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『人を助けるすんごい仕組み』

あの日、自分は14階建てのビルの
14階、社内の小さな休憩スペース
にいた。
突如の激しい揺れ。
倒れそうになったエスプレッソ
マシンを咄嗟に押さえる。
「ついに来たか?!」
どこかにつかまっていないと、
立っていられない。

少しずつ収まってきて、
パニックになりそうだった心に
速やかに余裕が戻る。
まずは避難。
非常階段を使ってビルの外へ。
下へ行くとどんどん人が増えた
が、詰まって身動きがとれなく
なるようなこともなく、無事に
外へとたどり着く。

周囲のビルからも人が外に
吐き出されていて、妙なざわつき
をあちらこちらから感じる。

余震もあり得るし、地下鉄は
動かない、道路も大渋滞。
会社にとどまる選択をする人も
いたが、私は帰る選択をし、
帰る方向が同じ人たちである程度
かたまって、歩いて帰ることに
なった。
国道246号をひたすら厚木方面へ
歩いて歩いて7時間。
電車が動き始めたというので、
そこからは電車に乗ったが、
各駅で長時間停車をしながらの
文字通り「鈍行」、普段なら15分
のところを1時間以上かけて、
何とか地元駅にたどり着いた。

あれから早や9年以上が経った。
当時、募金や寄付の類は多少行った
が、ボランティアをするまでの
余裕はなく、そういう情報も
無意識のうちに遠ざけていたのかも
しれない。
つい最近、西條剛央さんのこと、
そして彼が成し遂げたことを知って
そんな思いを持ったのだ。

西條さんは、「構造構成主義」と
いう、一瞬頭がフリーズしそうに
なるような名前の学問を専門とし、
早稲田大学のMBAで最年少教員と
なった俊英。
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」
の創設者、リーダーとしてご活躍
された方である。

そんな西條さんの著書を、この度
初めて手に取った。
(といってもKindleだが)

ボランティア経験なし。
仙台ご出身なので、今回の被災地域に
思い入れがあるとはいえ、熱意だけで
巨大なボランティア組織を立ち上げて
マネジメントできるかと言えば、
相当難しいだろう。
彼が体系化した「構造構成主義」の
原理原則が応用されたからこそ、
そんな離れ業が成立したのだ。

この本は、簡単に言うと、彼がどんな
経緯でプロジェクトを立ち上げるに
至り、どんな思いを持ち、どんな思考を
働かせながら前へ前へと進んだか、
その過程が非常に分かりやすい筆致で
描かれているものだ。
「構造構成主義」についても、時折
説明が挟まれており、分かりやすく
具体例を絡めてくれているので、
理解が進みやすい。

一例を挙げると、

「方法の原理」に照らせば、プロジェクトの有効性は、
(1)状況
(2)目的
から規定される。

というように、原理原則をシンプルに
提示したうえで、まず(1)につき
震災後の悲惨な現場の状況を踏まえ
ない限り、言い換えれば具体的な
状況を肌感覚で知ることなしに、
プロジェクトは有効たりえない、
そんな具体例を挙げて理解を促して
くれている。

また、(2)の目的についても、
プロジェクトの活動が目的から
ブレないようにするためには
目的の共有が重要である、と述べて
いる。
「常に目的を確認する」というのは
至極当たり前のことであり、
それは西條さんも自ら認めている。
しかし、それを徹底できるかどうか
が最も重要なところで、徹底できる
人や組織があまりにも少ないのが
現状なのだ。
その目的確認を徹底した様子なども
生々しく記述されており、
「抽象と具体」
の行き来によって立体的に全体像が
頭に入ってくる、そんな感覚を
受ける内容である。

『ほぼ日刊イトイ新聞』の
糸井重里さんとの交流のきっかけや、
糸井さんがいかに氏を理解し、
全力でサポートしてくれたかと
いった内容を読んで、自分自身を
恥じた。
全くこれらの内容が、当時の自分の
アンテナでキャッチできなかった
ことに、である。
相当の露出があったに違いない
にもかかわらず、全くもって
自分の記憶に西條さんの名前も
「ふんばろう」プロジェクトの
こともなかった。

この本の中に、「契機相関性」、要は

「きっかけ」(契機)に応じて(相関的に)関心のあり方も強度も変わる

という原理の話も出て来て、
自分は「きっかけ」がなかったから、
関心の強度があまり高まらなかった
のかもしれない、と少しだけ
救われた気になった。

ちょっと長くなったので今日は
この辺にするが、この
「構造構成主義」
と呼ばれる考え方、今後少しばかり
追いかけてみようと思う。


己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。