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KLOKA 矢島沙夜子さんインタビュー 前編


地域から新しい価値を生み出す、個性豊かなおみやげを紹介する書籍『おみやげに選びたい! ときめくローカルパッケージデザイン』。本書に掲載されている小楽園の「山菓子」を手がけたデザイナーの矢島沙夜子さんにデザインのこだわりやコンセプトなどを伺いました。



幻の地で出されるごちそう

――雑誌やお店、動画など色々なお仕事を手掛けられていて驚きました。知っているものがたくさんあって、これもKLOKAさんなんだ、と。まずは山菓子について、ユニークなこの作品がどのように生まれたのか教えてください。

小楽園というお店を始めるにあたって、どういったものを作ろうかなというところから始まりました。昔からいろいろな活動を通して作品を作っていて、もう一つの物語世界、架空の地、幻の里……ユートピアとか楽園とか、いろんな言い方あると思うんですけど、そういう世界を表現したいと考えていました。

小楽園ができる前も、1年に1回だけバレンタインの時期にテーマを決めて、チョコレートにまつわるイベントに近いようなことを何年かずっと続けていたことがあって、それが食を絡めた作品の発端です。世界観を表現するにあたって、食という要素が加わると、すごく広がりがありました。ビジュアルや映像もありますけど、いろんなものをもっと複合的に表現できる媒体としてはすごく面白くて、食にまつわる表現をしたいと思っていました。

架空の地を表現するために何ができるだろうと思った時に生まれたのが小楽園で、幻の地、おとぎ話みたいな世界観なんですけど、そういう世界は意外とテキストで描写されていません。幼少の頃からそういうものに対してもっと肌で触れて感じたいと思っていてその延長線上で表現したいなと考えました。日本=FarEast なので、シルクロードから行き着いたいろんな国や文化が日本のどこかに漂着してふっと出来上がった幻の里というコンセプトでこのお店を作りました。日本のどこかにあるかもしれない桃源郷で出されるご馳走ってどういうものだろうと考えるところから始まって、普通のかわいらしいお菓子だけじゃなくて、やっぱり日本の何かを使った、けれどちょっとこの世ならざるものを考えたいと思っていて。こういう場所に集まる、例えば八百万の神様とか人間ならざる者たちが、人間世界をちょっと見下ろして、なんかこれかわいいね美しいね、と。私達が月を見上げて月見団子を作ったり花をモチーフに練り切りを作るのと同じ感覚で、山を上から見て山かわいいね、お菓子にしてみようかっていう情景が思い浮かんで、ちょっとおとぎ話的なコンセプトから俯瞰的に見た日本らしさを表現したのがこの山菓子です。

元々山を美しいと思ってたんですけど、飛行機から見下ろしたような地形の美しさを日本の新たな角度から見た美しさとして表現したくて。この山菓子は、日本の実際にある山の地形データを元にお菓子に模って作っています。


――正確に反映されているのですね。

そうです。国土地理院に所蔵されている地形データをお菓子にできるように標高を合わせてモデリングをして、3Dプリンターで出力したものを原型にしてお菓子にしています。

――3Dプリンターまで使っているのですね。

3Dプリンターは試作に向いているので使っています。それと山菓子はその山の地域の特産物を中に入れて、真剣にその山の味を表現しようとしています。山好きなんですか?と言われることがあり、山は好きなんですけど、物語の中に登場するお菓子を考えるところから始まったのが実際のところです。

――物語が矢島さんの中で出来上がっていて、それを落とし込んだのでしょうか。

そうですね。私はディティールから考えることが多くて、その世界で何が食べられるとか、どんな匂いがして、どんな洋服着ている人達がいて……そこから一部分を出すみたいなことを昔から結構しています。グラフィックを考えるときも日本だけどちょっと日本じゃない、逆輸入したような日本、シルクロードから渡ってきた中国や台湾、タイ、インドなどいろんな要素をミックスしたオリエンタルみたいなものを表現したくて、そういうものを意識してパッケージを作っています。

――世界観設定が素晴らしいです。登場人物一人一人の設定がされていそうなくらい。

そうですねそれを想像するのが、好きが高じてっていう感じです。

――おとぎ話は特別なインスピレーション元としてずっとご自分の中にあったのですか?

