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沢山の選択肢から選べるのは、嬉しいか?それとも面倒か?

カミソリの会社に勤めていた頃、
「ヒゲチェン」という企画に関わった。
これは、「ヒゲ」と「チェンジ」から
なる造語。
要は、自分の顔にどんなヒゲが
似合うかをシミュレーションできる
Webサイト。
「ヒゲチェンでイメチェン」
そんな感じのコンセプトである。

当時最先端の技術を駆使して、
自分の顔写真(2D)に1,000種類もの
ヒゲを合成、それを立体的(3D)に
確認できるという代物であった。

ヒゲを剃るツールであるカミソリを
売る会社が、なぜヒゲをはやすことを
推奨するようなサイトを作ったのか?
理由は単純で、カミソリのお尻のところ
にヒゲトリマーを合体させた新しい
カミソリを発売したのだ。
その販売促進のためのサイトを作り、
「ヒゲは剃るだけでなく、デザインする
時代」だと訴求をしたのである。

コンセプトは控えめに言って最高、
当時大人気だったチュートリアルの
お二人(徳井さんと福田さん)を
起用してTVCMまで制作したのだが、
割と短命に終わってしまった。

技術的に新しいことを採用したので、
維持を含めた費用がとても高くついた
ことが一つの理由。
このサイト自体が収益を生むわけでは
ないので、相当なPR効果が見込めない
限り、そもそも「ペイ」しない。
ミクシィは既にあったが、Facebookが
日本に上陸するか否か位のタイミング
だったので、SNSの爆発的な「感染力」
の恩恵を受ける前にサービス終了して
しまったというのもある。

そして、もう一つの理由。
それは、恐らく1,000種類という圧倒的な
ヒゲの種類の多さが、足かせになって
利用が伸び悩んだのではないかと踏んで
いる。
正解かどうかは検証していないが。

人は、「自分で選べる」、いわゆる
カスタマイゼーションが好きだ。
スタバや吉野家などのフードビジネス
はカスタマイズの機会が多い。
ナイキIDのように、自分好みのパーツを
えり好みしてオリジナルのシューズを
作るサービスも根強い人気がある。

しかし、これらの事例は、自らが好きな
味とかデザインを、お客様自身がある
程度分かっている。
これに対し、ヒゲチェンの場合は、
そもそも1,000種類もヒゲの種類がある
なんてことをお客様が知らない。
1,000という数字を見て、そんなに
沢山の種類の中から、自分が似合う
ヒゲを見つけるなんて大変!
そんな印象すら与えかねない。

人は、選択肢を与えられてそこから
選ぶのが好きである反面、選ぶのを
面倒くさがる動物でもある。
意思決定をするには、それなりに頭を
働かせなければならず、つい面倒に
なって投げ出してしまうというのは
よくあること。
「あなたに合うのはこちら!」
と推奨してくれる、自分が考える
代わりに決めてくれることもまた、
お客様の支持を得る秘訣となり得る
のである。

こんな昔話ネタを思い出したのは、
今日たまたま『販促会議』のサイトを
見ていて、シックのライバルでもある
貝印が、昨年11月に
「しっくり眉プロジェクト」
という施策を展開していたことを
知ったから。

規模感や男女の差異などあるものの、
自分の顔のパーツを、最も似合う形に
カスタマイズしたい!というニーズに
応えるサービスである点で、両者は
共通している。
ただ、貝印の眉のためのツール類は、
特に新発売ということではなく、既に
販売実績のある商品を使っていて、
あくまで既存品のPR事例だ。

お客様に意思決定を委ねるか、
こちらで決めるかの線引きは、
万全かつ細心の注意を払っていく
べきだと言えるだろう。

己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。