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【長編小説】異精神の治し方「境界治療」.1
[異精神症]
患者の精神活動が現実に影響を与えるようになる奇病。
十二歳から十三歳の間で発病する。年間の発病者は三十人前後。
発病者は沼田記念学校への入学が義務付けられ、治癒期間が設けられる。
一般的に十九歳を迎える日までに完治すれば普通の生活に戻ることが許される。
ヤバい。考えるよりも先に身体が動いた。物理の法則みたいに、感情が入り込む隙のない見事な反射だった。
「カオル!」
私が
【長編小説】異精神の治し方「境界治療」.2
異精神者は沼田記念学校への入学が義務付けられている。
その薄汚れた校舎は、壁に囲まれていた。屋上から見ると、綺麗な円を描いているのが分かる。壁は三メートルの高さで、扉はついていない。この壁の存在理由は、二つある。
教壇に立っているリコが訊く。
「ここ、沼田記念学校が壁に囲まれている理由は、二つあるけど分かる?」
その質問は当然私に向けられたものだ。なんせ、この教室にはリコと私しかいない。
【長編小説】異精神の治し方「境界治療」.3
教室には、また私とリコの二人だけだ。まだ、自分が自分でいる事に驚くと同時に失望している。
「なぜだか分かる?」
リコが私に質問をしている。もちろん聞こえている。けど、答えが本当に分からない。
「知りません」
「だから、それを知らなくちゃいけない」
「そんなこと言ったって」
どうしたらいいのだろう。
オアシスで二人のキスを見た後、私は物質化してしまうのだと思った。私がカオルを好きなら、そうな
【長編小説】異精神の治し方「境界治療」.4
「起きてください」
誰だろう。私を揺すっているのは。
薄く目を開けてみると倒れているリコが見えた。私は眠ってしまっていたようだ。
「リコ!」
立ち上がってリコに近づく。反応はない。
「え、大丈夫? 大丈夫?」
声をかけながらリコを起こそうとする。
「えっと、あんまり揺らさない方が……」
男の人の声がした。
「誰?」
私を起こした人がそこに居た。同い年くらいの男の子だ。どこの学校の服だろ