っ払いだったら、普通スルーするだろ?」

「まぁ、そうだね。変に声をかけて、トラブっても嫌だしな。でも、星野さんだったら、何となく分かるような気がする。もしかしたら、知り合いのオッサンだったのかもよ」

「いや、そうは見えなかった。親父さんでもなさそうだったし。ちょっとね、興味をもって、しばらくの間どうなるのか、見ていたんだ」

「それで、何か分かったのかい?」

「遠くから見ていただけだから、詳しいことは分からない。だけど、オジサンが目を覚まさないでグッタリしていたから、星野さん、救急車を呼んだんだ」

「ふうん。それで良かったんじゃない?目が覚めたって、酔っ払いじゃ歩けないだろうし」

「いや、違うんだ。救急車を呼ぶくらいのことは、俺でもするかもしれない。そこまでは理解できるんだけど、なんと星野さん、救急車に一緒に乗り込んで行ってしまったんだ」

「やっぱり知り合いだったんじゃないか?いくらお人好しだといったって、見ず知らずの酔っ払いのオッサンの救急車なんて乗って行かないだろう?」

 結局、その日の飲みは、星野さんの話ばかりになった。


 宮本と私は同じ大学の英語サークルで知り合った同級生。私は1年生のときからサークルに参加していた。宮本がサークルに加わったのは2年生のとき。

 私は英語がスキだったからサークルに参加していた。しかし、宮本が英語サークルに入ったのは、女の子が多いという理由だ。

 確かにコンパは多かった。特に新入生が入ってくる春先には、同じ大学内だけでなく、看護学校の子や短大の子とのコンパが頻繁にあった。

 一応、コンパの名目上の目的は、サークル仲間を増やすことなのだが、実際は彼女のいない男が女の子に出会うきっかけにしたいというのが本当の目的だった。
 
 私は真面目に英語を一緒に勉強したいという人と繋がりたい、という気持ちでサークルに参加していたから、コンパにはあまり乗り気ではなかった。

 宮本はその逆で、英語には関心がほとんどない。しかし、勉強が嫌いというわけではない。その証拠に、カバンにはいつも数学や工学の専門書が入っていた。

 しかし、工学部には女の子がほとんどいない。いくら工学部の勉強がスキだからといって、女っけがなさすぎると感じたらしい。だから、2年生になってからサークルに入ってきたのだ。


 私と宮本が星野さんに初めて出会ったのは、英語サークルのコンパだった。
 大学のサークルは愛好会のようなものだから、他の学校の学生が参加するというのは特に珍しいことではない。

 同じ大学の中だけでは、野郎ばかりになってしまう。だから、わが大学に比較的近くの短大生や看護学校生に、サークル参加者を獲得するためと称して、コンパをすることが毎春の恒例行事だった。

 星野さんとは看護学校とのコンパで初めて出会った。おとなしい女の子で、どちらかというと、他の友人に誘われて嫌々やってきたという感じだった。

 とはいえ、優しそうで、言葉こそあまり発しないものの、微笑みを絶えず浮かべていた。

「ねぇ、山下~。俺、あの子と話したい。悪いけど、一緒に来てくれないか?」

 宮本はもともと男子校の出身だったし、工学部だから女の子との会話が苦手らしい。私にサポートを求めてきたのだ。

「こんにちは。私は山下、こいつは友達の宮本と言います。すみません、お名前をうかがってもいいですか?」

 女の子はニコニコしながらこたえた。

「私は星野です。星野百合子です」

「星野、百合子さん?素敵なお名前ですね。百合子さん、少しお話しませんか?」

「はい、私で良ければ。私、こういうコンパって苦手で。何をお話すればいいのやら分からなくて… …」

「そうですか。学校も違いますしね。なかなか共通の話題を探すのがたいへんかもしれませんね」

「あの~、山下さんと宮本さんの学部は?」

「私は経済学部です。で、宮本は工学部です。彼は百合子さんのような女の子がタイプなんです」

「山下、ちょっと待て」
照れくさそうに宮本が言った。

「えっ?百合子さんとお話したいんだろ?」

「まぁ、それはそうなんだけど」

「宮本さん、私で良ければお話しませんか?工学部なら、私と同じ理系ですから」と微笑みながら星野さんが言った。

「良かったな、宮本。僕はお邪魔だろうから、席を外すね。お二人でゆっくりトークしてくれ」

私は宮本と星野さんを二人きりにして、自分の席に戻った。


 コンパが終わった帰り道。私は宮本に星野さんとどうなったのか気になって尋ねた。

「宮本、星野さんとは結局どうなったの?連絡先は聞いた?」

「あぁ、まぁ。一応今度の土曜日、デートすることになった」

「マジかぁ、意外とやるじゃないか」

「最初のうちはお互いに何を話せばいいのか分からなかったんだけど」

「で、デートはどこに行くん?」

「は、花センター」

「ははは。花センター?お前、お花好きだったっけ?」

「それほどでもないけど。ただ、うちの母さんが実家でいろいろな花の世話をしてるから。名前くらいは知っている花が多くて。星野さんに何を話していいか分からないから、『好きな花は何ですか』って聞いたんだ」

