詩「迂回」
心もとなさに気づかぬよう
ため息さえ殺して
温もりに魅入られぬよう
肌を刺す冷たさを
ありのままに全身でうけとめ
爪の余白を押し広げるうちに
あっけなく粉状になる甘皮の儚さを見つめ
時計からは目を背ける
透き通るような歌声に
思いがけず緩む涙腺
もう戻らない時間が流れ込む
画素の粗い記憶
うっかり焦点が合うまえに
音楽をとめて唇を噛む
これはベースコートが乾くまでの
小さな寄り道
色を薄く塗り重ねたら
輪郭を縁取るのも忘れずに
ほら、僅かな隙間から剥がれてしまうから
水晶の煌めきを含むトップコートは
その透明感とは裏腹に粘度が高く
しっかりと守ってくれる
積み上げたものをあっさり損なわぬように
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