見出し画像

読書記録「愛なき世界」*三浦しおん

散歩が日課になり、道端の植物が気になりはじめたので、図書館で植物をテーマにしたコーナーにあったこの美しい装丁に惹かれて手に取った。

三浦しおんさんは舟を編む、神去なあなあ日常、まほろ駅前多田便利軒、など、味わいあるキャラクターとテンポの良い会話、クスクスと笑える中に時折じんわりとくるエピソードを交えるのが得意な作家さんだと思う。
エッセイもなかなか面白く、割と好きな作家さんである。

円服亭という洋食やさんの住み込み店員藤丸くんが、東大らしき植物学専攻の大学院生の本村さんに恋をして、研究室の院生たちと交流していくお話。恋愛ものかと思いきや、ラブ要素は少なめで、藤丸くんと研究室の愉快な仲間たちのひたむきでクスリと笑えて所々じんわりする物語といった方がよいかもしれない。
まず、主人公の藤丸くんがいい。
若さゆえの突っ走り感を持ちながらも、カッコつけずに気持ちをストレートに表せて、そうっすね、とか、おれにはよくわかんないっすけど
、と言いながらも実は誰よりも感性が鋭くて、それでも嫌味がなく、愛されキャラである。
そして、藤丸くんが恋する本村さんは恋愛より植物愛、な故、研究の進退に一喜一憂し、真っ直ぐだけど時々ズレているところが可愛らしい。
研究室の先生や院生たちもそれぞれ個性的でキャラが立っており、読んでいるうちに、まるで自分もそこにいるような錯覚に陥いってしまった。
研究室の松田先生のエピソードも、わちゃわちゃくすくすなだけでない、深みを持たせる場面になっている。
身内の院生に聞くと、分野が違うからなー、と
割とそっけない返事が返ってきたものの、
ある種のオタク魂を持ってる人には
結構わかる世界観なんではないだろうか。

生物系の本が好き、植物も興味深い、身内に院生がいる、何かに夢中な人にうんうん、と惹かれる。そんな私にとって、今まさにビンゴ!な本だった。
読み終えたら、私も藤丸くんのように、研究者の世界をちらりと覗きたくなった。

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?