「それで?」

「そうしたら、星野さんは花が好きみたいで。すごく詳しいんだ。だから、最近、あそこに花センターができたのを思い出して、一緒に行きませんかって。ダメ元で誘ったら、一緒に行きますか、って」

「良かったじゃないか。一緒に下見に行ってやろうか」

「いや、遠慮しておくよ。下見なんてしたら、なんか不自然な雰囲気になりそうだし。ぶっつけ本番のほうが楽しいだろ、きっと」

「まぁ、場所とバスくらいは確認しておいたほうがいいだろうね」

「アドバイスありがとう」


 次の週の日曜日になった。私は宮本と星野さんのデートが無事に済んだのかどうか気になったから、午後になってから宮本のアパートに電話をかけた。

「宮本ですけど」

「山下だけど。単刀直入に聞く。昨日のデートどうだった?」

「楽しかったけど」

「楽しかったけど?事の成り行きを手短に。進展は何かあったのか?」

「手短には言えないな。まぁ、いろいろあって」

「いろいろって何だ?」

「電話ではなかなか言えないな。今、山下が暇だったら、会わないか?お前のことは、親友だと思っている。いろいろお前に聞いてみたいんだ」

「ははは、そうか。親友と言われちゃ会わないわけにはいかない」

「今から例の喫茶店に来れるか?ちょっと重い話になるかもしれない。悪いな」

「いや、全然悪くなんかない。どうせ暇だったし。じゃあ、1時間くらい後に会おう」


 私は電話を切ったあと、すぐに着替えて喫茶店に向かった。どうも宮本の口調がふだんとは明らかに違ったから、一刻も早く会いたいという気持ちだった。

 結局、「1時間後」と言ったにもかかわらず、30分後には喫茶店に着いた。早すぎたかな、と思ったが、驚いたことに、宮本はもうすでに喫茶店の奥の座席に座っていた。

「はやっ!もう来てたのか、宮本。来るのが早すぎたと思ったけど、待たせて悪かったな」

「山下、来てくれてありがとう。30分も早く来て、待たせて悪いなんてお前らしい。ありがとう。やっぱお前は親友だよ」

山下の顔色は、思った以上に悪かった。よほど深刻な悩みなのだろうか。昨日、星野と一体なにがあったのだろう。


 適当に同じコーヒーとケーキを2つずつ注文したあと、宮本が語り始めた。

「実は、星野さんとのことなんだけど」

「んん。昨日の今日だから、気になるけど。どうしたんだ。何があったんだ?」

「結論から先に言うと楽しかった。でも、何もなかった。どうやらもう、星野さんとは会えない」
宮本は低い声でつぶやくように言った。

 こういうとき、なんと声をかけたらよいのだろう?私は頭をフル回転させた。沈黙がつづいた。そのとき、タイミング良く、注文したコーヒーとケーキが届いた。

「とりあえず、コーヒーでも飲むか?特に今日は用事もないし、ゆっくり話そう」


「実は昨日のデートのことだけど」

「予定通り花センターに行ったのか?」

「あぁ、俺は早く行き過ぎても緊張するから、約束の時間通りの時間に花センターに着くように行ったんだ。星野さんは俺が着いたときには、すでに待ち合わせの時計塔にいた」
宮本は、そこまで一気に話したあと、コーヒーを一口飲んだ。

「星野さんは、パープルのワンピに白いポーチを手にして佇んでいた。まるで、星野さん自体が朝顔の花のようで」
私は星野さんの姿を思い浮かべながら、パープルに身を包んだ星野さんを妄想した。

「きれいだろうね。今、コンパで会ったときの星野さんがワンピを着た姿を想像してた」

「本当にかわいかった。生きてて良かったなって、大袈裟じゃなくて本気で思った。神々しいとさえ思った」

「たしかに。『神々しい』は決して言い過ぎじゃないと思う」

「本当に天使のようだった。やっぱり緊張して、話しかけられなかったんだ。だから、特にろくに会話は出来なかったんだけど」
宮本は昨日のデートのことを詳細に語り始めた。


 約束の時間通りに行ってみると、すでに星野さんが待っていた。女の子っていうのは、約束の時間より少しだけ遅れて来るものだ、という先入観をもっていたから。

 時計塔のもとにいる星野さんを見かけたとき、彼女だとはすぐに気がつかなかった。
 全身パープルのワンピにおおわれている女性。薄いワンピの下には、ほんのりと下着が透けていた。

