見出し画像

「大人電話相談室(ИНКラジオ再放送)」

作者の言葉

 わが主人公、絵路岡助平の伝説的ラジオ放送のことばを音声配信するにあたって、わたしはいささか戸惑いを覚えている。ほかでもない。絵路岡助平をわが主人公と名づけはしたものの、人間として彼が決して偉大でないことは、私自身がよく承知しているからだ。

 こんな下らない前書きは余計だという意見に、私もまったく同感だが、すでに書いてしまった以上、このまま残しておくことにしよう。

それでは、本題に移ろう。


 その夜、私は疲れきっていた。1ヶ月もリピートして同じ曲を聞いていたから、気分転換のために久しぶりにИНКラジオを聞いてみることにした。

 きょうはいつもより、ゆっくりと移り行く景色を楽しみながら、事故を起こさないように安全運転している。

「秋休み特別企画、大人電話相談室の時間です。きょうは普段大きな声では話せない大人の方々のお悩みをお寄せください」

 つけたばかりのラジオから、女性アナウンサーの声が聞こえてきた。ちょうど番組が始まるところだった。

☎️☎️☎️☎️☎️

「もしもし」

「もしもし、大人電話相談室です。あなたのお名前とお悩みを宜しくお願いします」

「名前は勘弁していただきたいのですが・・・・・・」

「あ、そうでした。子供ではなく、大人電話相談室ですものね。不慣れなものでして。では、源氏名とお悩みを聞かせていただけますか」

「あ、はい、アラフィフ女子のかな子、略してかな子です。わたし、暇なとき、どうしてもエッチな妄想をしてしまうんです。どうしたらよいか、ずっと悩んでいまして。」

「では、きょうは世界のあらゆる言語をきわめた、言語学者の絵路岡助平教授にお答えしていただくことにしましょう。絵路岡教授、宜しくお願いします。」

「ご紹介いただきました、絵路岡助平です。まず、最初に結論を言ってしまいますよ。アラフィフの女性、と申しますか、すべての人間は極めてエロいものなのです。エロは自然なり、エロに帰れ!とよく言われますね。自分を責めないでいただきたい。

 そもそも、『性』という字がございましょう。。『りっしんべん』に『生きる』と書きます。つまり、人はエッチをしなければ生きていけないわけですな~。これはきわめて重要なポイントです。まず、この事を肝に銘じて下さい。

 また、英語のアルファベットもですね、愛( I )の前にちゃんとエッチ( H )を配列しとるわけですな。わかりますか?そこんとこも重要なポイントですわな。

えー、びー、しー、・・・じー、

エッチ、アイ、・・・
かな子さん、リピート、アフター、ミー」

 ここで、アラフィフのかな子さんが、答えた。

「じー、エッチ、アイ」

再び、絵路岡教授が答える。

「少し、声が小さいが良しとしましょう。ところで、ここで、周期表も思い出してご覧なさい。元素記号も『H』から始まります。ついでに、エロの語源となったギリシア語のエロスとは、恋い焦がれるということを意味します。

 愛と一言で言っても、エロスのほかに、フィリア、敢えて言えば友愛、そして、アガペーとは、神の愛を意味します。愛とは、艱難辛苦を乗り越えてきわめていけば、神の領域にまで辿り着けるものなのです。だから、日々のエロい妄想を愛してください。1日1エロ。すべてのエロは、1日にしてならず。エロにいってはエロに従え。すべてのエロはアガペーに通ずる。何もかもなくしても、エロを捨ててはならない。断エロは身を滅ぼします。わかりましたか?かな子さん。」

「まったく、分かりませんでした。明日、カウンセリングに行ってきます。ありがとうございました、この、どスケベおやじ。」

 ここで、番組が突然終わってしまった。なんだったんだろう、と思っていたら目が覚めた。

 なんだ、夢だったのか。

この記事が参加している募集

noteでよかったこと

恋愛小説が好き

記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします