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結婚してから纏う婚活リップ

「誕生日プレゼント、何か欲しいものある?」

まだ20代だったあの頃。
ちょうど化粧ポーチを無くしてしまったわたしは、欲しいものを聞いてくれた同期に、リップをリクエストした。

同期がプレゼントしてくれたのは、通称「婚活リップ」
エスティローダーの01 クリスタルベビークリーム という、ヌーディーで上品なピンクベージュの色だ。
使うと恋が叶うらしいと、当時話題になっていた。

同期は、わたしの雰囲気をお姉さんに伝えて買ってくれたらしい。
名前も刻印してくれた、わたしだけのリップ。
それを手にしたときは、ときめいた。

でも、当時はあまり使うことがなかった。
その頃のわたしには、色が薄くて目立たないと感じてしまったのだ。
唇にのせると存在感がなくなるそのリップは、いつのまにかポーチの奥底に姿を隠していった。

つい最近、ふと、その婚活リップがポーチから現れた。
これからオンラインで予定があるから、マスクに着く心配はない。
なんとなく、再びそのリップを唇にすべらせてみた。

あれ、なんだかちょっと、おしゃれかも。

鏡にうつった、ショートヘアになった30代のわたしに、その色はとても馴染んだ。
主張はしない、自然な色なのに、なぜか唇に目がいく。
ちょっと色っぽく見える。

20代とはちがう大人の色気が、わたしにも出てきたということだろうか。
それとも、大人の上品さがわかる歳になってきたということだろうか。

結婚してから婚活リップの魅力に気づくなんて。
なんだかおかしかったけれど、明日の夫とのデートには、この色を纏おう。

似合わなくなることを嘆くより、今のわたしに似合うものを見つけて、心をときめかせよう。
そんなふうに、歳を重ねたい。

デート当日。夫は眠気に抗えず、昼過ぎまで二度寝、三度寝と繰り返している。
わたしは婚活リップを唇に纏わせ、映画デートの準備は万端。
リップの魔法でちょっと大人になっているわたしは、気長に待つとしよう。

さて、いつまでこの魔法は続くだろうか。

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