「こんにちは。宮本さん。今日はよろしくお願いいたします」
こちらから声をかける前に、星野さんが声をかけてくれた。

「星野さん、こんにちは。待っちゃいましたか?ごめんなさいね」

「いえ、時間どおりですから」

「来てくれてありがとうございます。もしかしたら、星野さん、来ないんじゃないかと思っていました」

「ははは、お約束はちゃんと守るほうですよ」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「ん、どういう意味ですか?」

 どういう意味と問われると、こたえるのが難しい。僕はなんと言っていいのか、言葉に窮してしまった。しばらく沈黙してしまった。視線を外してしまった。

 そのとき、左手が温かく柔らかいものに包まれた。はっとして見ると、星野さんが私の手を握っていた。

「今日1日、私、宮本さんの恋人として振る舞います。じゃあ、早速お花を見に行きましょうか?」

 女の子のほうから手をつながれるのは、初めてのことだった。私はそれだけで舞い上がってしまった。

「きれいですね」
「そうですね」みたいな会話をした記憶はあるが、ほとんど何を話したのか覚えていない。ただ、ずっと左手に星野さんを感じていた。


 あっという間に数時間過ぎた。気がつけば、もう日が傾き始めていた。

「もう夕方ですね。今日は楽しかったです。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそありがとうございます。あの、星野さん、また、いつか会ってくれますか?」

「機会があれば。でもこれから私、看護の実習もありますから。いつになるか、お約束はできません」

「そうですか。あの、星野さんには、好きな人はいますか」
自分でも何で別れ際にこんなことを聞いてしまうのか、我ながらアホだな、と思いつつ聞いてしまった。

「好きな人… …、私、宮本さんのこと好きですよ。嫌いだったら、そもそもここに来ていません」

「ありがとうございます。嬉しいです」

「でも、私、宮本さんとお付き合いすることはできません」

その言葉を聞いて、天国から地獄の底へ突き落とされたような気持ちになった。

それを察したのか、星野さんは言った。

「ごめんなさいね。宮本さん。私が宮本のさんのことを好きな気持ちに嘘はありません。ただ、私は、好きな人であればあるほど、お付き合いすることはできないんです」

「何でですか?好きな人がいたら、付き合いたいと思うものなんじゃナインですか?」
私は思わず、問い詰めるような口調になってしまった。

「お気を悪くさせてしまってごめんなさい。宮本さんのことは、大好きです。でも、これは仕方のないことなんです。楽しかったです。さようなら」

星野さんはその場から、立ち去ってしまった。私にはただ、その背中を見送ることしかできなかった。


「なぁ、山下。どう思う?好きな人とは付き合えないっていう星野さんの言葉の意味がよく分からないんだ」

「少なくとも、星野さんは宮本のことを嫌いというわけではない。一般論を言えば、恋愛より大切なもの、例えば、勉強に打ち込みたい気持ちが強いから、付き合えないみたいな」

「そういうことなら、俺だって理解できるんだ。ただ、気になったのは、星野さんの言い方だ。『ただ、私は、好きな人であればあるほど、お付き合いすることはできないんです』」

「好きな人であればあるほど、お付き合いすることはできない、かぁ。どういうことだろうね」

「わかるような分からないような」

「一般論なら、言えそうなことはあるけど、言葉の真意は、星野さん本人に聞くしかないんじゃないか?電話してみれば?」

「いや、実は、星野さんの連絡先は何も知らないんだ」

「じゃあ、どうやってデートの連絡をしたんだ?」

「あのコンパのとき、会う場所と時間のメモを渡しただけなんだ」

「そうだったんだ。じゃあ、星野さんの通う看護学校に行って、学生さんに聞いてみるしかないか…」

「それも少し考えたけど、そこまでするのは星野さんに悪いような気がして。追っかけ回してるみたいに思われても嫌だしな」

「宮本は星野さんのことを、本当に好きなのか?」

「好きは好きだ。ただ、今はよく分からない。またいつか、会えたらいいな、とは思っている」

「まぁ、今すぐじゃなくても、そのうちどこかで会うんじゃないだろうか?」


 それから、宮本とは、たまに一緒に飲んだり、冬にはスキーに行ったりして遊ぶことはあったが、星野さんのことは一切話すことはなかった。

 宮本が星野さんのことを今でも気にしていることは間違いないのだが、あえてそれに触れる必要はないんだろうと思っていた。

 そもそも、大学生だからと言って、恋愛しなくはならないなんて、誰が決めたことなんだろう?
 「彼女、彼氏がいないと寂しい奴だ」という風潮はおかしいのではないか?