はい。民話や古い説話が昔から好きで、異世界や架空の地に対して漠然と潜り込みたいと思っていました。ふとした瞬間に現れて振り向いたらもう辿り着けなかったような表現が昔話によくあって、そういうものを作ってみたかったです。

――お店に入った瞬間に体感できました。

嬉しいです。本当は森の奥とか、ボートじゃないと行けないような場所を作りたかったんですよ。意外と街中なんですけど。そういう気持ちでお店も考えたりしています。

――外の草、あれも本物ですか。

本物を織り交ぜています。めちゃくちゃ日当たりが悪いので、造花も使っているんですけど、今育てています。鬱蒼とした中に埋もれているように作りたいんです。

――山菓子のパッケージについて、こだわりはありますか。

日本の山を忠実に模してはいるけれども中身はチョコレートで、西洋の要素もミックスして作っているので、時代や文化、歴史をミックスしたデザインを心がけています。現代の和食や和菓子はちょっとモダンなものが多いというか、好まれますが……。

――最近の流行りはそうですよね。

基本的にそういうものが好まれるんですけれど、日本のちょっと装飾過多な部分がデザインとして面白いと私は思っています。例えばデコトラとか日光東照宮とか神輿文化みたいなのがあるじゃないですか。そういう日本のデザインを私は取り入れたくて、それをミックスしていくと逆に外から見た日本っぽさが出てきたりするので、試行錯誤して結構いろいろ考えました。

――デザインのインスピレーションの元、デザインソースになっているものはありますか。

日本の明治時代にお茶のラベルを輸出していた時期があって、蘭字と言われるジャンルなんですけど、日本のお茶の農家さんたちが一生懸命日本の魅力を伝えようと思って作った外国向けのラベルがあって、それが発端です。今見るととってもエスニックで素敵。別に舞妓さん入れなくてもいいだろうってところに入ってたりするんですけど、それがすごく面白いなと思って。その辺はイメージソースにしましたね。

――確かに。彷彿とさせる感じがあるかもしれないですね。

富士山だけど、いわゆる富士山って感じじゃない何かを持ってきたかったので、幾何学模様を使うときも、なるべく日本すぎないようにちょっとアラビア文様を使ってアレンジしたり、モチーフの桜もミックスして使っています。ちょっとイスラムっぽかったり、アラブっぽかったり。アラブ系のデザインって結構、実は占星術が元になっていたり幾何学形態が使われているものが多いので、未来感というか、時代がよくわからない感じを取り入れたいなと思って。あとはおもてなしを受けて玉手箱のように持って帰ってもらう箱をイメージしているので、華美な、仰々しいものを持って帰るみたいなイメージとして元々ありましたね。

――デザインスケッチを見せてもらいましょう。

紙で書いていた時期のものは小楽園のものじゃなかったり、ドールハウスを作っていた時期があって、ケーキを作るときに書いていたりとか。


これは最初にやったチョコレートの展示の印刷物ですね。錬金術をテーマにチョコレートを作りました。


こういう日本っぽい表現とかも私の中では繋がっているんですけど、この辺から日本らしい何かだけど日本じゃない、みたいなのは探っていました。


おもてなし屋敷

小楽園の前日談になるようなイベントを2019年にやって、この時に初めて桃源郷のおもてなし屋敷ってどんなだろうと考えました。お社っぽいおもてなし屋敷から入口にいるとか、日本の茶運び人形をモチーフに、自走して商品を運んでくれるプログラミングをしたんですよ。

――本当に動くんですね。

ルンバみたいに動いてお客様にお品をお届けするっていう、人間以外の何かが接客するお店を考えました。今はいるんですけどね。そのときのイベントの世界観を引き継ぐ形でこのビジネスを考えました。

――一本映画ができそうですね。

そういう気持ちで考えるようにしています。魔術をテーマにした時は、アトリエに遊びに来たお客さんが好きな魔法のアイテムを箱に詰めて持って帰りました。遊びに来ていただいて、食体験をして帰っていただくっていう。バレンタインの時は毎回テーマを変えてやっていました。これは人魚みたいなのを作って人魚の歌声をパール状にしたものを持って帰るみたいなコンセプトで造作がセットで選べるようなお店だったり。

――百貨店の催事のPOP UPですか?

昔原宿にROCKETというギャラリーがあって、そこで何か展示をやってほしいってところから始まりました。翌々年ぐらいから百貨店から声がかかりPOP UPとして催事をやり始めたんですけど、催事なので売上も気にしなければいけないなど色々あり、ちょうどコロナもあって、一旦イベントをやめて、原点回帰して、長く育てられるものを考えてやった方がいいんじゃないかなって。物語世界の中に入り込んで何かを食べたり体験してもらう流れで、小楽園という世界が一つ出来上がってきました。

――元々はお土産屋さんにしようと思っていたのですか?

結局、物語物語といっても、現実世界にいらっしゃるじゃないですか。狭間みたいな場所を作りたくて。桃源郷の一番端っこに出ているキオスクみたいな。お土産物屋さんに普通の人が寄って、何かを買って戻ってくる。入口的な感じのお土産物屋さんです。

――実際のお客さんはどんな方が多いですか?

