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好きなことを本気でやったら

 私には姉妹がいないので、四姉妹のわが子たちの歯に衣着せぬ言葉にドギマギする時がある。妹たちが憧れて常に愛を示すも長女は時に厳しくこけ落とす。その日は、高1三女ヒヨとお風呂に入っていたら長女が入ってきたのだ。

 三女ヒヨは5人きょうだいの潤滑油と言われてきた。しっかり者の姉二人と、我が家のちびーず下二人の真ん中で、周りの主張をスポンジのように受け止める。いつでも機嫌がよく主張も強くないのでよく存在を忘れられる。絵を描いてもピアノを弾いても新体操を習っても、パッとしたことはなく、本気に打ち込むことも悔しがることもなく「ぬるま湯」のように漂って生きる子どもだった。

 その三女が中2の時、ある事件が起こる。

「オーディションが受けたいです!!」

と書いた紙を母が偶然彼女の机の上に見つけたのだ。
母は衝撃を受けた。そんなことを考えていたとは。かくして、三女は歌もダンスもできないのに、ミュージカルオーディションに挑戦する。その3か月後、プロの方たちと一緒に、県立文化劇場の大舞台で小さな役ではあるがセリフもいただいて初舞台を踏んだのだ。

彼女にとってそれは人生を変えるほどの出来事だった。
自信をつけたのか、生徒会長、英語スピーチコンテスト入賞、そして半年後、ソロを含んだ役でさらなる舞台に出演。姉二人の影で「ぬるま湯」と表現された三女は、いつしか母と姉二人の背もぬき、堂々と舞台の上で演じる少女になっていた。

ミュージカル女優になりたい

昔の彼女を知ってる人なら冗談だとしか思えない。でも、三女は本気だった。中3になるのに塾ではなくバレエを習いたいといい、踊りながら難関進学高校に合格した。

高校は想像以上に勉強や課題が厳しく、週に4,5回レッスンに通う三女には課題がこなしきれない。姉二人では見たことのないとんでもない成績を1年間とり続けた。といっても、小さい頃から歌やダンスのレッスンを重ねてきたメンバーにそう追いつけるものでもない。勉強も夢も大きな壁が立ちはだかっていた。

「勉強もミュージカルも、生活すらもフラフラになってるようで、お姉さんから見るとどうですか」

と長女に話をふってみた。
長女は今3月の三女がメインキャストを務める公演にアンサンブルとして参加している。長女はしばらくしてから話しだした。

「うまいのよね、ヒヨ」

「え?」

「すっごくうまいのよ、歌もダンスも。そりゃ、周りはみんなプロみたいだけど、2,3年前のあのヒヨを知ってたらもう、別人なんじゃないかってくらい、めちゃくちゃ上手いのよ。ソロとかもバンバン歌ってるし。すごく上手い」

そう、3月の公演では、三女は最後にキャスト紹介される主演に近い役をいただいたのだ。


「ヒヨを見てたら思ったんだよね。
好きなことを本気でやったら、ほんとに何でもできるんだなって


三女と私、ちょっと黙ったよね。

「だからさ、何か必要やなって思って本気でやったら、ヒヨはきっとめちゃ勉強もできるで。逆に言えば成績がずっと底辺なのは、よっぽどいらんと思ってるだけ(笑)」


全力でメインキャストを演じる妹を、アンサンブルの姉が後ろからそんな風に思いながら見ててくれたのか。

小さい頃、いつもスポットライトがあたっていたのは長女。学校では「神」と呼ばれてどこでも何でもやり切る人。今の長女はまだ自分の未来がはっきりは見えないみたい。好きな事に突き進む三女を長女なりに後ろから見守ってくれているのかなあ。だから、妹たちは時にイケズなお姉ちゃんでも大好きなのかなあ。

三女ヒヨがメインキャストを務める3月のミュージカル公演。今回は四女もサブメインキャストで出演します。諸事情あり、こんな大きな役をさせていただけるのも今回が最後かもしれないので、しっかり目に焼き付けておこうと思います。

「モンキーパラダイス」2021/8 兵庫県立芸術文化センター
前回公演には家族6人で出演


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