 とはいえ、私も人のことは言えない。経済学部は、「ヒマケイ」なんて言われる。実験があるわけじゃないし、勉強らしい勉強をしなくても卒業はできるから。だから、暇なクセに彼女がいないと、そうとうモテない奴なんだと思われてしまう。形だけでも「彼女」みたいな人を作ろうとする野郎は多かった。くだらない!

 別に恋愛なんかしなくても、私も宮本も、それなりに充実した学生生活をおくっている。それでいいではないか?


 クリスマスになった。もう学校は休みに入っていた。私と宮本は当然のように、二人でクリスマスを過ごすことになった。

「山下、男同士で、クリスマスケーキを分け合うっても、なかなか楽しいだろ?」

「まぁ、一人で過ごしている男も女もいる。こうやって、誰かとともにクリスマスを過ごせるっていうのは悪くないよな」

「ところで、山下はいつ実家に帰る?」

「明日以降。特にちゃんとした日程は決めていない。大晦日より前に帰ればいいかなぁ、みたいな。で、宮本は?」

「家に帰るのは、いろいろ面倒だから、このまま、こっちにいようかなぁ、と。実家に帰らない年があったっていいだろうと」

「そっか。それも悪くないね。一人ゆっくり考え事するのも悪くない」

他愛ない会話をしていたら、いつの間にか朝になった。

「じゃあ、また来年な!」とお互いに言って、私は宮本を見送った。


 私はクリスマスを宮本と過ごしたあと、特に何をするわけでもなく、2、3日の間ぼんやりとしていた。
 今年も特に何事もなく、このまま、終わっていくのだろうと思いながら。

「家に帰るか。サークルの連中も、帰省しているし」

 私は、簡単な荷造りをして、明くる日、駅へ向かった。

「こんにちは。山下さん、ですよね」
振り返るとそこに、星野さんが立っていた。

「星野さん、ですね。お久しぶりです。元気にしていましたか?」

「はい、お陰様で。山下さんはこれからどちらへ?お荷物をもっていらっしゃるから、もしかしてこれから帰省なさるのですか?」

「はい、その積もりです。実家に帰っても特にすることもないのですが、年末年始くらい、親に顔を見せたほうがいいかなと思って」

「そうですか。そうですよね。ご両親を安心させてあげたいですよね」

「星野さんは?星野さんも、帰省するところですか?」
星野さんも、大きなバッグを肩にかけていた。

「いえ、私は… …両親は私が幼い頃に亡くなっています」

「そうだったんですね。悪いこと言ってしまいましたね。ごめんなさい」

「いえ、気にしていません。普通、こんなところで、こんな大きな鞄を持っていたら、そう思うでしょうから」

「どこかお出かけですか?」

「はい、少し旅に出ようかと」

「旅ですか?どちらへ行かれるのですか?」

「それは… …。あの、よろしければ、私と一緒に来ていただけませんか?」

「えっ?」

「驚きますよね。でも、誰でもいいというわけではないんです。2、3日の間、私に付き合っていただけませんか?」

 私はしばらくの間、星野さんの言葉の意味を理解するのに戸惑ってしまった。もしかして、私に恋愛感情があるのではないか?、と良からぬことを考えた。

「いや、それはちょっと。行けないことはないですけど、宮本に申し訳ないし。それに、恋人でもない男と女が泊まりがけの旅行をするというのも… …」

「山下さんって、真面目というか、義理がたいんですね。私は宮本さんとはお付き合いしているわけではありません。1度、デートはしましたけど。私が本当に気になっていたのは、実を言うと、山下さんなんです」

「えっ?それは初めて聞きました。驚いています」

「驚かせてごめんなさい。でも、本当なんです。あのコンパのとき、宮本さんと二人きりにされて…。でも、宮本さんと親しくしていれば、山下さんにまた出会えるような気がして。花センターのときも、ひょっとしたら、宮本さんと一緒に、山下さんも来るような気がしていたんです」

「いや~、さすがにそんなことはしません。宮本と星野さんのデートを邪魔することになりますから」

「それで、宮本さんは何か私のことについておっしゃっていましたか?」

「はい、ザックリとしたことは聞いています。宮本は、星野さん、あなたにフラれたと思っていますよ」

「フラれたも何も、私と宮本さんはお付き合いしているわけじゃありませんかろ。付き合ってもいないのに、フルとかフラれるとか、そういうことにはなりませんよね」

 星野さんの言葉に、私は戦慄した。この人は何を考えているんだろう?
 宮本に対して、その気があるようなことを言っておきながら、その一方で私にも気のあるような素振りをする。私はわけが分からなくなっていた。


 その日の夜、私は実家へ帰省することはなかった。今、となりには、百合子が裸で眠っている。
 宮本に対する裏切りの気持ちはある。しかし、こうなるより仕方がなかったのだ。



(聖女のlabyrinth | 第1話 | 天使か悪魔か)
つづく…



 


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