外国の方が増えてきましたね。ここら辺はそんなに観光地ではなくて、何かを見てここを目掛けていらっしゃる方は最近すごく増えてきています。アンケートを取ると、この世界観を楽しみに来ていただいている方が多いです。でも近所のおばあさまがふらっといらっしゃってお茶だけ飲んで帰ったり、スポーツ新聞を読みながらコーヒー飲んでさらっと帰る方とかを見かけるのもすごく嬉しいです。元々老若男女様々な方をお客様に思い描いてお店を作っているので。


造形物としてのチョコレート

――実際にお店に立たれているんですね。

たまにしますよ。最初の方は接客もしていましたし、今でもキッチンに入り込んでレシピ開発をしています。

――デザイナーさんがレシピ開発までしているんですか。

あまりやらないのかもしれませんが……。ちょっと特殊なお菓子を考えてしまった時は、自分では作れないのでパティシエなどいろんな方に相談したことがありましたが、それは無理って言われることが結構多くて。実際の山の味を表現したい、もうちょっと山肌っぽくとか、製菓の領域外のことをお願いして無理をさせてしまって。もういっそ自分でやってみようか……と思い立って引き取ったところから始まりました。好きは好きなんですよ、食べるのも作るのも。でも別にプロではないので、試行錯誤しながら作っています。

――実際に作っているのですか?

もちろんです。去年は生産が全然間に合わなかったので私がチョコレートを作ったりしていました。ちゃんと衛生士免許も取って。

――すごいですね。

チョコレートって粘土っぽいというか、ちょっと造形物っぽいんですよ、実は。温度や粘性の扱いなどは、意外と工房のスタッフがうまかったり、デザイナーが色をつけたりとかはあります。面白いです。


近所の方に愛されたい

――小楽園はメディアにもたくさん取り上げられています。反響はどうですか。

私の想いや世界観に共感してくださる方ももちろんいるんですけど、お菓子なので、お腹が減ったからただ食べるだけでもいい。本来は物語や世界観などなくても別にいいっていう媒体なんですよね。予想しなかったような人たちがいらっしゃったり、コメントされたり、そうじゃないのになって思うときもあるんですけど、それが逆に面白いです。いろんなところを見たりそれは違うと言ったりする場所ができたという意味で何か面白い。

――元々どういうお客さんが来るという想定はあったのですか。

忠実に山を調べて再現しているので山好きの方に来て欲しいっていうのは正直ありました。でも本当の意味での山岳店ではないじゃないですか。お店として登ることを推奨しているわけではない。そういう意味で山好き以外の方が来てくださるのはもちろん予想していました。世界観やパッケージ、ビジュアル的な部分に共感して下さる方、本当に山好きの方、あとは海外の方がこういう日本の表現やミックスされたオリエンタル感をどう思うだろう、来てみていただきたいなと思いながらお店をオープンしました。

――外国の方はどのように反応されますか?

ツボにハマって全部買って帰られる方も結構いらっしゃいます。お店は7時までなんですけどこの間どうしても10時にお茶がしたいと言われて、お店を開けて団体さんを入れました。旅行中でその時間にしかお茶できないからって。

――熱烈なファンですね。

どの層にどう受けているのかまではまだ分解できてないんですけど。近所の方に愛されたいっていうのがまずあります。写真を撮るためだけの若い人向けのお店には全然したくない。そう見えちゃうのはもちろんで、あのピンク色のお店ね、みたいになっちゃうんですけど、そうじゃない部分をもっと伝えていきたいです。それもあって気楽に買えるものを増やしています。あそこに金魚の形のオブジェが下がっているんですけど、あれは鯛焼き型を金魚型で作って、それをワッフル風にザラメとバターで仕上げて、釜の中で焼いています。最近は12時の焼き上がりになると近所の方がまとめて来てくださったりしています。あと山菓子はチョコレートなので夏場はあんまり食べたくないものだと思い、あんみつやかき氷など季節の商品を増やしました。

――今後も季節に合った新しい商品を考えていきますか?

はい、どんどん増やしていきたいと思っています。秋はあんみつ、クリスマスはクリスマスプレートなど、いろいろです。

――それは通いたくなりますね。

山菓子は贈答品のイメージが元々あって普段使いの感じではないと思うので、色々なものを売っている楽しいお店にしたいと思っています。小楽園のお土産グッズを全部工房で作っていて、例えば今はクリスマスなのでオーナメントを置いています。提灯型のものはクリスマスとお正月どちらの飾りとしても使えたりして、そういうグッズから入ってくるお客さんも結構います。


(後編につづく)

撮影協力:KLOKA


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